そういう間柄島さんに呼ばれ大宮支部にやってきた。こうして大宮支部を歩くのも久しぶりで、なんだかソワソワしてしまう。そうしてシンと廊下を歩いていると、目の端で青と白が通っていくのが見えた。それに思わず足を止める。大宮支部であの青と白を見るはずがない。もしやと思い、それに向かって足が動き出す。
「シン、悪いが先に行ってくれないか?」
「え?いいけど、どうしたの?」
「野暮用だ」
何か言いたげなシンを置いて、俺は走り出す。そのまま追いかけて行けば、超進化研究所のマークのついたジャンバーが見えてきた。その人に言わなければならないことがあった。それはきっと電話とか画面越しではダメで、ちゃんと直接会って言わなければダメなのだ。
「リュウジさん!」
声の届くところまできて、その背中の主に呼びかれば、ピタリと足を止め、振り向いてくれる。
「アブト?」
その顔を見るのも本当に久しぶりで、やっぱり帰ってきたんだと何度目かの感慨に浸った。しかし、すぐに違和感が俺を支配する。俺の知っているリュウジさんよりも視線が冷たいのだ。敵でも見ているようなそんな視線。もしかしてリュウジさんは、まだ俺がテオティ側だと思っているのかもしれない。ならばなおさら言わなければならないことがある。怖気付くわけにはいかない。
「色々すみませんでした」
リュウジさんの冷たい視線から逃げるように、深々と頭を下げる。謝罪なのだ。自然だろう。それでもリュウジさんからの次の言葉が怖かった。どんなに罵倒されても仕方がない。微かにリュウジさんが動く気配がした。ぐっと奥歯を噛み締めていると、ぽすんとリュウジさんが持っていたバインダーが頭に乗せられた。これは頭を叩いたということだろうか。
「まったくだ。俺たちがどれだけ大変だったと思っている」
冷たい視線から逃れられた思っていたが、今度はリュウジさんの冷たい声が俺に降りかかる。
「ダークシンカリオンに、シンカリオンがどれだけやられたか。メンテナンスするにもどれだけ費用と労力がいるかお前ならわかるだろう?」
シンカリオンZの開発にも整備にも携わっている。何にどれだけの費用と労力がいるか、容易に想像できる。それに開発時とは違い、いつ巨大怪物体が現れるかわからない状況での作業だ。整備士たちは、もしかしたら徹夜を強いられたかもしれない。見知った整備士たちの顔が浮かんできて、ぎゅっと胸が締め付けられる。
「お前ならシンカリオンにどれだけの人の想いが詰まっているかも知っているはずだ」
父さんの想い。リュウジさんのお父さんの想い。いろんな人の想いが詰まっていることを、開発時に知った。それを俺は壊そうとしたのだ。
「それにシンだって、死ぬかもしれなかったんだぞ」
その一言に握りしめていた拳が震える。俺は何度も何度もシンに酷いことをした。シンが死ななかったのは、ただ運が良かっただけかもしれない。シンが笑顔で俺の横にいてくれるから忘れていたが、それほどまでに俺は酷い仕打ちをしたのだ。改めて突きつけられて、俺は膝から崩れそうになる。
「あと、これだけは忘れるな。お前はシラユキさんを、自分の母親を泣かせたんだ。絶対に忘れるなよ」
追い討ちをかけるような一言も、俺は甘んじて受ける。だって、これも事実だから。父さんが居なくなって、俺に隠れて泣いてる母さんが頭によぎる。同じことを俺はしてしまったのだ。
「もっと言いたいことはあるが、俺が同じ立場に立たされたら、おそらく同じことをするだろう」
「えっ?」
リュウジさんの言葉に、俺は思わず顔を上げる。そこには俺が知っているいつものリュウジさんがいた。
「だから、説教はこれくらいにしといてやる」
そして、頭を優しく撫でられる。
「おかえり、アブト。トコナミさんには会えたのか?」
「会えました。あまり話せなかったけど…。それに、またどこかに行ってしまいました…」
父さんはカンナギたちと宇宙のどこかへ行ってしまった。本当はもっと話したかったし、一緒に母さんの元に帰りたかった。また手の届かぬところへ行ってしまったのだ。
「俺はシンカリオンに乗って、仲間に出会って、一人で抱え込んでも仕方がないことを学んだ。ここには信頼できる仲間も、頼れる大人もいる。今度はみんなでトコナミさんを迎えに行こう」
「もちろんです!」
リュウジさんの言葉は力強い。俺が不安に思うことなど一つもないのだと、確信させてくれる。
「リュウジさんのこと、頼りにしてるんで」
そう言ってのければ、調子のいいやつだなとリュウジさんは笑ってくれた。やっといつものリュウジさんとのやり取りができて、ホッと胸を撫で下ろす。
「そういえば、今日はなんで大宮支部に?」
リュウジさんは名古屋支部所属だ。シマカゼやナガラの付き添いならともかく、一人で大宮支部にいるなんて珍しい。
「ダークシンカリオンを拝みにきた」
そう言うリュウジさんは、いつもより子どもっぽい顔をしていた。シンカリオン好きとして、純粋に興味があって見にきたのだ。それも俺のシンカリオンをだ。なんだかそれが嬉しくてたまらない。
「どうです?俺のシンカリオン?」
「うちのシンカリオンのほうがカッコいいかな」
「いやいや、ダークシンカリオンも負けてませんよ」
そんなことを言い合いながら、俺たちは車両基地へと向かった。