無題「きーよーみーつっ!」
「げぇっ…見つかった…」
物陰に隠れて畑当番をサボろうとした犯人は、子供のように唇を尖らせて拗ねた様子だ。早速サボりが見つかり、バツが悪いらしい。
「この本丸の初期刀兼近侍様が率先して内番サボってどうすんのさ。ほら、さっさと立って行くぞ!」
「うぅ〜、それはそうなんだけど…嫌なもんは嫌なんだよー。…わかったから!ちゃんと行くからもうちょっと休ませてよ」
「…はぁ、ちょっとだけだぞ」
我ながら甘いとは思うが、コイツが近侍として日々本丸を支えるためずっと働きづめなのは知っている。
元の主の腐れ縁として、そして恋刀として、僕だって少しは甘やかしてやりたい気持ちはあるのだ。
「えっへへ〜、やったー!んじゃ、もうちょっとサーボろ!」
「お前なぁ…」
調子の良いやつだと呆れた目線を送りつつ、何度もこう絆される自分にも呆れ返る。
「ねぇ、安定〜。ちょっと仰いで」そう言って清光は寝転んだまま、こちらに背を向ける形で座り直した。
何をして欲しいのか察しがついた僕は、黙ったままその背中の上に跨り馬乗りになる。
首筋を撫でるように風を送ると、清光が気持ち良さそうに目を細めた。
畑当番なんて面倒なものは早く終わらせてしまいたいのだが、こうして好きな相手が喜ぶ顔を見るのは悪くないと思う。
僕はしばらくそのままの姿勢で、清光の首筋に汗が流れるさまをぼんやりと眺めていた。
ふいに僕の視線を感じた清光が振り返ると、
「何?俺見つめてそんなに楽しい?」
小悪魔のような、揶揄うような笑みに胸がドキリと高鳴る。いつもなら照れて顔を逸らすところだが、今日は何だか意地悪をしたくなって、わざと何も言わずにじっと見つめ返した。
すると、だんだんとその頬が赤く染まっていく。
耳まで真っ赤になったところで、耐えられなくなったようにそっぽを向いてしまった。
「見過ぎ…照れるんだけど…」
いつの間にか形勢逆転していたらしい。
「…ねぇ、清光」
襟巻きとうなじの隙間にそっと手を差し込む。
指先が肌に触れる瞬間、ぴくりと身体が小さく跳ねた。
その反応に気をよくして、今度はうなじから頸椎にかけてゆっくりとなぞっていく。
まるで情事の最中のように熱を帯びた瞳がこちらを振り向いた。
その表情を見て思わず口角が上がる。
赤い目がとろりと溶けたかと思うと、キッと吊り上がる。
「…って、ちょっ、まだ昼だから!!お、俺畑当番あるし、堀川困っちゃうから!じゃっ!!」言うなり勢いよく起き上がり、清光は逃げるように走り出した。
残された僕は、その背中を見送ることしか出来ない。
ほんの出来心だったのだけれど、これは失敗してしまったかもしれない。
もう少し、焦らしてやるつもりだったのに。
仕方ない、今日の夜は甘やしついでにたっぷり可愛がってやろう。