昼下がりの喫茶店
それとなくクリスマスの予定をカロルに訊くと、ユーリはバイトでしょ? と悪意の無いまっさらな笑顔が返ってくる。
確かにその通りだが、もう少し惜しんだり、残念がってはくれないものか。
一緒に過ごしたいとさえ思われてないのならショックだ。カロルにとっては、放課後にわざわざ出向いたり、バイトの無い日はちょくちょく会ってるだけの他校の友人。
……こりゃ、脈無しかな。
結局、カロルの方も予定があり、バイトを入れてあろうが無かろうが一緒に過ごすのは無理だったのだが。
知り合いがケーキ分けてくれるから、夜に食べようと言ってくれたカロルの一言を励みに、朝から入ったバイトの昼休憩を迎えた。
「……入らねぇな」
いくらお金を吸い込ませても自販機はうんともすんとも言わない。蹴飛ばしても反応無し。原因を探るのは面倒臭い、でも喉は乾く。
諦めて、近くに見える喫茶店に入った。
そこそこ賑わう店内で、無愛想なマスターがガラスコップを磨いている。ユーリは角の二人掛けの席に座ると、一番安いコーヒーだけ注文した。
「お待たせしまし……た……」
コーヒーを持ってきたウェイトレスが顔を強ばらせる。初対面の相手を凍り付かせる程恐い面をしてるのかと訝しげにユーリは瞬いて、そのウェイトレスを見つめる。
紺のエプロンドレスを身に付けた茶髪の小柄な少女。
どう見ても小学生にしか見えないが、親の手伝いか何かだろう。かなり可愛い娘だ。
面識は無い筈だが、少し引っかかる。
恐がらせたのかトレイで顔を隠し、少女は小走りにカウンターの奥へ帰っていく。
「……」
コーヒーを飲んだらさっさと出ようと思っていたが、ユーリは席を立たずに先程のウェイトレスの働きぶりを眺めていた。
肩までの髪を揺らし、ハキハキと注文を受け、元気に声を張り上げて、客に笑顔を向ける。
時折、ユーリと目が合いそうになっては露骨に視線を逸らし、見ない振りをする少女。
そういや、あれメイド服だっけか。とどうでもいい事に気付いて、客が減るのを待ってから携帯の番号を押した。
電話が呼び出し始めると、ユーリは立ち上がってカウンターまで歩いて行く。
「……カロルか、今何してる?」
『ごめん。今、ちょっと忙しいから……後でかけ直していい?』
「いや、ちょっと声聞きたかっただけだから気にすんな。オレもバイトの休憩、もう終わるし。じゃ、夜にオレん家でな」
うん、とホッとしたカロルの声に、ユーリは唇の端を持ち上げて、最後に付け加えた。
「そうそう、そのウェイトレスの格好よく似合ってるぜ、カロル先生?」
『……うえっ!?』
回線越しではなく直接、肉声で。
カウンターの奥で肩を震わせて、ウェイトレスの少女が振り返る。可愛らしいヘッドドレスと膝丈のメイド服にコーディネートされている少女、その顔はまごう事なきカロルだった。
見える距離に携帯を持ったユーリが立って、手を振っている。
「〜〜〜っ!!」
顔を真っ赤にしたカロルが、恥ずかしそうに唇を噛み締めて、きつく睨んだ。
2012.1