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    tomahouren

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    tomahouren

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    ファウネロのワンライ。
    お題は「おでかけ」をお借りしました。

    観覧車「移動遊園地?」
     いつのまにか、魔法舎のキッチンに集合したようになっていた東の国の魔法使いの面々で雑談しているとシノが言い出した。「移動遊園地が来てるらしい。行ってみたい」と。
     おうむ返しに問い返したファウストとネロは、言った後でお互いの顔を見た。互いに、互いの方向性をそっと確認している。それはすぐにシノにばれて、彼は両手を腰に当てた。
    「ファウストとネロも来いよ」
    「し、シノ……言い方」
     ヒースクリフは眉を顰めたが、気を取り直したようにファウストとネロに笑いかけた。
    「遊具のからくりとかに俺は興味あるんですけど、屋台も出てるみたいですし……先生とネロも、行ってみませんか?」
     ヒースクリフにそう柔らかく誘われて、以前のようにファウストもネロも無下にする雰囲気ではなかった。ファウストがネロを見て、ネロが同意するように少し口角をあげて笑うと、ファウストは一口コーヒーを飲んで、笑って頷いた。
    「まあ、物見遊山で行ってみようか」
    「やった」
     にかっと笑うシノは、心底嬉しそうだ。実力主義であり、単独行動を好みそうに見えて、シノは東の魔法使いの四人で何かをすることに誰より積極的であった。
    「そうと決まれば、行くぞ」
    「今!?」
    「いいだろ、ファウスト。善は急げだ」
     驚くネロの手首を掴んで、シノがキッチンから引っ張り出す。
    「まったく、突然だな」
    「待てよシノ!」
     どたどたと、普段は静かなくらいの東の国の面々が魔法舎からにぎやかに出発していく。

     移動遊園地は、箒で少し移動するとすぐに到着する距離だった。
     いくつかの遊具がふだんは広いだけの空き地に設置されていて、所狭しと屋台が並び、まるで中央の市場のように人がごった返していた。
    「あれ、うまそうだ」
     シノが、気になる屋台の食事を片端から買ってはかぶりついて口に運んでいく。ヒースクリフも、面白がって不思議な色のわたあめを買って、指先で摘んでいる。
    「きみはどうする?」
     ファウストに問われて、ネロは首元を手で掻いた。
    「そう、だな……あいつらみたいにたくさん入るわけじゃないけど……少し食べるくらいなら」
    「じゃあ、あの肉の串焼きなんかは?」
    「はは、酒が飲みたくなるな」
     ネロの軽口に、ファウストも笑う。
    「それは、今夜の晩酌にとっておこう」
     ファウストがすぐに屋台の店主に声をかけて金を払い、串焼きを2本、受け取る。
    「はい」
     そのうち一本を、ネロに渡してくれる。受け取りながら、ネロは笑う。
    「いいの? 払うけど」
    「いいよ。いつも作って貰っている」
    「じゃあ、ごちそーさま」
     にっかりとネロが笑うと、ファウストもそれが嬉しいらしく、そっと視線を逸らしてサングラスを押し上げた。
     串焼きはいかにも屋台の味ではあったが、それがとても美味しく、少し雑に焦げついたところも香ばしかった。
     シノが振り返って、リンゴ飴に齧り付きながら、二人を指差して「それ、いいな」ともごもごと言った。
    「なんだ、シノもいるか?」
     ファウストがそう言うと、ヒースクリフが止めた。
    「シノ! もう持ちきれないだろ!」
     四人ではぐれないように歩みを進めると、ローラーコースターの列に行き着いた。
     レールを下から覗き込んで、ヒースクリフは興味深げだ。
    「うわぁ……木製で、こんなに作れるんだ……すごいな」
    「ブランシェット城のからくりの方が凄いだろ」
    「あのなぁ……これは遊具だから、目的が違うだろ。しかも、運んで組み立てるんだし」
     何かと言うとブランシェット城を贔屓するシノに、ヒースクリフが困った顔をする。
     そんな二人に、ファウストがチケット売り場で乗り物券を買ってきて、渡した。
    「ふたりで乗ってきなさい」
     ファウストの提案に、シノは喜色満面、ヒースクリフは遠慮する顔になった。
    「やった! 気が効くな、ファウスト」
    「ええ!? そんな、いいんですか?」
    「行こうぜ、ヒース」
    「おい! あ、あの、先生とネロも……」
     そう言いかけるヒースに、ネロはひらひらと手を振る。
    「凄い行列だから、俺はいいよ。ふたりで遊んできな」
    「僕たちも適当に楽しんでくるから」
     ファウストとネロの言葉を受けて、ヒースクリフは頷くと駆けていって、シノとふたり、列の最後尾に並んだ。
     列に並びながら、シノは持ちきれないほどの屋台の食事を、掻きこむように食べている。
    「せんせ、やさしー」
     ネロがそう言ってわざと揶揄うと、ファウストは微笑んだ。
    「遊具は乗ってこそだろう」
     そしてぶらぶらと、二人で歩き出す。少し歩くと、敷地の一番奥に背の高い観覧車が鎮座していた。
    「これはまた、ヒースが興味持ちそうだ」
    「シノは、『ゆっくりすぎて退屈だ』とか言うかもしれないけどね」
    「確かに」
    「乗ってみる? ネロ」
     せっかくだから、と言われて、ネロは「じゃあ、まあ……せっかくだから?」と観覧車の列にファウストと並んだ。ぽつぽつと他愛ないことを話していると順番はすぐに来て、ファウストが乗り物券を渡し、係員に指示されるまま木製のゴンドラにファウストとネロは乗り込んだ。
     向かい合って座った狭い空間に、ネロは少し緊張してしまう。窓はガラス張りで景色を眺められるようになっており、時間経過と共に少しずつ上昇し、だんだんと周囲の風景が小さくなっていく。
    「先生は、こういうの乗ったことあんの?」
     ネロの問いかけに、ファウストは昔を懐かしむように目を細めた。
    「……そう、だね。子供だった頃に、やっぱり移動遊園地が来たことがあったよ」
    「先生の子供の頃って、絶対可愛かったろうな。女の子と間違われたりしなかった?」
    「そんなことはないが……。きみは? どんな子供だったの」
    「あ〜……まあ、典型的なクソガキ……みたいな? まあ、裕福とかでも無かったし……」
    「なら、こういう遊園地は? 初めてなの?」
     ファウストの問いにネロは、こんなに問われることは珍しいな、と思う。
    「こういう遊具に乗るのも、初めてだよ。長く生きてても、まだ新鮮なことってあるんだな」
     言ってネロが笑うと、それを最後にゴンドラの中に沈黙が落ちる。
     ネロは、少し緊張する。
     観覧車のゴンドラで、恋人達が記念に何をするかくらいは、知っている。ファウストは、どうするつもりなんだろう、とそっと息をつめる。ど、ど、ど、と心臓がうるさくて、気を紛らわすように外を見つめた。
     箒からの景色と比べたらまだまだ低い高度ではあるが、なんとなく不安だった。
     いよいよ、一番高い場所。緊張したネロも、ファウストも、動かなかった。
     僅かな木の擦れる音だけが、ゴンドラに響いている。それと、遠くからローラーコースターの歓声。
     ゴンドラはゆっくりと下降し始める。
     『なんだ、俺だけ意識して馬鹿みてえ』とネロが溜息を吐いた時、急にファウストに引き寄せられた。
    「んっ!?」
     いきなりキスされて、すぐに咥内を舌で舐められる。
    「んんっ!?」
     後頭部に回されたファウストの手が強引で、逃してくれない。
    「ふぁ、ファウストッ…!」
     カチャ、とファウストのサングラスがネロの頬に触れる。
    「期待してた?」
     ファウストに至近距離で言われて、思わずネロはむっとする。
    「顔が赤いよ。かわいい」
     まるでベッドでの囁きのように甘く言われて、ネロは拳でファウストの胸を叩いた。
    「先生、わざとだろ」
    「なにが」
    「意識させた、くせに」
    「期待した?」
     重ねて問われて、ネロは視線を逸らす。確かに、自覚出来るほど顔が熱い。
    「……知らねぇ」
     ネロの正面で、ファウストはくすくすと笑っている。ネロが睨んでも、こたえる様子はない。
     やがてゴンドラが地上に近づいて、係員がドアを開ける。ネロはさっさと降りて、続いてファウストがゴンドラを降りる。
     無言のままファウストとネロがローラーコースターの方へ歩くと、遊具を楽しんで来たのだろうシノとヒースクリフがこちらへ走ってくるところだった。楽しかったらしく、ふたりとも笑顔で大きく手を振っている。
    「先生、ふたりに余計なこと言うなよ」
     ネロがそう拗ねたように釘を刺すと、ファウストは確信犯のように口元に手を当てて笑った。
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    tomahouren

    MAIKINGシトロニア幼少時に、ザフラに潜入してる千景さん(女装・偽名は鈴蘭)の話。続きます。
    『オイディプスの鈴蘭』1(シトロン、千景)鈴蘭の花、触ってはいけないよ
    毒があるから

    青い宝石、見惚れてはいけないよ
    不幸を呼ぶから


    『オイディプスの鈴蘭』


     晴れ渡るザフラの青い空に現王の誕生日を祝う白い花びらが舞っていた。花の多いザフラが、一年で最も花の咲き誇る芳しい季節。王の産まれた日である今日は国の祝日として制定されており、街の大通りを王が馬車に乗って盛大なパレードを執り行う事が毎年の慣例になっている。
     王の乗る馬車、その隣の座席に座らされた幼いシトロニアは、ザフラ首都一番の大通りを埋め尽くす人々、そして建物の窓からも花に負けないほど華やかな笑顔で籠から花びらを撒く人々に向けて、王族として相応しい柔らかな笑顔を浮かべ手を振った。
     シトロニアの実父であるザフラ王は芸術をとても愛していると諸外国にも広く知れ渡り、国をあげて芸術文化を奨励していた。先頭を歩く国家おかかえ楽隊のマーチに合わせて、王に気に入られようと道端から歌声自慢の男が馬車を見上げ祝いの歌声を響かせる。王に捧げられた歌に、馬車から王は満足そうに微笑んで見せる。
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