学パロ「ごめん、待たせたね。」
教室のある3階から急いで駆け下りてきたのだろうタルタリヤが、
ほんのり汗を滲ませながら 履きかけのスニーカーをトントンと鳴らす。
「もう終わったのか?」
「うん。それにしても、毎日待ってなくても良いのに。」
そう言いながら扉を開けて外に出ると、肌を撫でる風が心地よい。
運動部の掛け声や、楽器の音。
校内はまだ、活動している生徒たちのおかげで賑やかだ。
「…俺が待ちたいから待ってるんだ。」
「ん、ははっ 嬉しいけどね。どこで待ってるのか分からないから、この時期暑いし倒れてないか心配だよ。」
困ったように笑うタルタリヤとチラリと目を合わせて、
ははっ と至極楽しそうに笑うだけだった。
手が触れそうで触れない距離感を保ちながら肩を並べて歩く。
2人の関係は、知っている人だけが知っている。
学年の違いを判別するものもなく、校門を出てしまえばそんなものはどうでも良いことで、
肩を並べて歩く2人のことなど、たいていの生徒には知る由もない、ただの平凡な日常だ。
最近になって綺麗に舗装された歩道を歩きながら、
普段ならあの先生がああだとか、文化祭の予定だとか、喋る話題は尽きないのに、今日はやけに鍾離せんせーが静かだななんて、ぼんやりとタルタリヤは考える。
「好きなんだ。」
突然口を開いたかと思えば、その頬を赤く染めて、じっとタルタリヤの目を見つめる。
「何が?」
何のことだか分からない、と頭の上に疑問符を並べるタルタリヤに こう続けた。
「いつも待っているのは…お前が頭を抱えながら、悩んで、考えて、何かに気がついて…百面相しながら真剣に取り組んでいる時のお前を見るのが、」
「え? いつも見てるの!?」
「いつもではない、たまに廊下から。」
「はっず!!!」
どうやら言おうか言わまいか悩み、タイミングを見計らっていたためにいつもより口数が少なかったらしい。
内心、こんな事を本人にいう方が恥ずかしい なんて思いながら平静を装おうとするけれど、耳まで赤く染まっている。
二人揃って顔を赤くしながら、夕焼け空の下を歩く。
タルタリヤは決して、勉強ができない訳では無い。
どちらかと言わずとも成績は優秀で、常に定期テストでは一桁の成績を納めている。
だがそれは、生まれ持った才能等ではなく
彼の向上心による、並々ならぬ努力から来るものだった。
彼が憧れている人物がどんな者かはわからないが、
どうやら目標にしている人が居るらしい。
その背中を追うために、全ての授業が終わったあと
何がわからなかったかを洗い出し、教科担当を捕まえて質問をして、理解出来るまで文字の羅列と睨み合っている。
そこまでしなくても…とか、俺も教えれるのに…、とか、
思うことは色々あるけれど、
目の前にある課題に真剣に取り組むその姿勢を見るのが好きで、
彼の納得できるやり方を
鍾離は密かにずっと、応援していた。
あと半年で、自分は卒業して地元を離れる。
その後のことはどうなるか分からない。
この関係も、終わってしまうのかもしれないな。
なんて事をよく考える。
いつか振り返った時 今の2人の関係を思い出して
子どもだった自分たちの過ちだったと感じるのか
綺麗な思い出だったと思えるのか分からない。
けれど、今あるのは ひとつ学年が下のこの少年を
目に焼き付けておいて、忘れたくない という気持ちだった。
別れのことを考えて、ほんの少しだけ感傷的になりつつあったのを振り払うように、
「寄り道していこう。」と笑った。
「いいね、どこにしようか。」
真っ赤に染まった空の下、
笑いあったふたりを見ている者は誰も居ない。
きっと、一瞬だけ頬を撫でて どこかへ行ってしまう風のように、永遠には続かない、儚いものなのだろう。
けれど、その風が心地よくて切なげに笑う。
そんな鍾離の気持ちを知ってか知らずか、
タルタリヤは「誰もいないからいーでしょ」なんて手を握って、
「アイスたべよー」と言って、
あの数字の名前のアイス屋がある方向へ、鍾離を引っ張っていくように歩き出した。