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    dhastarflower

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    dhastarflower

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    山今山ワンドロワンライの「しあわせ」テーマの小説です。
    山本と今井くんがお付き合いしている話。
    前半はめちゃ幸せですが後半は注意です。

    しわあわせ「…ごめんね、今井くん」
    「いえいえ、仕方がないですよ。仕事が大事なのは俺もわかりますし。といいますか、ミステリーキッスの為にしっかりと働いてもらわないとファンは困ります!どうぞどうぞっ」
    「さすがというかなんというか…ファン冥利に尽きるね」
    「まぁそれはミステリーキッスファンの俺はって話ですけど。山本さんはほっとくと折角の休みの日まで接待とか仕事の用事を入れるから」
    「…だからごめんって」

    文面を打ちながらバツが悪そうな顔をスマホではなく、隣に座る今井に向け再度謝る山本に今井がため息を吐く。

    「謝ってほしいんじゃなくて、もーそういうとのですよ。身体の心配してるんです。折角のお休みだからゆっくりしていいんですよ?俺と食事行くのやめたって…」

    アイドルマネージャーの仕事は勿論のこと、立ち上げたばかりの事務所の雑務などもなんでもこなさなくてはならない多忙の山本に月にいくつあるのかむしろないに等しいのではないかという、一日何もない休暇だった。本来は。
    今井の仕事終わり次第食事に行く約束をしていたのだが、急な変更がありその業務を急ぎでやらねばならなくなった。

    「約束時間に間に合いそうになくてひとまず家に呼んだ俺が言うのも申し訳なくてなんだけど。やだよ、俺今井くんとの約束楽しみにしてたんだから!今井くんは違うの?」
    「まさか!めちゃ楽しみにしてましたよ!なかなか山本さんと会えないのも、あ、りますし…その、…会いたかったですし、俺は…」

    言いながら今井の顔が、かあっと赤く染まる。
    山本と今井がこうして食事の約束をしているのはアイドルグループのマネージャーとそのファンの関係ではない。
    恋人の関係である。
    デビュー前の忙しさからなかなか会えず、付き合うことになってから日は経っていても、初々しい年下恋人の照れた様子に山本は満足気味ににやける。

    「…俺もだよ。まぁ、こうして会えたからそれはそれで俺的にもいいけど、仕事終わりで今井くんも腹減ったでしょ?はやく食べにいこうよ、それからゆっくりすればいいじゃない?

    …………で、それはそうと今井くん」

    先程から気になって仕方がないことを山本は切り出した。
    目線もそこへ、移動する。
    動いている右手ではなく、左手をわざと高くあげれば今井もなぜかそれにくっつく。


    「…さっきからこれなに?」



    【しわあわせ】


    ふいに今井が山本の左手に触れた。
    ただ何気なく触れただけかと意識していなかったが、いつまでたっても離れることはなくまたそれ以上、他を触ることもなく左手だけを執拗に触ってくる。
    恋仲になったのだから手を握るくらい何度もあればそれ以上のことだってしている。
    そういった雰囲気にさせるかのような熱っぽいものでもなく、例えるなら子供が興味本位にベタベタ触るそれに近いかもしれない。
    あまりに気になって無視出来ず我慢を切らして山本は聞いた。


    「すいません、邪魔ですか?」
    「あとメールだから片手でできるからいいけど…。いや、気になるでしょ普通に。なに甘えたがりなの」
    「甘…がっていうか…」
    「?」
    「あ、どーぞ、続けてください」
    「あ、うん?」

    止まった右手を再開させる。
    左手をまた持ち上げて、ひっくり返したり色々な角度を楽しんでいる。
    一人遊びの延長線なのだろうか、だが人の手で遊んで何が楽しいのだろうかど山本はスマホだけに目を通しながら首を捻った。
    今井が両手でぺたぺた触れながら、あのですね、と会話を続ける。

    「ミスキスのスケジュールを男の人にしては綺麗な堅い文字で手帳に書くのも、携帯をいじるのも、チェキ撮るのも、ファンを誘導するのもみんな、山本さんのこの手がしてくれてるんだなーって思ったら不思議だなぁって…」

    仕事に集中している山本は今井の声だけしか聞こえず、あまりにも不思議そうな声色に何をまた変なところに疑問を持つのだと頭の隅で思う。
    好奇心旺盛な子供みたいな突拍子のない質問や疑問を投げかける今井にまた首を捻った。

    「……何をまた。不思議って、キミのとなにも変わらないだろ」
    「えーっ違いますよ!俺字は汚いし、twitterの誤字脱字も多いし」
    「Twitter関係なくない?俺はそれよりキミのネットリテラシーのなさ気になるよ…個人情報出しすぎないでね?二階堂の応援アカウント立ち上げてくれて嬉しいけどさぁ…この間なんて」
    「話すり替わってません?山本さん俺のアカウントよくみてくれてますよね」

    しつこく触れさらに離さない。
    いい加減にしないと時間になるぞと抗議しようと言葉を用意したが、次の予想外の今井の言葉に掻き消されてしまう。

    「山本さんが事務所立ち上げてくれなかったらミステリーキッスは生まれてないし、俺も推しができなかったし、山本さんにも勿論会えなかったし、まさかこうして付き合うこともなかったんだなぁと思うと不思議じゃないっすか?仕事する山本さんの手があってこそ今があるんだなぁってなんかしみじみしちゃって」

    送信のボタンを押して今井の方へやっと目線を移す。
    ゆっくり見ればそこには手相でも見ているのかと問いたくなるくらいにまじまじ山本の手にかじりつく今井がいた。

    まさかそこまで考えて思ってくれていたのかと知れば何か照れ臭いような感情がじわじわと沸き上がってきて、過剰に意識をしてしまう。
    触れてくる今井の手が熱くて仕方がない。
    そして同時に目を細める。

    今井はたまに意表をついて人を驚かせる事がある。他人には理解出来ない行動言動も多いが、また他人が考えもしない事を何気なく普通の会話で出してくる言葉に深く心にずどんとくることが何度か山本は経験していた。
    今井が生まれ持つ感性がそうさせているのだろう。
    誰にも真似はできない。
    そういったところも、この子の魅力なのだろうかと。

    「山本さん凄いなぁって…。といいますか、山本さんの手、手のひら大きくて指も長いのに細めですね?節は太いけど。手のひらの厚みはあって…爪の形も俺のと違うし?はー…こうしてみると違うものですねぇ」

    同じ男でも手の違いはあるだろうと呆れた口調で言いたいところだが、ただ手を見られて触れているだけなのに、妙な汗が滲みでてくるのを感じて何とでもないようにごまかすのに必死な山本を他所に今井は触るのを止めない。

    指の一本一本曲げたり触ったりを繰り返す。指と指の間も形に沿って何度とU字を描くようになぞられた。
    今井のなぞったところから、むず痒いような感触が全身に伝わってきて次第に仕事どころではなくなる。その今井の動きが何かを連想させていて山本は内心焦りはじめる。


    「ま、ぁ人それぞれだろ。体格差があれば手足の差だってあるだろう?不思議でもなんでもない…」
    「山本さんの手、好きですよ」
    「な、はぁ」

    今井のなにも考えずに思ったことをただ口にする癖。
    それにこのタイミングでまんまとやられた山本は完璧に右手の動きどころか全身の、思考すら停止する。
    もはや暖かいではなく熱い部類に入るくらいに体温は上昇傾向にあるのだが。
    触っているのに、なにかもどかしく確実な刺激がなくさわさわと指の腹でだけでいったりきたりを繰り返す。
    じつをいえば先程から今井の指の動きが、愛撫のように感じてしまう山本だった。
    不謹慎であると山本の頭の中では口論が繰り広げられているが、今井の動きが気になれば気になるほどに敏感に感じ取ってしまう。
    自分が今井に対して行っているものと酷似していて…。

    「……わざと?それ…」
    「?」
    「……いやなんでもないよ…」

    あまりにも自然な首の傾げ方にこれは確信犯的なものではないと瞬時に察した。
    おそらく身体のどこかで記憶している動きをただ真似しているのだろうか、はたまた自分が意識しすぎているのだろうか。
    とにかく山本の衝動を何度と刺激されて押し込むことに必死になっているのに今井は全く気づかない。
    厄介だ。


    「…わかった、わかったから。もう触るのやめて。いつまでもそうされちゃ飯食いにいけないでしょ」

    飯食いにいけない、に、別な意味が含まれているのだが、それは喉の奥で飲み込んだ。

    「あ、じゃあ最後にこれだけ。一個だけいいですか?山本さん手の平だしてください」
    「……こう?」
    「ううんあの、俺の前に向けてくれます?」

    犬に待て、と命令する時のように手の平を前にだせば今井の手の平も山本に合わせて前にだす。
    そのまま、今井が山本の手に合わさるように手を重ねた。
    手の大きさを比べ合う形になって、何をしたいのかわからずまた山本は首を傾げる。


    「“しあわせ”…なんちゃって!」
    「は?」
    「手のしわとしわを合わせて“しあわせ”だって、柴垣が言ってたの思い出して。あ、あの同じバイト先のお笑いの。知ってます?ホモサピエンスって」

    知ってるも何も君の推しが付き合ってるのほの片割れだよとは山本は言えず、曖昧にああと返事だけしといた。

    「こんな風に手と手を合わせてなんかギャグ言ってたんですけど。“しわあわせ”と“しあわせ”掛けてて…」
    「昭和のダジャレね…」
    「あ、山本さんわかります?さすが!」
    「さすがって言われるのめちゃ複雑だけど!」
    「山本さん見た目若いけどちゃんと昭和生まれなんすねぇ〜」
    「…おじさんで悪かったね…結構気にするんだけど」

    不本意に年の差を感じさせられて、思わず眉間に皺が寄る。
    10歳も違えば、昭和と平成の壁だってある。
    少し生まれるのが遅ければ俺だって平成だったと言い訳したくてもそれはとても大人気ないと山本はきゅぅと口を結んだ。
    こちらの複雑な気持ちなど気にしない様子のゆとり世代の若者はケラケラ笑う。

    「山本さんが自分でおじさん言うの面白いですね?柴垣が言うのはわかるんすけどぉ〜」
    「他人事だと思って…同い年のやつよりは若いとは自分でも思うけど、君みたいな20代にはさすがに負けるよ…肌の質感とかさ」

    言いながらまだ触れ合ったままの手に視線をうつす。
    触れ合った手の平からじんわりとまた温かさが広がっていくのを感じて目を細める。
    自分ではない体温がこんなにも温かく、たまに熱く感じてしまうのに気付いたのはいつからだったろうか。


    「“しあわせ”ですか?山本さん」

    山本の顔が一気に赤く染まる。
    常にじわじわっと感じていたものを口に改めてされてしまうともどかしいような照れ臭さに戸惑いを隠せない。

    「な、にを急に…」
    「俺の手から伝わってきません?」
    「っ今井…く、」
    「ね?」


    ふにゃ、ととろけるような笑顔で心底幸せそうな今井が確かめるようにそう言えば、山本の顔も思わず緩む。
    伝わる温もりがじわりじわりと互いの体温に混じり合う感覚が、かゆいようなもどかしいような。

    「あ」
    「?」
    「伝わってきました」
    「は?」
    「“俺もだっ”て」
    「……、」
    「言ったでしょ?」
    「…伝わるものなの?」
    「しわとしわが合わさってますならね」
    「…なにその理屈、…まぁ」
    「うん?」
    「間違ってはいないね」

    観念して息を吐く。
    (─ああ、かなわない)

    また今井の顔が横にのびるのを見て自分の手からまた“しあわせ”だとに伝ってしまったのだろうかと思う山本だった。



    ***

    「ひとまず君の“しあわせ”はミステリーキッスのデビューだね」
    「そりゃそうですよ!はぁーまだかなぁ?デビューの話まだ進まないんですか?」
    「…決まったよ」
    「はい?」
    「12月25日」
    「ええええええええ?!ま、マジっすか!」
    「今決まったんだって」
    「わーーー!えーー!?すごい、すごいっすね!だからあんなに慌てて連絡してたんですね」
    「二階堂達も喜んでさ。LINE通知とまんねぇよ、ほら」
    「そりゃそうですよーールイたん達の頑張りも勿論ですけど!やっぱり山本さんは凄いですよ!俺の夢叶えてくれるんすもん!!」
    「俺の夢でもあるからね、応援してくれるファンがいてこそだったよ」
    「やった!やった!超嬉しいです!今日お祝いですね!ステーキ食いません?!」
    「…おじさん脂身ツライから寿司がいいな…。二階堂達もお祝いしろってうるせぇんだけど」
    「あはは!女のコにプレゼント喜ばれますから買わなきゃっすね。食べに行く前に買いに行きます?」



    ─それは。
    “しあわせ”を噛み締められていた頃。


    あの事件が起きる前の話。




    ***

    ガゴンっとバスの急な振動にはっと目を醒ました。

    窓から差し掛かる朝の光が眩しすぎて疲れ目に辛く、何回か瞬きをする。
    急な覚醒に頭が回らず状況を把握しようとぐるりと周りをみた。
    ほぼ誰もいない、朝一のバスの中。
    静かに次の停留所のアナウンスする冷たい機械声。
    後部座席に座る自分の前に二階堂が深く帽子を被って座っている。


    シワがよる眉間に思わず手を覆った。
    身体が重くて重くて仕方がない。
    目が醒めたばかりとかマネージャー業で疲れてるとかではない。
    目を閉じればあの光景がこれでもかと責めるように瞼の裏に映し出される。
    吐くものはすべて埠頭のあの倉庫で出し切ったけれども、それでもこみ上げてくる胃液をなんとか飲み込んだ。

    あれは現実だったのだろうか。
    …夢ではなかったのだろうか。

    二階堂も疲れたのか窓に寄りかかって寝てしまっている、もう数個先で降りなくてはならないからそれまでは寝かせてやろう。
    それにやるべきことがまだまだあるのだからとこれからのことを頭の中で忙しく巡らせる。


    こんなところでミステリーキッスは終われない。

    デビュー間近で、これからなんだ。
    ずっとずっとこの時を待っていたんだ。
    約束したんだ。
    俺達の、夢だから。
    だからもう引き返せない。

    俺達がやってしまったことは
    許されることではないけれど
    とまるわけにはいかないんだ

    やるしかないんだ

    …でも。


    顔を覆っていた両手を見詰める。
    倉庫外の蛇口で何度も何度も流したはずの三矢の血が、見えないはずなのにまだ山本の目にはべっとりとついてとれないでいる。
    きっとこれは一生とれないのだろうなと…手のひらを握りしめて隠した。
    この身体の重さが物語ってる。
    あれは現実で夢ではない。
    この手についた血の感触が
    三矢を海に沈めた重みがまだ残っている。


    「…こんな手じゃ、…もう無理かな」

    デビューが決まったあの日に、
    互いの手のひら合わせて
    “しわあわせ”をして
    “しあわせ”を感じていたあの時にはもう戻れない。

    俺は君の手を触れるにふさわしくない。
    君が凄いと言ってくれた俺の手は、もうただの犯罪者の手に成り下がった。

    自分の手のしわを見つめる。
    しわの数だけ、“しあわせ”を感じると言われているならばもう俺にしわはあらわれないのだろう。

    覚悟を込めて、バスを降りるブザーを鳴らす。
    前に座る二階堂を起こさなくては。
    やらなくてはならないことだらけだ。
    事務所を掃除して、三矢の携帯を遠くへ捨てにいって、そして…

    君との別れを告げなくてはいけない。



    確かに感じた君との“しあわせ”を自分から手放すけれども
    俺たちの“しあわせ”はどんな形であれ絶対叶えるから

    “君のしあわせ(ミステリーキッス)”は
    俺が絶対守るから


    「…ごめんね、今井くん」


    END



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