「襧豆子ちゃんナンパされてもついていっちゃ駄目だからねえ!」
「もう。子どもじゃないんだからついていかないよ。善逸さんは少し心配しすぎよ」
「いやいやいや!さっき、ついていこうとしてたでしょう!俺が間に合ったから良かったけどさあ!」
「あれはナンパじゃないよ。駅が分からないって言ってたよ」
「あれはナンパの常套句だよ、襧豆子ちゃん。訊ねられた駅の近くにはファミレスもカラオケもあるでしょう?駅の場所分からないって言って一緒に駅まで行って、どうせだったらちょっとお話しよっかって流れなんだよ」
「……ふうん。詳しいんだね、善逸さん」
「やだ!襧豆子ちゃんの視線が冷たい!俺は襧豆子ちゃん一筋だからねえ!!」
「善逸さんはナンパ、したことあるの?」
「……黙秘で」
「したことあるんだ」
「襧豆子ちゃんと出会う前の話だよ!襧豆子ちゃんと出会ってからは一度も頭の片隅にさえ浮かんだことないよ!今はもう襧豆子ちゃんだけ!!」
「わたしだって善逸さんだけだよ。だからね、善逸さんが心配するようなことなんてないよ。わたし、ナンパされてもついていかないもの。……でも、そっか。善逸さんはナンパしたことあるんだね」
「……わかった。俺、今から襧豆子ちゃんをナンパする!襧豆子ちゃんはナンパを断ること!俺、本気でかかるからねえ」
「ふふ。それなあに」
「だって襧豆子ちゃんはナンパされても着いていかないんでしょう?それを俺に証明してよ」
「いいよ、本気でちゃんときてね、善逸さん」
「よし!……こんにちは、お嬢さん」
「はい。こんにちは」
「あ、可愛い笑顔。ねえ、良かったら俺とお茶しませんか?」
「はい、喜んで」
「……。襧豆子ちゃーん!!ダメじゃん!即OKだよ、それ!」
「うん。そうだねえ」
「そうだねえ、じゃなくて!襧豆子ちゃんはナンパを断るんでしょう」
「うん、でも善逸さんなんだもの。善逸さんにナンパされちゃったらわたしどこへでもついていっちゃうよ」
「っ!」
「ねえ、善逸さん。お茶はしないの?」
「うん。そうだね。じゃあ、お茶に行こうか。へへ、俺はじめてナンパに成功したよ」
「えへへ。わたしもはじめてナンパについていっちゃうよ」
「それは危ないね。どこに連れていかれるか分からないよ?」
「まあこわい。どこに連れていかれるのかな?」
「そうだな。カフェでお茶したあとに俺の家とかどうかな?」
「えへへ。テイクアウトされちゃうんだね」
「禰豆子ちゃんをテイクアウトか。いいな、それ。頂きますって残さずに食べちゃうね。そうだ。カフェの前にちょっと味見しておかないとだ、ね」
イチョウの木の下で、リップキス。
ちゃあんと背を屈んで、ちゃんと背伸びもきちんとね。