可愛いをつくらなくても 小顔補正、色調修正、目の拡大。頬紅だって指先ひとつでまるで恋する少女のように。
「さすが、清光は覚えるのが早いわねぇ。やっぱり若い子は違うわね」
「俺いちおー主より先に生まれてるんだけど?」
笑う清光は満更でもなさそうだ。
政府から配布されたタブレットに真っ先に興味を持ったのは清光だった。機械に疎い審神者が清光に操作を任せ、好きなアプリを自由にインストールしてもよいと言うので、清光は「ずっとやってみたかったんだー」とカメラアプリをダウンロードしてきた。
審神者と自撮りして、一緒に画面を覗き込んでああだこうだと指を滑らせる。肌がつるんとして顔が縮んだり膨れたり、目が大きくなったり小さくなったり。
なるほどこれが「盛る」というやつかと楽しくなってきたところで、
「僕も可愛くしてくれ」
割り込んできた声に清光は顔を上げた。いつの間に近付いてきたのか、一文字則宗が口元で扇子を揺らして楽しげに笑っている。
「何しにきたのくそじじい」
「なにやら浮かれた声が聞こえたからな。僕もデコってくれ、坊主」
「はあ? やだよ」
「あら、いいじゃないの清光」
「だってさあ、……もー、じゃあ行くよ」
文句を言いながら、清光はしぶしぶタブレットを構えた。どこで覚えてきたのか、則宗は両手でハートマークを作ってカメラ目線を決めている。
「はい、チーズ」
一瞬の沈黙とシャッター音。
そうして撮れた写真を確認した清光はゲンナリとした。
「加工しなくても可愛いの腹立つんだよな……」
重力にとらわれず流れる金色の髪。同じ色をして瞳を縁取るまつ毛は庇のように長い。空色の瞳や肌の白さも相俟って、お人形さんみたいと形容してもあながち間違いではない。
「アイドルのブロマイドみたいねぇ」
「うははは、さすが僕だな」
見えていたことだし、変に謙遜されるよりは潔いが。清光は唇を尖らせた。
「なんだお前さん、拗ねてるのか? 心配せずとも坊主の方が可愛いぞ」
「お世辞とかいいから」
「お世辞? まさか。本心だぞ」
「清光は可愛いわよ」
「そお? ありがと♡」
「僕に対しての態度と随分違うじゃないか!」
やいのやいのといつもの応酬を続ける二振りを眺めながら、審神者は静かにタブレットを構えた。
「あっ! ちょっとあるじ動画撮ってるでしょ!」
「後で安定くんにも見せてあげましょう」
「やだよ馬鹿にされるだけじゃん!」
顔を隠して吠える清光とは真逆に則宗は大口をあけて笑っている。もうだいぶ見慣れた光景だ。
「ふたりともが可愛いのよね」
そう小さく呟いて、審神者は「ふふ」と頬を緩ませた。