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    dhastarflower

    @dhastarflower
    打破
    1031万圣街(万聖街)🐺🦇中心、
    🚕にて🦊🦨、🦨🦊など
    🔞やラクガキ他ジャンルごちゃごちゃ。
    Twitterに投下しているのを置いてみました。
    pixivにあげたりもしますが、ひとまず!

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    dhastarflower

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    巌ふち。
    房中宮の戦いが終えたあとの話。
    やっと気づいたその感情に。

    #巌ふち
    #地獄楽
    hellsTormentingDevils

    敵わないのは、貴方 ─敵わない、ほんとうに。 
     
    「…僕も佐切や士遠さんのように【木】だったら良かったな」
    「あん?」
    「え?」
     巌鉄斎の疑問の色を孕んだ声にそのまま返す形で疑問詞を投げかけてしまった。つい口から出たらしい自分の言った言葉を脳内で反芻し、巌鉄斎の眼帯を作ろうとしていた鍔を削る手を止めてきょとんとしていれば、向こうも訝しげに首を傾げた。
     
     桃花と菊花の壮絶な闘いの後。びっしょりと濡れた着物を乾かそうと裸体になれば桐馬も巌鉄斎も僕もあちこち満身創痍。出来得る限りの治療を施しますと指させば何も言わずに大人しくその場に座るふたり。手当され慣れたもので助かる。別に自分は医者ではないが眼の前で傷付いた者を見れば手当せねばという衝動に駆られるのだから性分なんだろうなと小さく息を吐いた。
     自分に合わせて腰を前のめりに背丈を縮めながら大人しく処置されてる姿を弔兵衛は手頃な瓦礫に腰掛け静かに見ていた。彼は特別な身体で怪我という怪我はいつの間にか全て治っていたので僕の出番はいらないので弟である桐馬の手当てをみているようだった。監視もあるのだろうか、または過保護なのかどちらかもしれない。
     傷だらけの身体と必死に闘い抜いた疲れをゆっくりと休めたいが時間は有限、待ってはくれない。今晩だけが勝負なのだ。他の皆もきっと闘っているだろう。無事だろうか、もう目的を果たし船へ向かっているだろうか。上陸したという者達…─きっと、殊現君達なんだろうけれど…─の邪魔が入るかもしれない、作戦を遂行する為にはやくはやく気持ちが急かす。
     …が、僕はというと皆と自分の手当てをあらかた終えたというのに必死に鍔をやすりで削っている。別に悠長にしているわけではない。態勢を整える為、また着物も乾いていないし手当てをしたばかりだしこれは必要なことなのだと言い訳を並べて無我夢中で削る。周りからはそんな時間はないぞと小言を言われるが治療してあげただろと過去のことを返せば口を閉じ、僕のやすりの音だけがまたその場に響く。
     そんなことをして暫く、一心不乱に鍔を削っていたら邪念がでたらしい。どうしてと理由を聞かれてるのはバツが悪いと何事もなかったかのように削る手を進める。
    「おい、ナントカェ門」
    「浅ェ門です。貴方ほんと名前覚えませんね。覚える気がないのか加齢からくる呆けなのか…一度脳味噌みてみたいです」
     皺はなさそうですねとため息混じりで呟けば、僕らの会話が聞こえたらしい兄弟の笑い声とそうだそうだと続けた。特に桐馬の巌鉄斎を小馬鹿にしたような暴言が続き、巌鉄斎は噛み付くように吠えこのまま誤魔化せられるなと思ったが甘かった。珍しく桐馬に喧嘩を売らずまた顔をこちらに向けた。
    「おいこら話逸らすなチビェ門。今のどういう意味だ」
     なかったことにはしてくれないらしい、そもそも聞いてほしくない相手だった。まだかまだできないかと大きな身体を横に振りながら子供のように待っていた巌鉄斎によりにもよって聞かれるとは。また察しがいい。適当に流したいときに流させてくれず塞き止められる。
    「お前が【木】だったらアイツらにとどめさせなかっただろ」
     桃花は【木】菊花は【火】だった。桃花の相克である僕の【金】のことをいってくれているのはわかっている。少なからずお前のおかげだろと褒めてくれているのだろうが僕はそれを素直に受け止められない。
    「【金】の相生である桐馬の【土】がいてこそできたことで。そもそも僕に氣がちゃんと見え扱えていたら良かった話でもありますし」
    「俺だってそうだろうが。土壇場で身に付けた付け焼き刃なようなもんだ。ってゆーかこの島に来て急にタオタオ言われてわけわかんねぇっつーの、まぁ全ては俺の剣技があってのこそだが。チビェ門の機転であの姐ちゃんに抱きつかなかったら一度倒せなかったろ。おあいこじゃねぇのか?」
    「…それはそうですけども」
    「…じゃあなんだ、何が言いてぇ」
     歯切れが悪い僕に喰い付いて離れてくれない巌鉄斎。納得がいかないらしくなんとも頑固だ。ヌルガイが前に五行のそれぞれの属性の性格はこうであると皆に提示したのが頭にチラついた。根拠はまったくないし占いやそれの類で信憑性もなにもないがこれは当たっているなと改めて頷く。
     仕方ないと観念して削っていたやすりを目の前に座る巌鉄斎に向けた。
    「…それですよ」
    「あん?」
     正確にはその傷だらけの身体に。至る所の裂傷挫傷骨折、内臓の損傷。ひとつふたつと数えていたらキリがなくて自然に眉間に皺が寄る。医療環境が整っていない、衛生的に悪い環境でしかない辺境で左手を失い、さらに左目まで失って。どこからどうみても重症だ。手元にある医療物資も限られている。これから先まだなにかあるかわからない。無事にこの島から出るまでに出来る限り戦闘は避けたいがほぼ無理だろう。だから、と。
     どうしようもないことを思ったのだった。
    「貴方の【火】の相生だったら」
    「……」
     ─相生なら回復ができる。
     先程も僕は桐馬に。桐馬も嫌がりながらもやっと氣を把握したばかりの巌鉄斎から少なからず回復をさせてもらっていた。
     しかし巌鉄斎のダメージはそのままだ。巌鉄斎の【火】である相生の【木】がこの場にいないので無理な話だった。桐馬もわかっているのだろう、自分のダメージよりも酷い巌鉄斎を少なからず気遣ってすぐ手を離した。オッサンとなんか手を繋げるか嫌味を吐いているのは照れ隠しなのか後腐れないようになのかは桐馬のみぞ知るだけど。
     また氣のことを理解して自分も画眉丸達のように使いこなせたなら巌鉄斎はこんなに怪我をしないですんだかもしれない。左目を失ったのは僕が原因でもある。桃花と僕と巌鉄斎が対峙していた時。あのまま桃花の大量の氣の連続攻撃を受けていたら僕は今ここにいないだろう。見えないけれど感じた死の感触を巌鉄斎も察し手段をとった。僕を少なからず助けるために、だ。氣の感触を把握するためとはいえ、咄嗟の行動で失うべきでないもののはずだ。
    「…やせ我慢も限界でしょうに」
     それは島上陸の初日からずっとである。常人ならばあまりの痛みに発狂、気が狂うであろう麻酔なしの左手の処置のときもそうだった。
     そもそも、そもそも巌鉄斎は思い切りが良すぎる。この数日だけで思う、彼に失うことの恐れも躊躇いもないのだろうか、また失ったものに対しても後腐れがない。巌鉄斎という名を世に残す絵空物語の手段として化け物を倒したいというだけで、命そのものに初めから執着がない。
     何回でも思う、巌鉄斎はデカいだけの子供なんだ。自分は無敵だと信じてやまない、完全無欠の子供は無謀なことしかしない。目の前のきらきらしたものをひたすらに追いかけているようなものかと。
     僕を抱えて桃花の氣を完璧に見切りかわしたとき、また避けた凄いと興奮気味に巌鉄斎を見上げればとても戦闘中とは思えない顔。あれは本人が言っていた通り子供が新しい玩具で遊んでそれはもう楽しくて楽しくて仕方がない表情、思わず魅入ってしまった。こんな状況でそんな瞳になるのかと。命のやり取りのはずが彼にとっては遊びのそれでしかないのかと。
     だからこそ危なっかしいと目が離せないと思うのは親心のアレなんだろうか。いや、なんだそれは。彼は自分よりも倍も生きているし自分は彼の下半身くらいしか背がないしそもそも罪人と処刑人の間柄でしかないのに何故親心みたいなのが湧いているんだろうかと自問自答する。 
     ─…ああらしくない。
    山田浅ェ門の刀の鍔をわざわざこうして削っているのにもほんとどうかしている自覚はある。
    どういうことなのかも…全て覚悟の上でしていることだ。
    この男といるとどうにも掻き乱されてしまう。 

     …と、視線を落として思考を巡らせていたら不意に頭上に重みが掛かる。髪の毛から感じるデカくてあたたかい掌の感触にゆっくりと顔を上げた。
    「…っ?」
     視線が合って息を呑む。自分にはまだない、時を刻んだ証を小さく浮き出させて。目をゆっくり細めて僕を見るその顔は、いつもの飄々としたものでも、八州無双剣龍の顔でも、さっきの子供のそれでもなく。初めて見る四十という年齢をしかりと生きた大人の男の顔で、みたことがない初めて見る巌鉄斎にどきりとした。

    「二度は言わねぇぞ、チビ」
     そう念を押され、巌鉄斎の手が僕の頭をわしわしと撫でる。本当なら子供扱いのそれに異論の言葉を投げ払い除けるところだが。心地良いと感じてしまっている自分に戸惑いを隠せない、軽く混乱してされるがままになる。
    「…悪かった」
    「?」
     何に対してのことかわからず、またあの巌鉄斎からの思いがけない謝罪の言葉にぱちぱちと瞬きをするが巌鉄斎はそのまま言葉を続ける。
    「今までチビェ門がナントカ家で培ってきたモンは確かだった。認める。お前がいなかったら俺の左手はもっと使い物にならなかった」
    そう言って、トントンと手当した包帯を左手の義手で叩く。そこで、ああ…と謝っていた内容がなんなのか理解した。
    「…あの言葉は撤回するぜ」
    僕が今までしてきたことを。山田家でも数人にしか理解されずにいたことが一気に報われた気がした。
    「チビが俺の監視役で良かったわ」
     侮辱するなら許さないと目の前の大男に殺気を飛ばしていた、のはほんの数日前の出来事で。ただの罪人と処刑執行人の関係のはずだったのに。
     ─ほんと、どうして。
     にぃっと口の端を上げ歯を見せ笑って言う彼から目を離せないのだろう。
    「ありがとな」
     こんなにも嬉しいと感じてしまうのだろう。
     
     ─敵わない、ほんとうに。 
     相克だから巌鉄斎に敵わないのかと思ったらどうやら違うらしい。
     
     僕が巌鉄斎に敵わないんだ。
     もっと、別な感情で。
     
    終(2023/04/27)


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