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    shinyaemew

    @shinyaemew
    訳あってすけべなのはすべてリス限にしてるが、成人検査しかしてませんのでお気軽にリプやらリス限告知ツイやらでそっと挙手頂ければすっとリスインいたします

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    shinyaemew

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    ロゼxねこ王
    おまたせしました

    ##ねこ王

    王たる者 4




     手を突き出しても何も見えない闇の中、ロゼの背中だけは、はっきりと見えた。ロゼ、と大きく口を開いて呼んだ。暗闇に呑まれるように、その声は自分にも聞こえなかったが、きっとロゼなら聞こえて、返事をしてくれるはずだ。

    「ロゼ、」

    「ロゼ」

     コン、コン。聞きなれたロゼの革靴の音が聞こえて、少しずつ、少しずつその背中が小さくなる。

    「ロゼ、いくな、ロゼ、王のそばをはなれるな」

     精一杯腕を伸ばした。伸ばして、掴んで。手のひらに触れたのは自分の指と、冷たい空気だった。

    「オレからはなれるな、ロゼ」
    「陛下は、もう僕などいらないのでしょう? 追い出したいのでしょう」
    「! それ、は」

     振り向かずにロゼがそう言う。違う、それは、お前への恋心を忘れるためで。忘れて、これからもずっと、ずっと一緒にいるためで。

    「やっぱり、要らないんだ」
    「ちが、ちがう、ろぜ」

     追いかけようと走り出した。息が乱れるぐらい走った。それなのに距離は少しも縮まず、ロゼは段々、段々小さくなっていく。最後まで一度も振り返らなかったその姿は、とうとう見えなくなった。

     力尽きてしまって、何もない闇の中に座り込んだ。冷たい空気に体が冷えてきて、マントを羽織ろうとしたが、ロゼがいつも清潔にしてくれた長いマントが、どこにもなかった。

     少しでも暖を取ろうと、蹲って自分で体を抱きしめた。王冠が重力に負けて落ちてしまうはずだったが、その王冠も頭に乗っていなかった。

    「るい」

    「るい、もどってくれ」

     もうおれは、おまえがいないと、だめなんだ。


     


     ……


     …………



    『…つかさくん』

     どれくらい眠っていたがわからない。目を開けてみるが、同じような漆黒に包まれていて、ちゃんと目を開けているかわからなかった。地面かどうかもわからない平面に腕を立たせ、体を起こした。

    『司くん』

     穏やかな声がする。

     類の声だ。

     暖かい空気が体を包む。

     類の温もりだ。



    「……るい、どこにも、いかないでくれ」

    『どこにもいかない。ここにいるよ。ここで、待っているよ』







     小鳥の囀りが、右の耳から流れ込む。ゆっくり目を開ければ、いつもの自分のベッドの天蓋が映った。早朝と思われる、少し肌寒い空気が頬を掠るが、羽毛布団にきっちり覆われている体と、特に左手が暖かい。

     どれくらい寝ていたのか、あまり力が入らないが、温もりの方向へゆっくり視線を向けば、夢の中で追いかけても追いつかなかった類が、オレの手を握って俯せになっている。

    「っ……るい」

     力を振り絞り、乾いた声で何とかその名を呼んだら、類の指がぴくっとして、反射のようにばっと顔をあげた。その顔にいつもの余裕は一かけらも残っておらず、目元のアイラインは隈にすくみ、ピアスをつけているはずの耳が、垂れかかった紫に隠れてしまっている。土色に濁った瞳がオレを捉えるまで数秒間かかり、それに焦点がついた途端、類は慌ただしく床から立ち上がった。

    「っ! 医務官!!」

     類の声が響けば外からざわざわと人の声が聞こえてくる。間もなく部屋のドアが開け放たれ、医務官が数人駆け込んだ。白衣がベッドに近づくと共に類の手の温もりがするりと離れていき、その感覚に心臓がきゅっと締まった。

    「る、い、るい、いかなっ、けほっ、」
    「陛下、今体の様子を診ますので、安静に、」

     白衣に視界を覆われ、とうとう類の手が完全に指先から抜けていった。世界から類が消えてしまう、もう二度と会えないような気がした。

     どこへもいくな、るい。

    「るい! いくな、るいっ、」

     邪魔をするな、類が、るいが、行ってしまう。

    「! 司くん! あの、」
    「っこれでは診察もままなりません……! 陛下の手を握っていてください」
    「っ、わかった」

     ! 戻ってきた。

     呼んだら、戻ってきてくれた。

    「るい、るい」
    「うん。いる。いるよ」
    「るい、どこにも、どこにもいくな」
    「……いかない。どこにもいかないよ」

     医務官の忙しなく動く腕が時々目の前を白く塗りつぶすが、手に触れている温かさで、少しの間見えなくても、類がちゃんとそこにいるのがわかった。

    「るい」
    「うん」
    「すきだ」
    「……!!」

     オレの言葉で、類の手が少し震えたが、離されはしなかった。

    「……このきもちを、すてようとしたが、すてられなかった」 
    「……っ」
    「……っ、あの、ロゼ様」

     医務官が類の耳元で小さく何かを伝えた。それを聞いた類の表情は穏やかだった。

    「……よかった。あとは……僕がいるから」
    「はい。外で待機しておりますので、何かあればいつでもお呼びください」

     そう言って、白衣はがちゃごそと器具をハンドバッグに戻し、礼の後にいそいそと部屋を出た。

     パタン。扉が閉まれば、部屋の中は再びオレと類の二人きりとなった。さっきまでの慌ただしさが嘘のようだ。

    「……陛下」
    「るい」
    「……司くん、水は飲めるかい?」
    「あぁ」

     手袋のつけていない暖かい素肌が頭の下に延ばされ、慎重に支えてもらって、何とか座ることができた。ベッド際の小さなサイドテーブルに用意されていたコップが口元へ運ばれる。ぺち、ぺちと少量の水分を舌で掬い、口周りを潤わせてから、コップに口をつけて水を喉へ流し込む。

    「ゆっくりでいいからね」

     ごく、ごく。冷たくも熱すぎもない、喉によく馴染むぬるま湯で、ぎこちない体の違和感も少しずつ洗い流せた。

    「は……もう、だいじょうぶだ」

     コトン、半分ぐらい残った水をサイドテーブルに戻し、類は一度オレの顔を見て、それから何か考え事があるような素振りで、目を伏せて、握っているオレの手を見た。長い睫毛に少し隠れている瞳は、さっきよりも澄んでいて、湖に浮かぶ月のようだ。ゆっくりと、類が口を開く。

    「……司くんに、謝らないといけないことがある」
    「……? ……!!」

     類の顔から、彼の目線を追うように視線を下げていったら、いつも彼の胸元にあるものがないことに気づいた。


     任命式で、オレがつけた、青薔薇のブローチが、ない。


    「……ブローチはどうした? どこへいくんだ? オレを、オレをひとりにして、どこへ、」
    「司くん!! 待って、違う、違うから、ブローチは、」
    「なにが、なにがちがう、あやまるなら、いくな、おれをっ、っ、ひとりに、っ、」
    「どこにも行かない! どこにも行かないから!!」

     目にした事実に気が動転し、どこへも行かせないように縋り付いた。もう少し暴れたらベッドから落ちてしまうところを、類が受け止めて、懐へ入れた。大きな手で、背中を撫でられる。はあ、はあと乱れた息を整えるオレを宥め、類が耳元で言い聞かせてくれた。

    「どこにも行かないから。落ち着いて、聞いてくれるかい」
    「……っ、……るい、すきだ、どこへもいくな」

     背中の温もりが暖かくて、溶けたような目から雫が落ちる。

    「……僕も、好きだよ。だからどこにも行かない」
    「……」
    「ブローチはここにあるよ。ほら」

     どこからか、類は青薔薇のブローチを取り出して見せてくれた。それを受け取って、黙々類につけようとしたら、止められた。

    「まだつけないで。今は、違うでしょ? 司くん」
    「……!」
    「いい子」

     類のいう通りに手を止めたら、今度は頭を撫でてくれた。それに甘えるように、体を預けた。類はブローチをサイドテーブルに置き、オレを抱えたままベッドに上がり、背中を大きな枕に凭れたので、オレは類の胸に伏せているような姿勢になった。

     髪の毛を優しく梳いてくれている手は変わらずで、類の甘い匂いに溺れそうだ。

    「司くんが昏睡状態に陥っていたこの二週間、僕も、色々考えたんだ」
    「っ」

     二週間も、寝ていたのか、オレは。

    「……本当に、色々、考えた。もし君がこのまま目を覚まさなかったら、僕も供に逝こう、とか。もし君が僕を嫌いになったら、命令に従ってこのブローチをお返しして、君が傍にいないこの世界と別れを告げよう、とか。もし、」
    「ばか!」
    「うん」
    「すぐにしのうとするな! ばか!」
    「うん。ふふ、司くんなら、そう言うと思ったよ」

     思わず突っ込んでしまったオレの毛の逆立つ耳を優しく寝かせ、類は続いた。

    「……もし、こんなずるい僕でも、こんなずるい僕の気持ちでも受け入れてもらえるのなら、僕も責任を取って、いつか老い死ぬまで、君の傍にいようと、思ったんだ」
    「……せきにんじゃ、ない」

     誰かを愛すのを、責任だなんて言う類がわからなかった。

    「ううん、責任だよ。司くんを、一国の王を、こんなズブズブに溺れるまで、己の命を軽んじるまで、恋の海に落としたのだから、僕は」
    「……む……」
    「司くんがそこの赤い絨毯に倒れているのを見た時は、僕の心臓も止まりかけていたよ」
    「むむ……あれは……そうなるとはしらずに……」
    「責めているわけじゃないよ。そうさせたのも、僕だから」
    「すきになったのはオレのいしだ。るいはかんけいな……」
    「いいや、僕はね、ここに傷をつけてしまった日から、色んな手を使って、君を何とかしてこの懐へ誘い込もうとしていたよ」

     そう言って目の前に置かれたのは、類の左手の小指。オレたちの陰でよく見えないが、その小指に傷といえば、オレも思い出すことがある。

    「……あのひからなのか、るいがオレをすきになったのは」
    「正しくは、あの日に決心をしたんだ。絶対君のロゼになろう、ってね」
    「……なのに」

     オレは顔を、とうに皺のついたジャケットとシャツの間に埋めて、小さく続いた。

    「なのに、オレにほかのじょせいを、あてがおうとした」
    「うん。それを謝ろうとしたんだよ」

     頭を撫でていた類の右手は、許しを乞うように、オレの耳を指先で奉仕しはじめた。指の腹で揉まれると、少しむずむずする。

    「僕だって嫌なのにね、君が僕以外の誰かと結婚するなんて。嫌で嫌で、でもロゼとして、と思うと、しない訳にもいかなくて。腹の底でぐつぐつする気持ちを抑えながら、あの資料を作ったんだ」
    「のろいのほんじゃないか」
    「フフ、どうかこの全員が却下されますように、って思ったよ」
    「……オレは、ロゼがそのなかにまざっていたら、とおもった。まざってなかった」
    「うーんなるほど、その手が……見事にすれ違ってしまったねぇ」
    「まったくだ!」
    「僕も司くんも、言葉が足りなかったんだね」
    「……まったくだ」

     お互い小さな笑いを零してから、暫く無言でその空気を堪能した。マッサージされた耳からじんじん伝わる痺れたような感覚が少しずつ体へ行き渡る。

    「るい」
    「ん?」
    「オレは……王だ」
    「……うん、僕は、その王の、たった一人のロゼだよ」

     頭をあげて、類の顔を見た。今までと比べるとやはり憔悴しているが、だいぶ余裕が戻ってきているように見えた。

    「でも、るいが好きだ」
    「僕も、司くんが好きだよ」
    「うまくいくかわからんが」
    「僕が上手くいかせるよ」
    「!」
    「これは、僕達二人で向き合うべき問題だからね。一人は心もとないかもしれないけれど、二人ならきっと上手くいくさ」
    「……るい」

     後頭部に少し力が入って、オレ達の唇が触れ合った。

    「ロゼだから、王様と結ばれてはいけない……と思っていたけれど、その台本はどうも古臭くて僕達には合わないから、新しい台本を考えないとね。一緒に、僕達のハッピーエンドを作ろう」
    「……それは、るいのだいすきな、ショーをつくるみたいに、か?」
    「そうだね。司くんも好きだろう?」
    「あぁ! とくに、るいのかんがえてくれたショーが、いちばんすきだ」
    「ふふ、ありがとう」
     
     両腕で抱きしめられて、つむじに類の吐息がかかり、全身がむず痒かった。うねうねと尻尾をバタつかせたら、類が付け根から先端へ撫でていくのだから、ますます落ち着けなくなる。

    「や、やめろ」
    「おや、猫族はこうやって撫でられると気持ちいいと本で読んだのだけれど」
    「き、きもちいいからこまるんだ!」
    「なんだ、気持ちいいならいいじゃないか」
    「な、こら! ぶ、ぶれいもの!」
    「嫌かい?」
    「い、いやでは……」
    「ならいいよね」
    「お、おまえ~~!」

     どうやってもぞもぞ体を捩じっても、類の懐の中にいるという現状は変わらなかった。嫌かというとそうではない。そうではないが、どうもこの感覚に慣れないのだ。

    「だ~~~! や、やめんか!」
    「どれどれ、ここがいいのかな」
    「っん……!」

     キュルルル。

    「あっ」
    「あ」

     ……腹の虫に救われたが、これはこれで恥ずかしいぞ。

    「ふ、ふふふ。二週間もろくに食べてないからね。医務官にももし食べれるなら食べたほうがいいと言われていたよ。寝室まで運んでもらおうか?」
    「……うん、たのむ」

     くつくつ笑う無礼者はオレをベッドに下し、立ち上がろうとした。

    「あっ、まて」
    「ん?」
    「……食事を、手配するだろう」

     サイトテーブルからブローチを取ったら、きらりとそれは朝日に反射して、光った。

    「そうだった」

     ベッドサイドへ跪き、ロゼは手を胸元にしながら、座っているオレを見上げた。

    「よろしくお願いします」
    「うむ」

     二度目の寝室での食事は、幻じゃない、本当の類と、ロゼと一緒だった。ダイニングと違って、すぐ隣に座ってくれている類を横目でチラリと見るたび、やはりたまにはここで食事をしても悪くないと思った。
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