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    shinyaemew

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    ロゼxねこ王

    ##ねこ王

    王たる者 1.
    .

     人間向けの舞踏会から数日経った。舞踏会は成功に終わり、あれからいつも通りの日常が戻ったわけだが、胸の奥に残る小さなわだかまりは消えないままだ。


     ずきっ


     ロゼが視界から消えた瞬間の感覚を、今でもはっきりと思い出せる。足から力がすっと抜けてしまうような、何かに怯えているような気分だった。

    「なにをおびえるひつようが、あるだろう」

     漆塗りの落ち着いた色合いの机に向かえば、いつもは滞りなく次々へと書類に目を通せていたのに、今日は最初に開いた束でロゼのサインと注記のメモを見て以来、すっかり手が止まってしまっている。ロゼの人格を表すような、しなやかに伸びる線で構築された文字を手で触れてみれば、指先から愛しさがじん、と広がり、少し気が楽になった。

    「っ、まて、これじゃあまるで、こいを、しているおとめのようでは……ん?」


     恋。


    「こい……」

     声に出して復唱してみたら、霧のように目の前で漂っていたそれは形となった。そうか、オレは、ロゼ……類に、恋を、しているんだ。

     それは、見たことのない色の薔薇を、ガーデンで見つけた時のような、胸躍る発見だった。オレの中に芽生えた恋の種を、類がいつも愛情で丁寧に世話をしていたから、こうして花咲く日を迎えられたんだ。

     そうさ。何も怯えることはない。類はいつだってオレを最優先にしてくれたのではないか。オレが踏み台から落ちたら、命令を背いてまで駆けつけてくれた。オレが猫舌だからと、食事をいつもちょうどいい温度に調整してくれた。オレが探し物をしていれば、「陛下の手を煩わせるほどのことではありません」と言い、どんなものだって瞬時に探し出してくれた。

     ……いや、あいつが散らかさなければ、オレにだってすぐに見つけられたはずだが、それは置いておいて。とにかく、類もオレに恋している、という絶対的な自信がある。

     それに気付けたら、前では完全には理解できていなかった、色んな出来事がフラッシュバックした。類はオレを抱きしめるとストレスが吹き飛ぶと言った。(だから疲れているように見える日は、ハグを許した)隣の部屋ではなく、オレの傍に寝てもらっていれば、無駄に気を張る必要もないと思い、添い寝を頼んだ時、類はいつも大層嬉しそうに目を光らせていた。

     そんなに喜ぶことか? と、いつも思うが、思いを寄せている相手なら、説明がつくだろう。

    「そういえば、にんめいしきのときも、るいはかんきわまって、ないてたっけ」

     類がロゼに就任した日……任命式は二年前だったが、オレから薔薇のブローチをつけられた瞬間、彼はぽろぽろ涙を零していた。予行練習の時は何ともなかったからオレもびっくりして、理由を聞いてみたら「嬉しくて」と言っていたな。

     書類はまだまだ残っているが、思い出に浸りたい欲に逆らえず、オレは椅子から飛び降り、戸棚まで移動した。

    「たしかここに……あった!」

     重大行事の記録を纏めたアルバムを面会用の長い机に置き、柔らかいソファーに腰掛けた。

    「はは、やっぱり、ないてたな、あいつ」

     撮影担当は一番絵になる、ロゼが片足跪きで王の手の甲にキスを送る場面を写真に残してくれたが、よく見れば目元がいつも以上に赤くなっているのがわかる。

     写真の下には、「歴代ロゼの中で最年少」といった注記があった。

     我が国の法律では、ロゼ(王の側近)になるには知識を測る筆記試験と、志願者で身体能力を競い合う対戦試験のほかに、大前提として、成人している(十八歳以上である)国民であることが条件だ。逆に言えば、成人していれば国民は誰だって申し込めるが、代々、三十歳前後の逞しい男が勝ち残った。

     そんな中、成人したばかりの類が往年通りの数の参加者を全て打ち負かし、勝者として司会に名を読み上げられた時は、オレも驚いたし、誇りに思っている。

    「さんねんかん……いや、よねんかん、オレのためによくがんばってくれた」

     当時の嬉しさを思い出せばつい胸が躍り、そのドキドキを発散したくて思わず足をバタつかせたが、あまり行儀のいいことではないのですぐに我慢した。

     アルバムの説明を更に読み進めば、「十五歳で催し事のアドバイザーとして王宮入り」とも記載されている。

     その一年前に、オレたちは出会ったんだ。







     その日は国中、オレの十四歳の誕生日のために賑わっていた。国民に「王は健康だ」と伝えるために、そしてなによりオレ自身が国民に会いたいがために、今とさほど変わらない姿で、ボディーガード付きで市街地を巡回していた。

     先王と、国民の努力のお蔭で平和と安定が長く続いている我が国では、普段は勿論、お祭りの時は更に笑顔と歓声に溢れていて、オレはその中に包まれるのが何より好きだった。だが、あの日はある場所だけ、雰囲気が少し違っていた。

     類がいたところだ。

     まだ小さかった類はあの日、会場の一隅を借りて、一人で、誕生日を祝うことがテーマのショーをしていた。一人しかいないので使える演出は限られているが、類のショーの技量は、あの頃から並みのパフォーマーより優れていて、当然、笑顔の観客に囲まれていた。

    「む……?」

     ショーは素晴らしいものだった。流れる音楽に類の動きに口上、物語の構成。それらはパズルのようにぴったりと気持ちよく嵌り、その心地よさをもっと、もっとと求めるように、人々は惹きつけられ、満足し、笑顔になる。

     それなのに、オレは何故か、類自身は心から笑えていない気がして、ショーが終わったらこの子に話を聞いてみようと思っていた。

    「わ……!!」

     が、ワンマンショーかと思ったら、途中からわっと出てくるカラクリ人形に目を奪われ、思考を操られたように物語に没頭したオレは、思っていたことをすっかり忘れてしまい、挙句の果て一回の演目が終わった後に長らく余韻に浸っていたら、また次の演目が始まり、やむを得ず後日から話を聞くことになった。





    「せんじつ、おまえのショーをみさせてもらった。たいへんすばらしいものだった」
    「あ、ありがとうございます」

     類は先日の華やかなショー衣装でなく、シンプルなシャツを身につけている。少し長い紫の髪をちょん、と束ねているが、王であるオレに会うためか判断つかないぐらい、申し訳程度のものだった。

     王が家に訪ねるなど、初めてだろう。戸惑うであろう。仕方ない。少し緊張させてしまっているようなので、ジロジロ見つめずに、出してくれたお茶を一口啜ろうとしたが、手でコップに触れてみたらまだ熱かったので、思い留まった。

    「……なまえはるい、ときいたが、まちがいないか?」
    「はい。類は友を呼ぶ……の類です。友達はあまりいませんが」

     少し皮肉った形の類の自己紹介は、ワンマンショーの時に感じた僅かな違和感と同じものだった。

    「オレは、つかさだ。にんげんのもじにかくと、せかいをつかさどる、のつかさになる」
    「世界を司る……まさに王様、ですね」

     オレにはまだ熱いお茶を、類は何ともないように喉に通す。昇る湯気を目で追えば、小屋の天井の様々なカラクリが視界に入った。壁には丸い一人用のステージのデザイン画が貼られていて、ガラス戸付きの戸棚には台本と思われるものがずっしり並んでいる。言葉で聞かずとも、この子のショーへの情熱は十分伝わった。

     その熱量と、技量を、卑屈で隠しては、隠れてしまっては、勿体無い。

    「るい。オレのおうきゅうで、ショーをしないか?」
    「え?」

     類だけでなく、隣でずっと静かに話を聞いていた類の母親も、驚いた表情になった。が、特に類を止めたり、代わりに引き受けようとする様子はなく、ただそのまま、類の返事を待っているだけだった。

    「……いいのですか?」

    「オレは、こくみんのえがおが、だいすきなんだ。あのひ、おまえはかんきゃくみんなを、オレを、えがおにしてくれた。おうきゅうのショーをまかせるなら、おまえしかない、とおもったんだ」

     少し温くなったコップに手を当ててみたら、ちょうどいい温度が心地よく体に染み渡った。

    「……っえっと、」
    「それと」
    「?」
    「おまえのショーに、オレもさんかさせてほしい」
    「っ! ……あ……でも、僕のショー、多分、王様……陛下を、怪我させてしまうから……」
    「む、そんなあぶないショーをしているのか??」
    「いえ、気をつけているので、危なく、ないはずですが、みんな、そう言うので……」

     少し中身が減ったコップの中を見ながら、類は諦めたような口ぶりでそう述べた。

    「るいのいう、みんなは、しらないが、オレは、るいがあんぜんだというのなら、あんぜんだとしんじるぞ」
    「陛下……」
    「む、もうともだちだからな。つかさとよんでくれ」
    「えっ??」
    「? るいはいやか?」
    「え、いえ、そんな。えっと、つかさ、くん……?」
    「うむ! これからよろしくな、るい。おうきゅうでやるショー、たのしみにしているぞ!」
     







    「あのときのショーは、たしか……あった」

     類は小さいながらも、見事にオレからの依頼をやり遂げてくれた。オレの初めてのショー出演でもある当時の記録は、今もこのアルバムに残っている。

     あれから六年も経った。今の類は明らかにオレのことが好きだが、いつからその好きは愛情へと変わったのか。今まで気付いてあげられず申し訳ない気分もある。

     流石に初対面の時ではないだろうが、王宮入りした頃か、その後か……ロゼを目指すと言い出した頃は、確実に気持ちが変化した後だと思うが。

    「……こんどきいてみるか」

     そう言いながらアルバムを閉じ、棚に戻そうとしたら、いつものリズムでコンコン、と誰かがドアを叩いた。

    「陛下。目を通して頂きたい追加書類をお持ちしました」
    「ロゼ! ちょうどよかった、はいっていいぞ」

     許可を得たロゼが書類を片手に器用にドアを開け、部屋に入ってくる。仕事机に置く場所がないと気づいたのか、こっちの面会机のほうに置いてくれた。

    「おや、アルバムを見ていたのですか?」
    「ああ! にんめいしきでないてた、ロゼのことをおもいだしてな!」
    「何故急にそれを……!? それは、もうそろそろ忘れて頂きたいのですが」
    「はっはっは!! それだけではないぞ! おまえが……む? なんだ、これは?」

     照れているロゼが珍しくて、思い出話をしようと思ったが、運ばれてきたものの一番上にある、普段の書類とは違う、赤ピンク色の表紙の装丁本に気を取られた。

    「あ……陛下も二十歳なので、そろそろ婚約者を決めるのはどうかという話を、今度の会議で話し合いたいと、大臣から提案があがっています。こちらが、その候補者の名簿となります」



    「……え?」




     何故


     何故今、その話を




    「…………こうほしゃ……」

     うまく言葉が出なくて、もしかしたら、あのロゼなら、名簿の中にこっそり自分を紛れ込ませていたり、なんてことを思いながら、ペラペラ名簿の中を見てみたが、そんな都合のいいことはなかった。

     それどころか、所々メモ書きが張られていて、相手の趣味や、家庭、国にどんなメリットがあるのか……など、細かい分析まで注記かれている。……まるで、絶対にこの中から一人決めてもらおうと言わんばかりに。



     ……なぁ、お前は、オレのことが好き、ではないのか?


    「……このことを、ロゼは、どうおもうんだ」

     ぱたん、名簿をゆっくり閉じながら、顔を上げずに聞いた。

    「……どう、と言いますと」

    「……ロゼも、このめいぼのなかに、オレがこんやくしゃにすべきものがいると、おもうか」


     お前も、オレはこの中の、知らない誰かと、これから死ぬまでの一生を遂げるべきだと、思うか。





     類はすぐには答えなかった。その分、まだ希望があると思った。



    「る……っ」
    「陛下の……

     婚約者に相応しい方のみ集めました」
    「……」


     まだ希望があると、錯覚した。


     風に吹かれて雲が散ってしまったせいで、窓の外から光が差し込み、オレの横に、陰を落す。

     王冠の形が無視できないほどくっきりした、王の陰を。


    「………………そうか」
    「……」

     一つ、深く息を吸い込み、オレは立ち上がった。が、ロゼのほうを見る気にはなれなかった。

    「……わかった。あとで、かくにんする」
    「お願いします」
    「もう……さがっていいぞ」
    「…… ……っ、あの、さっき何か僕に話が……」
    「ない」

     視界の隅で、ロゼの手がぴくっと震えたのが見えた。

     ……違う。ロゼはロゼとして、仕事を、責務を全うしただけで、何も、悪くはないのに、冷たく当たってしまった。

    「……すまない。ひとりで、かんがえたいことがあるんだ。さがってくれないか」
    「…………畏まりました」


     もう、これ以上取り繕えそうにない。頼むから早くここから出ていってくれ。


     そう願いながら、ロゼから距離を取るように背を向き、足を引きずるように窓辺へ歩いた。震えだしそうな体を我慢するために窓枠を握り締めながら、無言のまま外を見る振りを続けたら、暫くして、「失礼します」の小さな一言と共に、ドアが再び開いては、パタン、と無機質な音を立て、閉まった。

     コツン、額を冷たい窓ガラスにつけた。少しでも充血したそれを冷ませたらと思ったが、あまり効果はなかった。


    「オレに……
     おうに、ふさわしい、こんやくしゃ……」


     それは……


     ロゼじゃ……

     類じゃ……


     だめなのか?





    『むねがざわざわして、あせってしまった』
    『大丈夫だよ。僕でもきっと、同じ気持ちになっていたさ』


     胸が、体中の至るところが、痛くて、息苦しくて、立っていられなくなって、そのまま座り込んでしまった。


    「ぜんぜん、おなじじゃ……ないじゃないか」


     うそつき


     


    「……うそつき……っ」


     差し込む光の当たらない壁際の死角にいたら、胸の奥まで冷えたような感覚に襲われて、凍えてしまわないように、自分の体を抱き締めずにはいられなかった。

     膝を濡らす涙と痛みでじんじんする頭だけは、体のどこよりも熱かった。


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