ひと時毛先から雫が落ちるのを視界の端で捉えながら、頭にかぶったタオルで頬を伝う湯を拭う。
僅かに腰が重く感じるが、それよりも燻るような熱を吐き出して気怠さとともにスッキリと冴えたような感覚に一つ息を吐き出した。
下着とズボンのみを身に着けてエンカクには少々手狭なバスルームから出れば、ベッドの上では細い人影がニコニコと笑みを浮かべてハーフホールのケーキを摘まんでいる。
持ち込んできていたのは見ていたし、勝手知ったるなんとやらとばかりにオペレーター用の部屋に常設されている冷蔵庫へと入れているのも見ていた。
ベッドでのコトを済ませ、うるさいからと先に身を清めてベッドへと戻した相手が、まさか事に及んだ痕が残るベッドでケーキを食べているとは思うまい。
思った心のままが顔に出ていたのだろう。
エンカクに気づいた視線が緩む。
そのまま無言でベッドへと近づき、頬に着いていた生クリームを指先で拭った。
ありがとう、と礼とともに指先の生クリームを伸ばされた舌先が攫って行く。
その仕草に漏れそうになる溜息を飲み込んで、髪を拭きながらその隣へと腰を下ろした。
「なんだ、まだ元気そうじゃないか」
「ンぐ・・・・・・、元気が切れたからエネルギー補給してるんだけど?」
「指で?」
「フォーク探すのめんどくさかったんだって」
腰も怠いし。
言いながら、指でつまんだ生クリームとスポンジを一口分摘まみ、口へと運んでいく。
咀嚼し、指についた生クリームを舐めとる姿を眺める。
不意に沸いた衝動のままに、摘まみ上げた最後の欠片を、その手を捉えて奪い取った。
「あっ!私のケーキ!」
「・・・・・・なんだこれは」
「そんな険しい顔をするなって。美味しいだろ?有名なケーキらしい」
「甘すぎる。医療部にチクるか」
「やめろやめろ!私の限りある安らぎのひと時を!本当はホールで食べたいのを我慢しているのに!」
「我慢・・・・・・?」
我慢とはいったいなにを指して言っているのだろうか。
一瞬考えようとしたが、すぐに無駄だと悟り思考を放棄する。
なによりも、人のベッドで食いながら威張ることじゃないだろうに。
空になった皿をベッドヘッドに置き、最後の欠片をエンカクに奪われたのを寝に持ちながら指に残る生クリームを怒りながら舐めている。
その器用さに呆れ、そして意地汚さにも呆れながら一応「俺のシャツを汚すなよ」と釘をさしておいた。
髪を拭いていたタオルを生クリームに汚れた手に手渡し、エンカクはシーツを変えたばかりのベッドへと横たわる。
ルームライトの照明をオフにしながら、エンカクのシャツを纏った細い身体がそれに続く。
「君の起床に合わせて起こしてほしい」
「・・・・・・」
「ということで、おやすみ」
いうが早いか、エンカクの腕の中で寝息を立て始める相手を眺め、ため息のような深い息を吐き出した。
常々を「警戒を怠るな」と告げていてもこれだ。
このままベッドから蹴落としてやろうか、とも思うがあとが面倒でやめた。
今はこれ以上考えるのも億劫だとばかりに目を閉じる。
精々枕替わりにでもなれ、とばかりにその痩躯を抱き寄せて、エンカクもまた束の間の休息に意識を沈めることにした。
夜明けまであと3時間。