狐晴明に嫁入り(仮)する道満の話鬱蒼と草木の覆い繁る山をひたすらに登り歩く。向かうは山中にある大狐を祀る社である。既に辺りも暗くなりつつあるがもう少しで着くであろうと、持ってきた少ない荷物を道満は抱え直す。
霊山とされるこの山には狐の化け物が住み着いている。道満が住んでいた麓の村ではその大狐を守り神として祀っていた。村にはここ最近飢饉が蔓延しており、村人たちは霊山の守り神を頼ったのであった。そこで提示されたのが人間の嫁を狐に差し出すこと。神に差し出す嫁となれば、そこらの家の女子という訳にもいかず、どのような者がいいかと狐に問うても「私もはじめてのことだから分からないなァ」と返されるばかりで村人たちは困り果てた。いつまでも嫁を差し出さないわけにはいかないが、下手な人間を送り込むわけにもいかない。そこで正式な嫁が決まるまでの間、狐の世話役を兼ねた替わりの嫁として選ばれたのが道満であった。
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