crase cafeでは、メイコの指示のもとレンたちが慌ただしく調理や飾り付けを行っていた。
「……照れるな、『ミクお帰りパーティ』なんて」
その様子を眺めながらカウンターで一杯、照れた様子でコーヒーを飲むのはパーティの主役のミクである。
カフェを押し流す黒い絶望の渦に飲み込まれた彼女だったが、彼女が帰ってこれたのはこはねたちと彼女たちを支えた全員の結果だろう。
「ねえメイコ、やっぱり私も何か手伝うよ」
「いいの、パーティの主役はあなたなんだから」
僅かに腰を浮かしたミクをすぐさま座らせて料理に戻るメイコだが、その表情に浮かぶのは『ミクを主役として立たせたい』だけではないだろう。特に、メイコの戦場である調理場に立たせないのは。
「あははっ。でも、みんなすっごい心配してたんだからね〜? たまには主役としてどっしり構えてよ、ミク!」
不服げに座り直すミクに軽い笑い声を立てるのはルカだ。彼女はニンマリ笑いながら、店の中を眺める。
「メイコ、すっごい心配してたんだからね。あとカイトとかも」
「へえ? ちょっと意外」
「ちょっとちょっと」
ルカの言葉にミクが意外そうに頷く。名前を呼ばれたカイトといえば、ホイップクリームを泡立てる手を止めて目を瞬かせた。
「そりゃあ普通に心配だったに決まってるじゃん、リンもレンも心配だったもんね?」
気持ち早口で弟子の二人の名前を呼ぶと、二人はこくりと頷く。そして、口々に話し始めた。
「オレたちがカフェの片付けしてるってのにふらふらいなくなってさ、何してるんだって怒鳴りにいこうとしたんだよな」
「そしたらカイト、今にも泣きそうな顔でミク探してるんだもん。怒鳴る気なくなっちゃった」
「リン、レン〜!?」
カイトの味方どころか、彼の取り乱しようを物語る援護射撃にカイトは大声をあげる。
「ふーん、そんな心配してくれたんだ。ごめんね、カイト?」
そして極め付けにはこのニマニマした笑顔のミクである。
「そ、そんなことないから!!」
カイトの悲鳴は、誰の心にも届かなかった。