泡沫のうさみみ
十五夜の満月の夜、カロルは頭から長いウサギの耳を生やして可愛らしく首を傾げて微笑んだ。
どうしたんだ、その耳と指を差すと、今日は満月だから。と耳を揺らして後ろに手を組んで答える。
「ボク、本当は月に住むウサギなんだ。満月になったから月に帰るね。さよなら、ユーリ」
そう言ってカロルの体は空に向けて昇っていく。追いかけたが伸ばした左手は届かず……
「……とか理由があれば、うさみみ無くても納得出来ると思うんだが」
「バカっぽい」
「……何下らない事、真面目に考えてるの? ユーリ」
リタが目も見ず一刀両断し、カロルも半眼で呆れ顔になっている。
女性全員にあるのはともかく、ユーリとフレンにも用意されてるうさみみが何故カロルには無いのか。
黒いうさみみを手に、指先で弄りながら考えた案はあっさり却下された。
男にうさみみなんぞ付けて何が楽しいのかと言う持論は、似合えば男も女も関係ない。の一言で強引にねじ伏せられていたが、いぬみみと尻尾を付けたカロルの似合いっぷりに容易く陥落させられ、すっかり獣耳推進派だ。
どうやったらこの黒いうさみみを押し付……頭に付けさせられるかユーリは真剣に悩んでいた。
「いっそのこと合成出来たらなー、全員でウサギルドもやれるのにな」
自分がうさみみを装着してもいいぐらい、カロルのうさみみを渇望していた。
それ素敵です! とエステルが目を輝かせ、反対にレイヴンがげんなりと顔を曇らせる。
「青年、馬鹿な事言わないで頂戴。誰がおっさんのうさみみ見て喜ぶってのよ」
「あら、おじさまだけ除け者は嫌だわ私」
「そうですね、仲間外れはよくありません。みんなでウサギルドやりましょう!」
「だってよ、おっさん」
「……そう言われても無い物は無いしねぇ」
ジュディスがふざけて悪ノリする隣で、エステルが鼻息荒く拳を握り締めた。その空気に乗りたくないカロルは下手に口を出さずに黙している。
ほら、と黒いうさみみをユーリがカロルに手渡す。要らない。とカロルが押し返した。
「いぬみみはよくて、何でうさみみは駄目なんだよ!? オレのうさみみが付けられないって言うのか?」
「それボクのじゃないし! ユーリが付けたらいいでしょ?」
「馬鹿言え、オレが付けて誰が得すんだ。うさみみ付けたカロルを見たいんだよ」
「ボクが付けたって誰得だよ!」
「いや、俺得」
真顔で言い切られ、軽く眩暈がしてこめかみを押さえた。ニッコリと邪の入った笑みを向けてくる、意地悪な恋人の要求は聞かずに、頬に口を押し付けて黙らせた。
「意地悪ばっかしてると本当に月に行っちゃうからね!! ユーリのバーカっ!」
赤い舌を出して離れて行くカロルの背中を見ながらそりゃ残念。と呟く。
「だったら月まで追いかけるまでだ」
黒いうさみみを残して、遠ざかる背中を追いかけた。
2011.11