Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    rabimomo

    @rabimomo

    桃山らびの書きかけなどのちょっとしたログ置き場。
    GK月鯉(右鯉)、APH普独(右独)など。

    ツイッター
    @rabimomo (総合)
    @rabi_momousa (隔離)

    普段の生息地はこちら
    @rabimomo_usa

    完成した作品や常設のサンプル置き場はpixivまで
    http://pixiv.me/rabimomo

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 17

    rabimomo

    ☆quiet follow

    昨年の月鯉バレンタインSS企画の続きです
    書きかけのデータ発掘したので書き足しました
    2022年の話なので、14日が月曜日のような描写になってますが気にしないで読んでいただければと思います!

    #月鯉
    Tsukishima/Koito

    バレンタインSS拡大版—-140字SSは以下—-
    店先の華やかな一画が視界に入る。今までの人生では縁のなかった場所だが、足を止めて見入っていた。我ながら浮かれていると呆れるが、誤魔化しようなく浮き足立っているのも事実で――店員に呼び止められ、今時は男性から贈ることも珍しくないと告げられ、包みを一つ。鯉登さんの笑顔が脳裏を過った。

    ———ここまで———

     通勤鞄とスマートフォンに交互に目をやりながら、月島は深々と吐息を漏らしていた。
     二月十四日。なんの変哲もない平日、しかも週初めだ。社会は年始の慌ただしさから抜けきれぬまま年度末に向かい突き進んでいる。月島とて暇な時期ではない、学生である鯉登もまたレポートや試験で忙しくなってくる頃合いだろう。
     ――何をやってるんだ、俺は。
     冷静に考えると顔から火が出そうになる。柄にもない、年甲斐もないが、正直浮かれていた。色とりどりのきらきらした小さな菓子たちは華やかで、売り場は良いにおいに包まれており、それはあの人にとても良く似合うと、思わず足を止めてしまったのだった。
     甘いものをあまり好き好んで食べない月島には、良し悪しなどわかるはずもない。けれど月島でも知っている(おそらくそれなりに良いものであろう)メーカーの小さな箱は、現に月島の無愛想な通勤鞄の中に放り込まれている。可愛らしい赤やピンクのハートをあしらうラッピングは、月島にはもちろん鯉登にも似合うようなものではない。しかし贈り主は男性なのでと断りを入れ、落ち着いた包装紙を指定する余裕さえ月島にはなかったのだった。
     ――と、そこまで考えて額を抑えた。この際そのようなことは些細な問題だ。そもそもの話、これをどうしようというつもりなのか。
     もう一度深々と溜息を吐き出した、その瞬間にスマートフォンが微かに音を立て、月島は反射的に見遣った。真っ暗で無機質だった画面に浮かび上がる小さなアイコンと、簡素なメッセージ。
    『今日、会いに行ってもいいか?』
     彼にしては珍しく飾りっ気もないシンプルなメッセージだ。タップし、了承のメッセージをなぞる指先が僅か震えた。


    * * * * * *

     二月の冷え切った空気を切り裂いては往来する、人々の群れ。帰宅ラッシュもピークの時分、スーツの群れは足早に駅のコンコースへと吸い込まれていく。変わり映えのしない街の風景は、今日が平日であるのだとありありと知らしめている。
     月島はきっと、疲れているだろうな。
     残業はせずに帰りますと、返って来たメッセージにはそう書かれていたが気を遣わせたのは明白だ。週初めから寄り道をするよりは、早く帰って休みたいに違いない。学生とは生活のリズムが違うのだとは理解すれども――けれども今日でなければ、意味がない。
     バレンタインデー。そのようなものに、特別な興味を抱いたことなどただの一度たりともなかった。母親から少し特別なチョコレートを貰うくらいが、せいぜいそれらしいことだった。顔もろくに知らない女子からわけのわからない包みを押し付けられそうになったことは正直数えきれないほどにあったが、よくわからない相手から受け取ったものを口に入れるなどしたくない。一切を受け取らないという噂が回りきる頃合いには随分と面倒は減ったが、それでも鯉登の中では紛れもなく『憂鬱な日』だったはずだ。
     けれどこの浮ついたイベントも、傍らに月島がいると思えば途端に華やいで映るものだ。こういうものも悪くはないと、心から思えたのだった。可愛らしいラッピングは自分にも月島にもあまりにも不釣り合いだが、いっそこれくらい『らしい』方が雰囲気が出て良いのではないか。仏頂面でピンクの包装を抱える恋人は、きっと周りの目からも微笑ましく映るに違いない。
    「鯉登さん!」
     人混みの向こう側から響いた声に、鯉登はその人を探る。白い呼気を弾ませる月島と視線が交わる、その途端に月島の表情が強張った。
    「鯉登さん、それ……。どなたかからの、プレゼント、です……?」
     その瞬間の月島はらしくないほどに歯切れが悪かったのだったが、月島の推察に飛び上がりそうになる鯉登はそれどころではなかった。
     男がこの日にこの包みを抱えていれば、それが女性からの贈り物であると映るのは至極当然のことだ――あまりにも浮かれすぎていたために、すっかりと頭から抜け落ちていた。誰から差し出された包みも例外なく受け取らずにきたというのに、よりによって月島から誤解されてしまうなど……ざわりと背筋に悪寒が走り、鯉登は大きく首を振るった。
    「ち、ちごっ! こいは、わいに……!」
     ――ほんとうは。
     このような雑踏の中で仕事帰りの月島に包みを押し付けるのではなく、どこかの店かせめてどちらかの部屋で手渡せれば良かったが――如何せん平日だ。勤め人の月島に無理を言えるはずもなく、あまりにも味も素っ気もない逢瀬だ。けれどそれを惜しむよりは、一秒でも早く誤解を解きたかった。凝り固まった眉間の皺を、穏やかな笑みに塗り替えてしまいたい。
    「! あ、ぁ、え……?」
     鯉登の言葉に、ぽかんと呆けた顔で月島が瞬きを繰り返す。ここまでは想定内だ。落ち着いた場所に移動する余裕もなく人混みで手渡すことになったのは勿体無いが、月島は鯉登からバレンタインに贈り物を貰えるとは思っていなかったのだろう。驚きに揺れるその瞳を見ることが出来た、それだけで鯉登の気分は跳ね上がる。愛しい恋人への、小さなサプライズとささやかなプレゼント。この日くらいは、負担にならない程度の匙加減で、少しは想いを乗せてみたかったのだった。
    「――鯉登さん!」
     人前には似つかわしくない大声は、喧騒を裂いて鯉登の鼓膜を震わせる。それは未だの動揺かと思いきや、無骨な指先は抱え持っていた黒地の鞄の留め具を慌ただしく外した。
    「鯉登さん、これ……」
     遊び心の一切ない、素っ気ないほどにシンプルな鞄から取り出された長方形は、陽の光の届かぬ二月の夜半であろうと、街灯と街明かりの中でも一際色鮮やかだった。赤を基調とした包装紙に、パステルカラーのリボンが留まる。明らかに『この日』のためのラッピングは、この日を義理や世間体のための慣習が行き交う、面倒なだけの行事だと思っていそうなこの男の、一切の無駄を省いたような鞄の中から飛び出して来た。迷わず真っ直ぐに差し出されたそれは、断りきれずに押しつけられた包みをこれ幸いと差し出したものではないのだとは明白だった。そのような誤魔化しが出来るほど不誠実な男ではなく、器用でもない。それは明らかに鯉登のためのもので、他でもない月島が鯉登のためのものだと認識しているが故に、迷わず鯉登に差し出されたものだ。きっとそうであるに違いないだろう。
    「――……月島ぁ!」
     小さなサプライズなど吹き飛ぶほどの大きな喜びに、思わず飛びついた。その先で月島も、ほんの少し照れたように、けれど嬉しそうに瞳を細めて穏やかな笑顔を作るのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍🙏🙏🙏🙏🍫🍫🙏🙏☺☺💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works