嘘西日本組の合同訓練を終え、汗でも流すかとシャワー室に向かうと、そこには先客がいた。
「シマカゼも来ていたのか」
「サッパリしてから帰ろうと思って」
シマカゼも来たばかりのようで、まだ服を着ている。脱衣所にはシマカゼ以外誰もいない。わざわざ遠くのロッカーを使うのも感じが悪いだろうから、シマカゼの二つ隣のロッカーに荷物を置く。
「今日の訓練は中々手応えがあったね」
「そうだな。かなり連携が取れるようになってきた」
もう何回も行われた西日本組による合同訓練。最初は中々うまくいかなかったが、回を重ねるごとに僕たちの練度は上がっていた。いつも一緒にいる大宮組に引けを取らないレベルになってきたという自負はある。
そんなことを話しながらシャツを脱ぐ。脱いだものを丁寧に畳んでいると、横から痛いほどの視線を注がれていることに気がついた。
「何をジロジロ見ているんだ」
その意図が分からなくて眉を潜めていると、ごめんとシマカゼは視線を外す。
「いや、えーっと、ヤマカサって本当に男の子だったんだなと思って…」
「はぁ?」
そして訳のわからないことを吐かすシマカゼに、僕の眉間のしわはより深くなる。
「ヤマカサはすごく綺麗な顔をしているから、どこかで本当は女の子なのかもって思ってたところがあるんだ。でも、胸がないから、やっぱり男の子だったんだなって」
僕が視線を下げれば、真っ平らな胸がある。そりゃ、胸が膨らんでいるはずがない。だって、僕は正真正銘の男の子。しかし、第二次性徴とは個人差がある。この歳でまだまだ胸が膨らんでない女の子もいるだろう。そう思ったところで、たまにはシマカゼをからかってやってもいいのではないかと心の中の僕が悪い顔をする。
「まだ小学生だぞ。膨らんでない子なんていっぱいいる」
「えっ…」
意味深なことを言えば、シマカゼは固まる。その反応に心の中でニヤニヤしながら、僕は続ける。
「シマカゼの言う通り、僕は女の子だ。僕はおきゅうと屋の一人娘。僕が家業を継がなければならない。しかし、女だと何かと不便でな。だから、男として生きている。このことは、みんなには内緒にしていて欲しい」
我ながら雑な嘘だなと思いつつ、チラリと横目でシマカゼの様子を伺えば、必死に視線を泳がせていた。さては、信じているな。そして、僕の胸を見ないように必死になっている。狼狽るシマカゼが珍しくて、僕は調子に乗ってしまう。
「そんなに恥ずかしがるな。僕とシマカゼの仲だろ?」
「そ、そ、そうは言っても…」
僕が近づけば、たじろぎながらシマカゼは後退りをする。それを続けていくと、ガツンとシマカゼの背中が壁際のロッカーにぶつかった。
「まだ成長途中だが、触ってみるか?」
「えっ?いや、そういう訳には…」
「遠慮するな。ほら」
逃げ場を失ったシマカゼの腕をつかみ、無理矢理僕の胸に押し当てる。不意打ちだったからか、下心のせいか、案外簡単に動くシマカゼの手に笑ってしまう。
「好きなだけ触っていいぞ」
僕の胸をさするよう、シマカゼの手を勝手に動かす。男の子だから胸を触られたってなんてことはない。そうしているうちに、シマカゼの手が僕の意思と反して動き出す。ゆっくりとさすったかと思うと、控えめに揉まれる。シマカゼもこういうことに興味があるお年頃なんだなと思いつつ、好きにさせていると、離れ際に乳首を指で弾かれた。
「んっ…」
慣れない刺激に僕の身体は跳ねる。思いがけない自身の反応に思わず口を手で押さえた。目の前のシマカゼはというと、顔を真っ赤にして固まっていた。
「あ、あの…、えーっと…、ご、ごめん!僕、先に帰るね!」
僕と目が合うやいなや、そう言い残して脱衣所から一目散にシマカゼは逃げていく。僕の嘘にまんまと騙されたなと満足げにしながら、荷物を置いたロッカーのところまで戻る。
それにしても、シマカゼも素直な男だ。何回か一緒に男子トイレに行ったことがあるくせに、僕の嘘に騙されるなんて。そもそもこんな簡単に胸を触らせてくれるはずがない。僕が本当に女の子だったら、ただの痴女だ。ふと先程シマカゼに乳首を弾かれたことを思い出す。真面目そうなシマカゼがまさかあんなことをするとは思わなかった。意識してしまうと、シマカゼに触れられた胸がうずいてくる。流石に少しやり過ぎだったかなと反省していると、僕はあることに気がついた。
「あ…」
それはシマカゼにネタバラシをしていないということだ。シマカゼは僕を女の子だと思ったままでいる。このままでは、後々めんどくさいことになるかもしれない。
そんなことを考えていると、へくしょんとくしゃみが出た。ずっと半裸でいて、そろそろ身体が冷えてきてしまったようだ。同時に頭もかなり冷えてきた。
僕は何をしているのか…。思い返せば、ノリノリで自分の胸を触らせるなんてどうかしている。僕を女の子だと思い込んだまま、シマカゼを家に返す訳にはいかない。
「待ってくれ、シマカゼ!今のは全部嘘なんだ!」
一度脱いだシャツを急いで着て、僕はシマカゼを追った。