双子初夜(2) 校舎に戻ってきたブルーが廊下の窓から教室を覗くと、片割れがいた。赤い法衣に白灰色の長い髪。他の術士たちと勉強をしているようだ。
その様子をブルーが目を細めて眺めていると、ルージュがそわそわしだして、パッとこちらを振り向いた。
「ブルー!」
と言っているように口を動かして、笑って手を振っている。
その様子にブルーも笑って、扉を開けて中へ入った。
魂を分けた双子は、近くにいれば直接姿が見えなくてもいるかどうかは見当がつく。十分に修練を積めば、テレパシーでやりとりすることも可能だと先輩の命術士たちは言っていた。
そのため二人は互いに近くにいるかいないか、常に気にしているのだ。
「どこ行ってたの。いなかったね」
「先輩に呼び出されていてな」
ブルーはルージュの隣の席に腰掛けた。
「何の話?」
「いや、あのな……」
他の術士たちがこちらを微笑ましい目で見ているのが分かる。皆二人のことは知っている。新婚のカップルのごとく、仲良しほやほやの期間であることも周知であろう。ブルーが困っているのを察してか、彼らは肩を叩き合って勉強に戻っていった。
ブルーはそっとルージュの目を見た。周囲からは全く同じ顔だと言われるが、鏡に写った自分の顔は逆であるから、鏡の中の人が出てきたようには見えない。ブルーから見れば、ルージュの顔はルージュだけの唯一のものだった。
「どうしたんだよ」
無言で自分の顔を見つめているブルーに、ルージュが口を尖らせた。
ブルーはしばらくルージュの顔を眺め回していたが、やはり人がいるところでは言えそうにない。彼は腕組みをして、深くため息をついた。
「後で話そう」
これこそテレパシーで伝えたかった案件だが、二人はまだ分離したての雛であった。
食事時になり、二人はクーロンへ出かけた。その日はルーファスのイタメシ屋へ行くと連絡していたからだ。ルージュと分離したあと、顔を見せるのは初めてだった。
正直、完全な術士として困っていることはなく、気力も魔力も対決前より遥かに充実して安定していた。分離出来るということを学院から聞いても、実際にそうするべきなのかどうか、資質集めの仲間であった大人たちに随分相談した。女性陣からは、ブルーのこともルージュのことも好きだったが、今の落ち着いたあなたも素敵だと熱い視線を送られ、うっかりすると押し倒されそうだった。このまま一人の術士として生きながら、世界一素晴らしい妻を探すことも出来るかもしれない。
だが勝負の世界を生きるルーファスの言葉が、彼に響いた。
「今の融合したお前では、人としては強すぎて、この先成長が実感できなくなるだろう。宿命のライバルも、もういない。まだ若いのに、それではつまらなくないか? 使命を終えた今こそ、お互い良きライバルとして認め、切磋琢磨する。その果てにお前は、いやお前たち二人は、真の男になっているはずだ」
ブルーでもルージュでもなくなった魔術士は、深く頷いた。説得力のある言葉を素直に聞いてしまうのは、彼本来の気質であった。
「そして出来れば、どちらか片方グラディウスに入ってくれないか?」
「それは断る」
ルーファスの勧誘に苦笑して、彼は言った。
「だが資質集めでは世話になったから、どちらかが手伝いには来てもいい」
心は決まっていた。彼は戻って、学院に分離の儀を願い出たのだった。
(続)