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    そいそい

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    そいそい

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    はっぴーリュウシマ真ん中バースデー🥳

    真ん中バースデーとはあまり関係ない話になってしまいました。あと、ひっちゃかめっちゃかしてます。すみません🙏

    ※注意
    かっこいいリュウジさんはいません。
    社会人リュウジさんと大学生シマカゼくんの話です。
    ヤマクラ前に考えた話だったので、シマカゼくんの進路は捏造しています。
    かっこいいリュウジさんはいません←ここ重要

    あの部屋 大学の最寄駅から地下鉄に乗って一駅。単身者向けのマンションの三階の一番奥の部屋。鍵を出そうとしたが、中に人の気配を感じてやめた。そのままドアノブをひねると、予想通りすんなりと回る。そして玄関の扉を開けば、小さなキッチンのある廊下の向こうで、メガネをかけて、デスクに向かっていたあの人がちらりとこちらに視線をくれた。
    「また来たのか」
     呆れながら言うあの人に、ここからの方が学校が近いのでといつも通りの答えを返す。そうすると、少しだけだろといつも通りにあしらわれた。
     ここは僕の下宿先というわけではない。超進化研究所名古屋支部に正式に入所したリュウジさんが一人暮らしをしているマンションだ。もう少し超進化研究所の近くに住めばいいのに、何故か程遠い名古屋の中心部に部屋を借りている。そのおかげで僕は大学帰りに寄ることができているのだ。
    「今日はなんて言ってきたんだ?」
    「友達と一緒にレポートを書くと言ってきました」
     大学に入ってから、僕はリュウジさんの部屋に入り浸りだった。それをなんとなく家族に、特にナガラに言いづらくて、いつも嘘をついて家を出てくる。サークルがあるだとか、飲み会があるだとか、勉強会だとか、様々な嘘をついてきた。人生でこんなにも嘘をついたのは初めてかもしれない。少し後ろめたさはあるが、それ以上にリュウジさんと一緒にいたかった。
    「俺はそんな風に育てた覚えはないぞ」
     しかし、リュウジさんはそれをあまりよくは思っていないらしい。だから、ここにくるたびになんて嘘をついてきたのか尋問されるのだ。耳にタコができるくらいに聞いたそのセリフ。いまだに僕たちの関係は、師弟関係から進んでいない。
    「今日は出勤日じゃなかったんですか?」
     リュウジさんからの小言は聞かなかったことにして、僕は話を続ける。
    「超進化研究所で三日ほど篭っていたら、羽島指令長に追い出された」
    「研究が楽しいのはわかりますが、程々にしてください」
     リュウジさんが正式に超進化研究所の職員になってから、最初に配属されたのが研究部門だった。指導員としてシンカリオンの技術的な知識を学んでいるうちに、そちらの分野にも興味が出てきたらしい。リュウジさんのお父さんもシンカリオンの開発に携わっていたと聞いている。血は抗えなかったのだ。
    「晩ご飯食べました?」
    「そういえば、そろそろそんな時間だな」
     リュウジさんのデスクには、小難しい書類が広がっている。超進化研究所を追い出されても、家で仕事をしていれば意味がない。
    「買い出しにいきましょう。どうせ冷蔵庫にろくなもの入ってないですよね?」
    「そうだな」
     リュウジさんは持っていた書類をデスクに置き、メガネを外す。イスから立ち上がると、壁にかけていたコートに身を包んだ。
    「行くか」
     財布とスマホをポケットに入れて、リュウジさんは部屋を出る。その背中を僕は追う。
    「今夜は何にしようか?」
    「寒いのでお鍋とかどうですか?」
    「鍋か。温まりそうでいいな」
     二人で買い物に行ったり、ご飯を作ったり、僕はこんな何気ない日常が好きだった。
     
     ♢♢♢
     
    「掃除、ですか?」
     リュウジさんに呼び出され部屋にやってくると、珍しくリュウジさんは部屋の掃除をしていた。
    「夕方、ハヤトが来るんだ」
    「今日のですか?」
    「そうなんだ。だから、片付けるのを手伝ってくれないか?」
     単身者向けのマンションでたいして広くはないといえども、リュウジさんの部屋は書類や関連書籍が床を埋めていた。それを片付けなければ掃除機もかけられない。だから、応援に僕が呼ばれたのだろう。
    「ハヤトが研修で名古屋に来ているみたいでな。俺の部屋に来たいとうるさくて」
     僕が来るときは掃除なんかしてくれないのにと、ふとそんなことを思う。そりゃ連絡もせずに突然押しかけるから仕方ないかもしれない。でも、こうやってちゃんと迎え入れられてみたいとも思ってしまう。
    「そこの本を棚にしまってくれないか?」
    「わ、わかりました!」
     むくりと沸いたネガティブ思考を吹き飛ばすように、僕は声を張り上げて答えた。
     リュウジさんの生活拠点はほとんど超進化研究所だ。ここには寝に帰ってきているようなもの。休みの日でもやることといえば研究に関する論文や書籍を読み漁ることくらい。僕が来たら、やっとご飯を食べる気になるとかそんな感じだ。よほど研究が楽しいらしい。だからと言って、掃除をサボりすぎではないだろうかとため息が出る。僕が運転士をしていた頃は、リュウジさんのデスクはもっと綺麗だったのに。
    「これ、こんなところにあったのか」
     本を拾い集めている背後で、リュウジさんの声が聞こえてくる。嫌な予感がして振り向けば、拾い上げた書類の束を読み始めていた。
    「リュウジさん、こんなんじゃ終わりませんよ」
     それを取り上げると、名残惜しそうにしながらもそうだなとリュウジさんは頷いてくれた。
     床のものが片付いたところで、掃除機と雑巾掛けをした。ついでに窓も棚に溜まっている埃も拭いておいた。それでやっと部屋が誰かを招待できるくらいに綺麗になる。
    「なんとか片付いたな」
    「普段からもっと掃除してください」
    「忙しくてな」
     僕の小言に対して悪びれもなくそう言うリュウジさんは、きっとまた掃除をサボるだろう。せっかく綺麗になったのだ。これを維持するために、ここに来る回数を増やしたほうがいいかもしれない。そう僕が企んでいると、不意にリュウジさんの指が僕の頬に触れた。それにビクリと思わず身体が跳ねる。そんな僕の頬からリュウジさんの親指が何かを拭き取る。
    「ずいぶん埃まみれにしてしまったな。シャワーを浴びてくるといい」
     どうやらゴミでも着いていたようだ。それを取ってくれたのだ。
     リュウジさんの何気ない行動に、相変わらず簡単に身体は反応してしまう。
    「それはリュウジさんもです。ハヤトさんが来る前に、シャワー浴びてください」
     それを誤魔化すようにリュウジさんを無理矢理風呂場に押し込む。それから僕は大きく深呼吸をした。
     リュウジさんの不意の行動に弱かった。きっと他意はない行動だ。それにいちいち反応してしまう自分が憎かった。
     なんとか気持ちを落ち着かせて、綺麗になったリュウジさんの部屋を改めて眺める。こんなに綺麗な部屋を見るのはかなり久しぶりで、なんだか初めてここにきたときのことを思い出してしまう。あの頃はまだ高校生だった。あの頃から僕たちの関係は少しは変わっただろうか。
     そんな物思いに耽っているうちにリュウジさんはシャワーを終えて戻ってきた。
    「シマカゼもシャワーを浴びてきてくれ」
     リュウジさんの気遣いに、いえと僕は断りを入れる。
    「僕はもう帰るだけなので」
     掃除は終わったのだから僕の役目は終わりだ。ハヤトさんが来る前に帰らなくてはならない。だが、リュウジさんは訳がわからないという顔をする。
    「帰る?」
    「いや、だってハヤトさん来るんですよね?」
    「来るが?」
    「じゃあ、僕は帰ったほうが……」
    「だから、なぜ?」
    「邪魔じゃないですか?」
    「なんで邪魔なんだ? ハヤトもきっとシマカゼに会いたがっていると思うぞ」
     そんな応酬をしていると、リュウジさんのスマートフォンがピコンと鳴る。
    「ハヤトからだ」
     どうやらハヤトさんからメッセージが届いたらしい。スマートフォンを操作して、リュウジさんは内容を確認する。
    「最寄駅に着いたみたいだ。迎えに行って、適当に夕飯も買ってくるからシャワー浴びておいてくれ」
     僕が帰るか帰らないかの押し問答をしていたはずなのに、勝手に結論をつけられていた。僕に反論をする間も与えず、リュウジさんはコートを着て、部屋を出ていってしまった。一人になったところで、僕はずるずるとその場に座り込む。リュウジさんの中に当たり前のように僕がいるようで、嬉しくてたまらなかったのだ。
     それからシャワーを浴びて、リュウジさんたちを待つ。リュウジさんの部屋に誰かを招くのは初めてだ。それもリュウジさんと一緒にもてなそうとしている。なんだか同棲しているみたいだとニヤニヤしてしまう。そうしていると、ハヤトさんを連れてリュウジさんが帰ってきた。
    「おじゃましまーす!」
    「ハヤトさん、お久しぶりです」
    「シマカゼくん、久しぶり。大きくなったね」
    「大学生になりました」
    「シンくんたちは元気?」
    「みんな元気にやってます」
     今夜も寒いから鍋になった。その鍋をつつきながら、ハヤトさんの鉄道の話が止まらない。超進化研究所の職員であるリュウジさんもそれなりに鉄道のことは詳しいが、それ以上のハヤトさんの知識量にたじたじとしていた。
     そうしていると、またリュウジさんのスマートフォンが鳴る。
    「すまない、超進化研究所から電話だ」
     休みの日に電話がかかってくるのは珍しい。家でも仕事をしているリュウジさんを休ませるためにか、普段は絶対にかかってこないのだ。それがかかってきたということは、何か相当大変なトラブルでもあったのかもしれない。
     スマートフォンを持って席を外すリュウジさんを心配げに見送る。その横で相変わらず忙しそうだねとハヤトさんが困ったように笑っていた。
    「羽島指令長によく休みを取れって怒られてます」
    「なんだか想像できるなぁ」
    「今日もハヤトさんがくるから掃除するのを手伝って欲しいって呼び出されて」
    「あのリュウジが?」
     研究に夢中になって私生活を疎かにする普段のリュウジさんの話をすれば、ハヤトさんに意外というような反応をされる。
    「研究のことになると周りが見えなくなっちゃうところがあって」
     リュウジさんの名誉のためにもフォローを入れると、まあでもとハヤトさんは続ける。
    「リュウジって家族のこと優先してきたから、こうやって自分のやりたいことを好きなだけやれるのが楽しくて仕方がないのかもね」
     リュウジさんは母子家庭で、僕が超進化研究所でリュウジさんに指導を受けているときも、勉強に家事にと忙しそうにしていた。こうやって、好きなことばかりしている時間を社会人になってやっと手に入れたのだ。
    「それでシマカゼくんが世話を焼いているんだね」
    「世話を焼いているというわけでも……」
     僕がリュウジさんの世話を焼いているだなんておこがましい。僕はただ私生活を疎かにしがちなリュウジさんがちゃんとご飯を食べているかとか、休んでいるかとかが心配なだけ。ご飯を食べていなかったら一緒に食べるし、休んでいなかったら羽島指令長の代わりに注意をするだけ。別に世話を焼いているわけではない。
    「でもさ、ちょっと羨ましいな」
    「羨ましいですか?」
    「うん、羨ましい。だって、リュウジにこんなに甘えられたことないもん」
    「リュウジさんが、僕に、甘えている?」
     思いがけないことを言われて、僕は目をぱちくりさせる。
    「出会った頃に比べて、頼ってくれるようにはなったけど、こうやって甘えられたことはないなぁ。リュウジにとってそれだけシマカゼくんは特別な存在なんだね。だから、リュウジのこと、これからもよろしくね」
     傍から見ても、リュウジさんの特別に見えているらしい。それはつまり僕たちはまるで恋人みたいと言うことだろうか。そう思うと顔がニヤついて仕方がなかった。
     
     ♢♢♢
     
     名古屋でイベントがあるというギンガにお茶でもしないかと呼び出されていた。アイドルとしてそれなりに知名度が出てきたギンガと僕なんかがお茶をしてていいのだろうかと思ったが、気分転換だからいいんだと笑っていた。それに次の新曲の参考にしたいとかなんとかで、僕とリュウジさんの話を訊いてくる。なんでも恋の歌らしい。それで世話をしてやってるんだとか、甘えてくれて嬉しいんだとかを嬉々として話せば、なぜか大きなため息を吐かれた。
    「シマカゼってもっとピュアな片思いしてるのかと思ってたけど、それってダメンズに引っかかってるだけじゃない?」
     そして、聞き捨てならないことを言われた。シンカリオンの運転士として苦楽をともにしたが、ここまで言われる筋合いはない。そう睨みつけるがギンガはどこ吹く風だ。
    「それか、シマカゼがリュウジさんをダメンズにしちゃったのかも……」
     恐ろしいとわざとらしく怖がるギンガをさらに睨みつける。でも、やっぱりギンガは気にしていない様子だった。
    「リュウジさんはダメンズじゃない。かっこいいし、仕事もできる。ただちょっと私生活を疎かにするところがあるだけで、それを僕がフォローしてあげてるだけ」
     僕が反論すると、それがダメなんだよと呆れられる。
    「シマカゼって結構尽くすタイプだけど、都合のいい男だと思われてない?」
    「都合のいい男?」
    「そう、世話をしてくれる都合のいい男」
    「リュウジさんはそんなんじゃ……」
     ないと言い切れなかった。
     リュウジさんの元に行って僕は何をしているだろうか。ご飯を食べているかと世話を焼き、掃除の手伝いをする。恋人みたいだと浮かれていたけど、確かに都合のいい男である。
    「それ、キープされてるんだよ。キープ」
    「キープ……」
    「そう、キープ。きっとシマカゼと同じくらい世話してくれる彼女ができたら捨てられちゃうよ」
    「……」
    「リュウジさんもひどい男だね」
     いつもだったらリュウジさんを悪く言うやつは、仲間であろうと反論する。でも、なんとなく心当たりがあるような気がして、上手く反論の言葉が出てこなかった。
     ギンガと別れてからも、ギンガとのやりとりが心にしこりを残していた。それでもリュウジさんには会いたくて、いつものようにリュウジさんの部屋に立ち寄る。なんとなく下がってしまった気分を誤魔化すように極力いつも通りに部屋に入れば、リュウジさんはいつものように出迎えてくれた。
    「今日はなんて嘘をついてきたんだ?」
    「えっ? あ、その、ギンガとお茶しに行くって……」
    「今日はずいぶん具体的な嘘なんだな」
     僕への尋問を終え、リュウジさんはデスクに向かう。そんなリュウジさんへ、今日のは嘘じゃないと言えなかった。ギンガの話をする気には、どうしてもなれなかったから。
    「ばんっ……」
     いつものように晩ご飯を食べたかを確認しようとしたところで、都合のいい男という単語が浮かんでくる。それで、続きが口から出なくなる。僕はリュウジさんにとって、ただの都合のいい男なのだろうか。だから、文句も言わずに家に迎えてくれるのだろうか。
    「シマカゼ? どうした?」
    「な、なんでもないですっ!」
     不意にリュウジさんが視線をくれる。それに無理やり笑顔を作って答える。きっと僕の顔は引きつっていることだろう。妙に息がしづらくて、変な汗が出てくる。
     そんな僕に、そういえばとリュウジさんがピンクの封筒を差し出してきた。
    「手紙、ですか?」
     リュウジさんの部屋に入り浸っているといえども、ここに住んでいる訳ではない。僕宛の手紙なんて届くのだろうか。封筒の表と裏をくまなく探すが、宛先がどこにも書いていなかった。一体誰からと首を傾げていると、リュウジさんが口を開く。
    「さっき、エントランスで女の子から渡されたんだ」
    「女の子?」
    「大学の友達なんじゃないか?」
     大学に女の子の友人がいないわけではないが、わざわざ手紙を寄越してくるような子に心当たりがない。それに友人たちにここに出入りしていることを言っていなかった。
    「でも、なんでリュウジさんが?」
     そもそも僕宛の手紙をなぜリュウジさんが持っているのだろうか。
    「シマカゼのお兄さんから渡してほしいと頼まれた」
    「僕のお兄さん?」
     弟はいるが兄なんていないぞと顔を顰めていると、俺のことだろうなとリュウジさんはなぜか得意げにしていた。
    「そう呼ばれるのも悪くないな」
     そして、しみじみとリュウジさんは言う。
    「今どき手紙を書いてくれるなんて、いい子じゃないか。返事をしてあげるといい」
     それにどことなく機嫌がいい。
    「リュウジさんは、僕に彼女ができればいいと思ってるんですか?」
     それは、まるで僕に彼女ができるかもしれないことを喜んでいるようだった。
    「そういう人がいてもいいお年頃なんじゃないかなと思ってな」
     その直感は当たっていて、僕は顔をしかめる。
    「俺も少し反省したんだ」
     そんな僕をよそに、リュウジさんは続ける。
    「研究に没頭して私生活が疎かになっているところを、シマカゼにフォローしてもらっている。だから、もう少し私生活の方もしっかりできるようにしていこうと思って。いつまでもシマカゼに頼ってばかりはいられない。シマカゼだって、二年後には就職だしな」
     リュウジさんのことを思えば、それは正しい判断なのかもしれない。まだ就活も始まってなくて、どんな進路に進むかも決めていない。もしかしたら名古屋を出ることになるかもしれない。そうなったとしても、リュウジさんはたぶん一人でも大丈夫だ。だって、リュウジさんは元々一人でなんでもこなしてきた。きっと僕なんていなくてもなんとでもなる。
    「嫌です」
     でも、それは僕が嫌なのだ。
    「僕は、僕がしたいようにしてるだけです」
     リュウジさんがダメンズだって構わない。いや、むしろダメンズのほうがいいかもしれない。もっと僕を頼って欲しい。もっと僕に甘えて欲しい。僕なしじゃ生きていけないくらいになって欲しい。だって、僕は――。
    「僕はリュウジさんが好――」
    「シマカゼっ」
     僕の言葉を遮るようにリュウジさんは僕の名前を呼ぶ。それで僕は押し黙ってしまう。
     リュウジさんが休みのたびにここにくる。リュウジさんだって、嫌な顔せず迎え入れてくれる。どこか僕を待っていてくれているようなところもある。だから、リュウジさんも僕と同じ気持ちなんだと思っていた。思っていたのに……。
    「今日は帰ってくれないか? 仕事が忙しいんだ」
     視線を合わせることなく、リュウジさんはそう言い捨てる。それに、わかりましたと答えることしかできなかった。
     
     ♢♢♢
     
     大学の最寄駅から地下鉄に乗って一駅。単身者向けのマンションの三階の一番奥の部屋。ドアノブに手をかけようとして、中に人の気配がないことに気づいてやめた。
     あれから何度もここに来た。しかし、リュウジさんはいない。この部屋に帰ってきている様子もない。それほどまでに、僕に会いたくないということなのか。その現実が重くのしかかる。
     玄関の前で座り込み、膝に額を押し付ける。ここにいれば、いつか会えるはずだ。それにここで座り込んでいるのは、少し当てつけのようなところもあった。僕の気持ちをリュウジさんにわからせるための、僕の本気度を知ってもらうためのアピールでもあった。
     そんなことを悶々と考えていると、スマートフォンが鳴った。もしかしたらと思い、誰からかも確認せずに電話に出る。
    「はい! シマカゼです!」
    「シマカゼ、久しぶりだな」
    「は、羽島指令長……。お久しぶりです」
    「忙しいところすまない」
    「いえ、大丈夫です……」
     電話から聞こえてきたのは、羽島指令長の声だった。それに落胆しながら、どうしたんですかと会話を続ける。
    「リュウジを引き取りに来てくれないか?」
    「リュウジさんを?」
     思わぬ依頼に、つい訊き直してしまった。そんな僕に研究室に篭ったまま帰らないんだと羽島指令長はため息混じりに言う。
    「そろそろ休ませたいんだ」
     リュウジさんが超進化研究所に篭りっぱなしということはよくある。それでも羽島指令長に追い出されたとリュウジさんは定期的に部屋に帰ってくる。そのはずなのに、リュウジさんは帰ってこない。まるで帰りたくない理由があるかのように。
    「いや、でも、僕は……」
     その帰りたくない理由とは僕だ。僕に会いたくないから帰ってこないのだ。そんな僕が迎えにいくなんてできるはずがない。
    「シマカゼはリュウジと一緒に住んでるんだろ?」
    「えっ?」
    「よくシマカゼの話をするから、一緒に住んでいるのかと思っていたが」
     違うのか? と羽島指令長に訊ねられ、答えあぐねる。一緒に住んでいるわけではなかった。たが、一緒に住んでいるくらいに入り浸っていた。何度も一緒にご飯を食べたし、何度も一緒に夜を越えた。
    「喧嘩でもしたか?」
    「喧嘩というか……」
     僕の歯切れの悪さから、羽島指令長にそう指摘されてしまう。
     喧嘩をしたのだろうか。いや、喧嘩すらさせてもらえなかった。リュウジさんは僕に彼女を作ってほしくて、僕はそれが納得できなくて。でも、告白さえも、口論さえもさせてもらえなかった。世話を焼かせてもらっているのに、いつまで経っても子ども扱いで、対等に扱ってもらえていない。
    「意地を張っているのはリュウジのほうだな」
    「そんなこと――」
    「なら、なおさらシマカゼに迎えに来てもらわないとだな。よろしく頼むよ」
    「あの、ちょ、待ってください! 羽島指令長!」
     僕が行くも行かないも言わないうちに、羽島指令長は電話を切ってしまった。
    「どうしよう……」
     スマートフォンを片手に途方に暮れる。
     リュウジさんに会うためにここに来た。それなのに、リュウジさんを迎えに行く足はすくんでしまう。だって、リュウジさんは僕に会いたくないからここに帰ってこないのだから。それなのにわざわざ会いに行っていいのだろうか。もう、リュウジさんには会わないほうがいいのかも……。
    「そんなの絶対嫌っ!」
     湧いてきたネガティブ思考を振り払うように、僕は立ち上がる。
     リュウジさんと会えなくなるなんて絶対に嫌だった。だって、僕はリュウジさんが好き。リュウジさんのそばにいたい。都合のいい男でも構わない。リュウジさんがどう思っているかなんて、この際関係ない。
     そう開き直ってしまえば、ここでうじうじしているのがバカらしくなる。僕はスマートフォンを握り直して、走り出した。
     
     ♢♢♢
     
     電車を乗り継ぎ、超進化研究所までやってくる。ここに来るのも久しぶりだが、ほぼ顔パスで中に入れてもらえた。廊下を真っ直ぐ進んでいく。指令室の先の研究室が立ち並ぶエリアの一番奥の部屋。そのドアの前に立つ。この先に、リュウジさんはいる。その事実に、僕はごくりと息を呑む。
     リュウジさんと出会ってもう八年くらいになる。最初は憧れで、それがいつの間にか恋に変わっていた。いや、そんな可愛らしい名前じゃないかもしれない。リュウジさんが他の運転士を褒めるのがおもしろくなかったし、リュウジさんの隣に誰かがいるのも嫌だった。そこは僕の場所だって大声で知らしめたかった。いつしか恋心は執着と独占欲に変わってしまったのかもしれない。
     そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、リュウジさんはずっとそばに置いてくれていた。それで僕から向けられるグチャグチャな感情を心地良いと思ってくれているものだと思い込んでいた。しかし、あの日、初めてリュウジさんにあの部屋から追い出された。どれだけ忙しくても、どれだけ部屋が荒れていても、追い返さなかったリュウジさんから初めて投げつけられた拒絶の言葉だった。それに傷付かなかったわけじゃない。でも僕は性懲りもなくあの部屋へ通ってしまうのだ。だって、リュウジさんに会いたいから。
     そんな気持ちも込めて、勢いよくドアを開けた。しかし、リュウジさんはどこにもいない。奥まったところで作業をしているのだろうかと、数歩歩いたところで何かにつまづいた。それで視線を下げれば、顔に本を載せたまま床に仰向けになって寝ているリュウジさんがいた。
    「リュ、リュウジさん! 大丈夫ですか?」
     そう声をかけると、もぞもぞと身体が動きだす。そして、顔に載せていた本を少しずらし、リュウジさんは僕を一瞥する。
    「シマカゼか……」
     僕の姿を確認すると、ごろりと気だるげにリュウジさんは反対方向へと寝返りをうつ。
    「どうしたんですか?」
    「シンカリオンの新システムがあともう少しで上手くいきそうなんだが、行き詰まった……」
     研究室をよく見てみると、図面や資料など試行錯誤の形跡でいっぱいだった。
     もう一度リュウジさんへと目を向ける。少しひげが生えていて、髪の毛もボサボサだった。
    「昔は、リュウジさんはもっとすごくて、もっと完璧だと思ってました」
     出会った頃のリュウジさんは臨時指導代理の責務を全うしながら、学業も家のことも抜かりなくこなしていた。そんなリュウジさんに憧れていた。そんなリュウジさんに恋をした。だが、今のリュウジさんにはそんな面影はどこにもない。
    「でも、あの部屋に通うようになって、ちょっとずつ僕に甘えてくれるようになったのが嬉しくて」
    「甘えてる?」
    「甘えてますよ。無自覚でしたか?」
     リュウジさんのそばで、リュウジさんの世話をして、リュウジさんを甘やかす。リュウジさんをダメンズにしたのは、ギンガの言う通り僕なのだ。
    「いや、その通りだな。俺はシマカゼに甘えすぎている。これではシマカゼが俺の部屋に来なくなったら、俺はのたれ死んでしまうかもしれないな」
    「リュウジさんはのたれ死なないですよ。だって、僕はいなくならないですから」
     渇いた声で冗談を言うリュウジさんのそばに腰を下ろし、髪に触れる。昔はこうやって頭を撫でられるのが好きだった。今は、僕がリュウジさんの頭を撫でてあげたい。
    「僕はずっとリュウジさんのそばにいます。だから、もっと甘えてもいいんです」
     僕の一言に、リュウジさんは目を見開く。そうかと思えば、シマカゼはずいぶん物好きなんだなと笑われた。これは遠回しの告白のつもりだった。それを笑われてムッとしていると、おもむろにリュウジさんがこちらに向かってまた寝返りを打ってきた。かと思えば、少し体を起こして、僕の膝の上にドカリと頭をのせてきた。
    「やはり人肌は心地良いものだな」
    「リュ、リュウジさん!?」
     これはいわゆる膝枕だ。突然のことにあわあわしている僕をよそに、リュウジさんは瞼を閉じてしまう。
    「え? ちょっ!」
    「三徹なんだ。少し寝かしてくれ」
    「寝るなら仮眠室で寝てください!」
     僕がそう叫ぶが、相当眠かったのだろう。リュウジさんはスースーと気持ちよさそうに寝息を立て始めてしまった。
    「どうしよう……」
     高校を卒業する前にはリュウジさんの身長に追いついていた。目線もほぼ変わらない。身体の大きさも同じくらいになったといえども、熟睡している成人男性を運ぶのは骨が折れる作業だ。それに仮眠室はここから真反対のところにある。
     大きなため息をついていると、研究室のドアが開く。
    「シマカゼ、急に呼び出して悪かったなって……」
     入ってきたのは羽島指令長だ。入ってくるなり、僕たちの状況に目を丸くする。
    「寝てるのか?」
    「寝ちゃいました」
     困ったように答えれば、やれやれと羽島指令長は肩をすくめた。
    「随分、甘やかされてるじゃないか」
    「甘やかしすぎちゃったかもしれません」
    「かもしれないな」
     そう言って、僕たちは笑い合った。
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    そいそい

    DONEはっぴーリュウシマ真ん中バースデー🥳

    真ん中バースデーとはあまり関係ない話になってしまいました。あと、ひっちゃかめっちゃかしてます。すみません🙏

    ※注意
    かっこいいリュウジさんはいません。
    社会人リュウジさんと大学生シマカゼくんの話です。
    ヤマクラ前に考えた話だったので、シマカゼくんの進路は捏造しています。
    かっこいいリュウジさんはいません←ここ重要
    あの部屋 大学の最寄駅から地下鉄に乗って一駅。単身者向けのマンションの三階の一番奥の部屋。鍵を出そうとしたが、中に人の気配を感じてやめた。そのままドアノブをひねると、予想通りすんなりと回る。そして玄関の扉を開けば、小さなキッチンのある廊下の向こうで、メガネをかけて、デスクに向かっていたあの人がちらりとこちらに視線をくれた。
    「また来たのか」
     呆れながら言うあの人に、ここからの方が学校が近いのでといつも通りの答えを返す。そうすると、少しだけだろといつも通りにあしらわれた。
     ここは僕の下宿先というわけではない。超進化研究所名古屋支部に正式に入所したリュウジさんが一人暮らしをしているマンションだ。もう少し超進化研究所の近くに住めばいいのに、何故か程遠い名古屋の中心部に部屋を借りている。そのおかげで僕は大学帰りに寄ることができているのだ。
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    そいそい

    DONEフォロワーさんからいただいたリクを元にして書きました。あんまりリクに添えた話にならなくて、本当にすみません🙇‍♀️
    リクありがとうございました🙌
    安城家に子守り行くリュさんの話です。
    「こんなことまで面倒かけちゃってごめんなさいね。ほらうち、お父さんが仕事でいつも家空けてるし、おじいちゃんおばあちゃんも遠くに住んでるから、こういうときに困るのよ。だから、リュウジくんが来てくれることになって本当に助かるわ。お土産買ってくるからね。苦手なものとかない? あっ! あと……」
     リュウジさんが持つスマートフォンから母さんの声が漏れ出ている。母さんの声は大きく、よく喋る。それは電話だろうが変わらない。そんな母さんの大音量のマシンガントークをリュウジさんはたじたじとしながら聞いてくれていた。
     母さんは大学の友人の結婚式に出るため、東京にいる。しかし、帰りの新幹線が大雨で止まってしまったらしい。それで今日は帰れないかもしれないと超進化研究所で訓練中の僕に電話がかかってきたのだ。このまま超進化研究所の仮眠室を借りて一晩明かしてもよかったが、あいにくナガラはフルコンタクトの稽古で不在で、家には帰らなければならない。しかし、家に帰ったら帰ったで、僕たち子供しか家にいないことになる。それは母さん的には心配なようで、どうしようかと頭を悩ませていると、俺が面倒見ましょうかとリュウジさんが申し出てくれたのだ。それでいつ運転再開になるかわからないからと、母さんは東京で一泊してくることになった。
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