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    dhastarflower

    @dhastarflower
    打破
    1031万圣街(万聖街)🐺🦇中心、
    🚕にて🦊🦨、🦨🦊など
    🔞やラクガキ他ジャンルごちゃごちゃ。
    Twitterに投下しているのを置いてみました。
    pixivにあげたりもしますが、ひとまず!

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    dhastarflower

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    巌ふち
    出会いからの、ふたりのはなし。
    ※96話ネタバレあります。
    今日5/4のこの日、彼の決断は確かなものであったと願って。

    #地獄楽
    hellsTormentingDevils
    #巌ふち

    心の臓のすぐそばに─…そこにはもう、 おまえがいた。
     
     最初に会った時は牢の中。
    査定だかなんだかわかんねぇけど、とにかく俺の話を聞きに来たと堅苦しい難しい言葉べらべら並べて処刑執行人のナントカエモンと名乗る声になんだよ面倒くせぇなと欠伸しつつ寝っ転がったまま首だけ振り向けばそこにいたのは俺の腰くれぇしかねぇ童だった。
     これまたちいせぇ手に持っていた提灯の薄明かりで見えたのは吸い込まれそうな真っ黒なデケェ瞳。目の下にある深くついている隈は子供のくせに何故こさえてなんだろうなとか蒲公英色のまんまる頭にひょこっとでてるアホ毛みてぇなのが動く度に一緒に揺れるのでなんかめんこいなとつい思うが、いやいやなんでこんな極悪人がいる牢屋に子供がいんだよと首傾げれば、お構いなしにその場にちょこんと座って調書の準備をし始めたのでおいおいと焦る。
     さっき名乗ってたナントカエモンという父ちゃんについてきたのか?とそれらしいのを探すが見当たらずこんな物騒なとこで迷子かよと重かった腰を起こし出来るだけ怖がらせねぇように近付きながら声掛けてやる。
    「なぁおいチビ。子供一人でこんなとこいるとワリィ奴に食われちまうぞ。父ちゃんどこだよ?さっさと家帰って、たらふくまんま食ってねんねしな、デカくなれねぇぞ」
    「…僕です」
    「あ?」
    「はぁ…名乗りましたが聞いてなかったんですか?それとも貴方難聴ですか?僕が山田浅ェ門付知です。歳は二十。ちゃんと元服してます。もっと言うなら山田家の門をくぐったのは九つですが」
    「はぁ?!お前なんかが首斬りの?二十…は?」
     皮肉を混じえた…見た目から出る声にしたら思っていたより低めの声がため息混じりに淡々と話す。こんなチビが信じられねぇというのを大袈裟に表現したい俺のデカい声にこれまたデカい目勿体なく歪ませたと同時にピリッと空気が変わったのを肌で感じとる。そいつにとっての何か地雷に触れたのかと思った。
    「…子供扱いはしないでいただきたい、民谷巌鉄斎」
     その場にヒュッと風が吹いた。
    吹いたという表現は嘘である、実際は俺の腰のしかねぇチビが素早く背中に差してあったらしい刀を抜いて俺にその刃を向けたその一連の動作によって起こった風だ。あの蒲公英も同じく揺れる。牢屋の柵と柵の間ちょうどのところに刀先が入り、俺のほう真っ直ぐに向いている。
     …強い、と瞬時に理解した。威嚇のそれか、警告か。ただたんにムカついての子供の癇癪みたいなもんか。双眼が鋭く俺を射貫く。俺の姿が映らないほど深く真っ黒な瞳。得体の知れない目の前のチビに自分はどう見えているのだろうかと変な緊張感とは別なところで単純に興味もでた。 
     ─…今思えば、この時にもう俺は。
    「それとも、剣龍は見えるものでしか物事を判断しない小さい男だったということでいいですか?ちゃんと調書に協力してもらわないと適当に書きますよ」
    「…いうじゃねぇか、チビエモン」
    「浅ェ門です」
     調書のその前に…っとさっきの殺気はどこへやら刀を背に片付けながら空いたほうで手招きされた。子供が父ちゃんにおいでおいでとするそれにしかみえなくてやっぱり調子が狂う。まぁ不思議と悪い気はしないし従っておくかと柵のほうに躙り寄れば置いていた灯りをずいっと近づけて俺の顔照らす。尋問するときのようなそれに似ていて一瞬ビクつくが、これまたデカい瞳がすぐそこにあったことのほうがもっとびっくりした。
     じぃっと何を見るのか何を見ているのか。視線は俺いっぱいに。真っ黒でなにもそこに映していないんじゃと思っていたが近くでよく見れば、ちゃんとその中に俺がいたので変な満足感を得る。
     それが、なんなのかはまだわからずに。
     
    「耳、診せてください」
    「は?」
    「少しですが医学の知識があるので」
     これは冗談ではなくちゃんと視てやろうとする意思がしかりみえて拍子抜けする。さっきの難聴といったやつ本気だったのかと理解すればぽかんと開いた口が塞がらない。
     一応俺は死罪人。背丈はこうして座っていてもお前隠せるくらいあるし、歳を聞いたが俺の半分しか生きていない。見た目も髭面で町を歩けば皆が避けるほどの剣豪の覇気だしているというのに、この子供は臆せず目を逸らさずにじっとみてくる。
     馬鹿にするなと凄んだり、罪人でも体調悪いところを診ようとしたり。
    「がははっお前おもしれぇな!チビ」
     愉快で仕方ないと、膝叩いて込み上げてきたものを止めずに出した。牢屋中に響き渡る俺の豪快の笑い声になんのことかわからないチビは怪訝そうに首をひねる。
    「悪ぃな、耳もどこも悪くねぇよ。地獄耳よろしく俺の噂も悪口も聞こえるもんでな!」
    「難聴ではない…では記憶力のほうが悪いのでしょうか…」
    「…なぁなぁ、お前の失礼極まりねぇソレ本気?皮肉?どっち?」
     
     最初の印象はそんなもんだったんだけど、もうその時から種まかれていたのかとも思えた。今思いだせば。
     蒲公英の綿毛のように、俺の中に。
     
    ※※※
     そうして話がすすめば、極楽浄土みてぇな島がありそこには不老不死の仙薬があると。それを無事このチビの監視下のもと生きて持って帰れば無罪放免になるということだった。
     チビエモンとは運命共同体みてぇなのになんのかと思えばやはり不思議と悪い気はしないしむしろ心踊るワクワクが止まらない。
     島に上陸すれば得体の知れないモンでいっぱいで、周りの植物も置き物も何もかもがグチャグチャと気味が悪い。誰もがこの島に一度足を踏み入れれば生きた状態で出られない、これから何が起きるかわからないこの状況にひとつ、俺は腹を括った。
     
    「なぁ、チビエモン」
    「浅ェ門付知ですって」
    「足手まといになんなよ」
    「それはさっきも聞きましたって…言われなくとも」
    「ナントカエモンがいねぇと俺の無罪放免がパーなんだろ?」
    「…?まぁ、そういうことになりますね。公儀御免状を貰うには…」
    「お前はチビだからよぉ、俺の目線からは蒲公英しかみえねぇんだわ」
    「それ今関係あります…?って何?たん、たんぽぽ?」
     何の話だ?と俺の後ろを付いて来るわかっていないふわふわ動く蒲公英に喉の奥でくくくっと笑っておいた。わかってんのは俺だけでいいかぁと思い別に理由は続けない。
    「無罪放免になるってことはだ、お前の命が俺の命じゃねぇか。俺の目の届く範囲にいてくんねぇと困んだって話。飛んでいくなよ勝手に」
    「……」
    「俺の夢ついでにチビひとりくれぇ護ってやるよ」
    「…八州無双、心強いですね」
    「だろ?」
     
     心に決めたそれは、もっと別なものだったのに気づくのはもっともっとあとで。さらに取り返しがつかない頃だったのだけれども。
     ※※※
     
     そう笑って話した後すぐに変な虫に刺されて、てめぇで左手斬ってザマァなかったが。
    それでも大事にならずにすんだのはその後におまえがいて処置してくれたからで。
     それからも何度も手当てやらヤツの機転に何度も命を助けられた。
     助けてやってるもんじゃない、俺が助けられていたと今になって本当に思う。
     
    「貴方が死んだら僕が責任持って帰って解剖しますんでご心配なく」
     そんなこと冗談めいて最初は言っていたくせに
    「僕に好き勝手に身体の中いじくられるの嫌なら、何が何でも生き延びてくださいね」
    「言い方がなぁ…」
     なんて、苦笑いしながら話していたじゃねぇか。
     
     撒かれてやっと咲いた頃に、お前がいねぇのに名前をやっと呼べるなんて皮肉にもほどがあらぁ。
     
     「なぁ、付知」
     名前をちゃんと呼べたことにやっと名前を覚えましたかと憎まれ口叩く声も聞こえやしない。あの吸い込まれるような黒い瞳も開けられることはない。

     ほんとに飛んでいっちまう奴がいるかよ
    俺の目も手も届かねぇ場所に、勝手にひとりで。
     
     付知に助けられた命の分まで
     すぐに捕まえにも行けやしねぇじゃねぇか。
     
     「付知……っ」
     
    ─…そこにはもう、付知。おまえがいた
     俺の心臓の場所のすぐそばに。
     
     
     
     終(2023/5/4)
     
     
     原作連載中、付知くん死亡九十六話掲載日が5/4とお聞きしました。
     ハマってまだ一ヶ月しか経っていない自分ですが、心から彼の生涯を想って…。そして涙させてほしい。また、付知くんの心からの笑顔を願って。
     
     ※※※
     
    「もしも俺が死んだらおめぇにやるわ」
    「…は?」
    「解剖して役立ててくれや」
    デケェから解剖しがいがあるだろとほざくので、この男絶対に僕が死なせてやらないと決めた。勝手に決めた。
    「デカすぎて運べませんので死ぬならどうか本土でお願いしますね。僕の近くだとなお助かります」
    「はは、じゃぁ互いに死ねねぇなぁ!」
     
     ええ、それはもう。僕が死なせませんから。
     そばにいると決めたその時にもう僕の心も決まっていた。
     
     貴方がそれを、望まなくても。
     

     
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