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    nishikokko

    現在は對馬の仁ゆな小説書いてます。

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    【背番号7】

    今日一日、哀しくて書きなぐりました。シーズン直前の引退のニュースは、何時までたっても慣れません。

    今、話題の映画が、テレビで初めて放映された1996年。
    私は色々あって、応援する野球チームを替えた。熱の入れ様は、その時々のライフステージで変わったが、何だかんだで現在も応援している。推しチームはひとつ追加されたが、それはここでは関係ないので省く。
    無駄にファン歴が長いと、過去にその背番号を付けた選手が幾人か浮かぶ。特に一桁の番号は、そのチームの主力や期待の選手に付けられることが多い。それは、横浜DeNAベイスターズも例外ではない。特に『7』は、過去に優良と言われた外国人選手や、タイトルを取った日本人野手が長く付けていた。彼らは、ヒットをよく打つという意味合いで『安打製造機』なんて言われてもいる。

    しかし、一昨年まで背負っていた選手は、正直、安打製造機には程遠かった。

    守備は良かった。けど、どんぐりの背比べから少し飛び出てる程度。打撃はそこそこ。二十代後半になると、徐々に落ちていった。顔はイケメンの部類らしいが、私の好みじゃない。髪型、色、ファッション、めちゃくちゃチャラい。特に髪はしょっちゅういじってて、そのせいなのか、最近、額の面積が広がりだしてる気もする。何度かフライデーされ、その度に「早よ、結婚せんね」と、近所のおせっかいおばちゃんみたいな事を友人らと言いあった。

    何だか憎めない、愛すべき存在。でも、戦力としては正直微妙。それが、私にとっての彼だった。

    そんな彼が、私に痛烈な傷を残した試合がある。

    元号が令和に変わる、数日前。私は友人夫婦を誘って、東京ドームで『平成最後の野球観戦』と洒落こんだ。チケットは約一月前に入手。三塁側の外野席にほど近い、内野席の後ろの方。我ながら良い席を選んだと思ったほどに、席は両サイドに余裕があった。
    だが、この日。連敗が積み重なり、この日も負けると足の指でも数える必要がある程にまでになっていた。数日前、現地で連敗が止まりそうだったのだが、それを打ち破る敵のホームランを眼前にしていた私は、かなり自棄になっていた。

    「今日、石川が一軍登録されたってよ~」
    「出番あるんじゃね?」
    「出てきたらイイよねー」

    そんな会話をした数時間後、彼が代打として告げられる。八回表、ツーアウト、ランナーは一塁。スコアは三対三。

    背番号7、石川雄洋(いしかわたけひろ)。
    FAで入団した、塁上の選手にレギュラーを奪われ、この日がその年の初出場試合。野手最年長。守備も打撃も、期待するには厳しい。けれど、彼は一時期、『打った日は勝つ』なんてジンクスが囁かれていた。
    期待もあまりない順位で、ドラフト指名。当時は暗黒時代と呼ばれ、チーム全体が燻っていた。それでも、彼はずっとバットを振り続け、守備練習で前歯が折れてもボールを追いかけていた。

    そんな、一見チャラくて、女の子大好きで、でも真面目に練習して、誰にでも気さくに振舞る彼。その魂をこめた一振りが、相手の初球を捉えた。黒と橙の悲鳴、白と蒼の歓声が入り交じる空気。その中を、彼の描いた放物線の先はライトスタンドに落ちていった。私達の周囲はお祭り騒ぎで、誰かが足元のビールを蹴飛ばしやしないかと案じる暇もなく、ハイタッチがあちこちから飛んできた。

    八回裏、守備についた彼の背中への歓声を、私達はいつも以上に張り上げた気がする。

    あれから、数年。
    ハイタッチも歓声も、応援歌も禁じられた球場をよそに、彼は静かにバットを置いた。去年、「一桁はレギュラーが良い」と言って、慕っている他球団の選手と同じ番号に変更した。が、それを一軍の試合で見せることは終ぞなかった。

    だけど、私達はずっと覚えているだろう。
    不器用で、誤解されながらも、ずっと横浜を愛し、ファンに愛された背番号7。
    石川雄洋という選手の事を。
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