街へ出よう!
レーイヴン、とご機嫌な声に振り返ると、カボチャ頭が立っていた。
カボチャ頭はトリックオアトリート! と両手を広げてお菓子を強請ってくる。
「……えーっと、カロル少年? 何、その仮装」
「うん、カボチャ男だよ! レイヴンお菓子は?」
にこにこと微笑むカロル(多分)は肩に付けたマントを左右に揺らし、楽しみに待っている。
今日はハロウィンの夜だと言うことをレイヴンはすっかり忘れていた、道理で子供が街をウロウロしている筈だ。
何か持ってないかとズボンのポケットを探っても、酒場のレシートやゴミしか出て来ない。
持ってないの? とカボチャ頭を斜めに傾かせるカロルに、ごめんね。とレイヴンは手を合わせた。
「持ってないんじゃしょうがないね、それじゃトリック! ボクに付いてきて」
「なになに? どこ行くのよ」
「街を周ってお菓子貰うの。誰が一番貰えるか競争なんだ!」
ユーリとパティと競争してるんだ。レイヴンの羽織りの袖を引っ張って楽しそうにカロルは駆け出す。
なるほど、荷物持ちね。
でもこれじゃイタズラになってないんだけど、少年は気付いてるんかね?
「それから、カフェ行って、ハロウィン限定のデザート食べて……あと、花火も上がるから見に行こ」
ねぇカロル君、それハロウィンじゃなくて、ただのデートになってるわよ。
根本的に勘違いしてるカロルに突っ込もうと口を開きかけて、止める。こんなにはしゃいで楽しんでるのに水を差すのは野暮だわな。
*
家を周って貰ったお菓子を靴に仕舞いながら、カロルは次、とレイヴンの手を引く。
「ずいぶん張り切ってるわね」
「一番多く貰えた人が、みんなから一つずつ言うこと聞いてもらえるんだ」
なるほど、お菓子を貰ってワクワクしてたのは勝敗もかかってたからか。
「そうなの、少年は何お願いするの?」
内緒、と微笑うカロルを見たくて、レイヴンはカボチャの被り物を取り上げた。きょとんとした大きな目が見上げる前で、指に乗せて回して見せる。
「返してよ、あーっ、被らないでったら」
「仮装するならもっとイイのがあるでしょ」
カロルの鞄からいぬみみと尻尾を取り出し、頭とお尻に付ける。仕上げに柔らかい頬に頬紅を付けて、可愛らしい狼少年の出来上がり。
マントもあるし、充分仮装に見えるだろう。
「せっかく作ったのに」
「そうむくれない、似合ってるわよ少年。これで一番間違い無しさ、レッツゴー」
本当かなぁ……と渋るカロルにカボチャ頭が頷く。
*
一時間後、女性に囲まれて動けないカロルを遠目に見たユーリは、やられたと唸った。
「……おっさん、わざとやっただろ?」
「何の事やら。おっさん、カロルのイタズラに付き合わされただけよ〜」
嘘は言ってない。お菓子を渡せなかったらトリック。そう言われたから従っただけ。
パティはともかくユーリの願いなんて、碌でもない事を言い出すに決まってる。
若い狼に食べられるのが分かってて、みすみす手をこまねいてる必要は無い。取り巻いた女性たちはカロルのいぬみみを触ったり、お菓子を差し出したりと楽しそうだ。
おどけたカボチャを一発殴ってから悔しそうに、
「畜生、オレもあの耳モフモフしてぇ……」
苦悶するユーリに、してやったりとレイヴンはほくそ笑んだ。
2011.10