やさしいゆびさき 隣に腰掛けたルークが、何も言わずにそっと手を触れ合わせてくる。その感触に気付いたボクは、ちらりとだけその指先を見たあと、そっと触れ返す。
「ふふ……」
「な、なに笑ってるの、ルーク……!」
堪えきれずに漏れたような笑い声に、恥ずかしくて合わせられなかった視線をつい向けてしまう。
「ごめんよ、シキ。つい、君が赤ん坊だった頃を思い出しちゃってさ。ほら、いっつもこうやって僕の指握ってくれただろ」
「ルーク、その話何回め……?」
「そ、そんなに話してるかなぁ!?それぐらい大切な想い出なんだよ!」
記憶を失ってた僕が言うのもなんだけど、と焦り顔のアナタは言う。
「あの頃、僕は君が元気に大人になれますようにって、毎日願いながら会いに行ってたからさ。嬉しいんだよ、今がとっても」
向けられるその屈託のない笑顔を見ながら、その時の触れてくれた温度が恋しくて、触れ合える今がボクも同じように嬉しいんだよ、と。喉元まで出かかって、開いた口をそっと噤む。
(いつか、言えたらいいな……)
まだ声に出来ない想い出を胸に仕舞いこんで、代わりにその指先をぎゅうと手のひらいっぱいで包み込んだ。アナタが何度だってボクとの想い出をその胸に抱いてくれるように。
おしまい