【英智+零】プリティ5スト「君がこの時間に部屋にいるなんて珍しいね」
「おや、おかえり」
ただいまと返して鞄を定位置に置きながらちらりと横目で見る。夜に活動的になる零は、この時間たいてい仕事に行っているか寮に居ても階下でみんなと戯れているか。自室に籠っていることはあまりない。ソファに腰かけて読んでいるものは書類でも台本の類でも無さそうだから本当に単純に、今日は部屋で余暇を過ごしているということなのだろう。
コートをハンガーにかけて振り返るといつの間にかこちらを見ていた零と目が合った。
「何?」
「白鳥くんと一緒じゃなかったのかえ?」
「ユニットの子たちに用があると言って階段で分かれたよ。明日の確認だけと言っていたからすぐに戻ってくるんじゃないかな?……どうして僕が彼と一緒にいたことを知っているんだい?」
「ふふ」
「発信機や盗聴器が付けられていないことはちょくちょく確認してるはずなんだけど」
「失敬じゃのう。そんな低俗な物は使わぬよ、天祥院くんと違って」
「それこそ心外だなぁ。僕も君には使ったこと無いよ?」
「それはよかった、安心じゃ」
ふふふと互いに笑みを浮かべながら英智はすとんと零の隣に腰を下ろす。その行動は予期していなかったのか少し驚いたように零の目が見開かれたことに英智は悦びを感じた。
零の方はどうだか知らないが、英智はこんな会話が嫌いじゃない。こんな、殺伐としているようで言葉遊びのような会話が出来る相手などなかなかいない。ましてやそれを"軽口"として扱ってくれる相手なんて。だから零との会話は楽しかったし、その零の虚を突くことで素の表情を見られるのも喜ばしい、なんて思っていたのだけれど。
「盗聴器じゃないなら朔間くんは蝙蝠でも飛ばすのかな」
揶揄うように続けた言葉は余計だったのかもしれない。
「そうじゃのう、我輩には使い魔がたくさんおるからの。天祥院くんが偉そうにプリティ5の子たちに説教をしていたことも知っておるよ」
手にしていた本をぱたんと閉じて、零が英智の方を見た。
「……本当にどうして知ってるの」
今度は自分の方が予想外、いや予想以上の事を言われて動揺してしまう。並大抵の人にはわからない程度の動揺を目に浮かべただけだったけれど、零にはきっとお見通しだろう。
「甘やかすことだけが愛じゃないでしょう。今回みたいなことがあったら彼らだけじゃなくアイドル全員に影響を及ぼしかねない」
「別に責めてはおらんのじゃが?」
実際に零は責めるような表情でも口調でも無く、どちらかと言えば慈愛の表情を浮かべていてそれがまた一層腹立たしい。
「おぬしの言い方ややり方は気に食わんことがほとんどじゃが、間違ってるとも思っとらん。嫌われ役を買って出るのは損な役回りじゃなとも思っておる」
「驚いた、君に同情される日が来るとは思ってなかったよ」
「同情なら昔からよくしておるが?可哀想にと言ったじゃろ」
くくくと喉で笑って手にしていた本をまた開く。
「同情はしばしばしておるが今はしておらん、そう見えたなら誤解じゃ。今はもう、そう簡単に同情されるような柔な存在じゃなかろ」
そう言ってまた読書を再開した零に、英智は腹立たしいのか嬉しいのか自分の気持ちがわからないまま取り残されてしまい。
本当に、僕は君の事が嫌いだよ
心の中でだけ呟いた。
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そして帰ってくるあいらくん。
英智には朔間先輩と対等でいて欲しい気持ちと、英智に対しても聖母発動するのが見たい気持ちと。あとたぶん英智のことを奇人推しだと思っている節がある……(私が)