正直なところ、俺はあまり茶道とか抹茶のことはよくわからない。
でも清澄と付き合うようになって、日常の中でそれらを目で追うようになった。
たとえば、なんとなく通り過ぎていたカフェの限定メニューが抹茶フレーバーだったり、街にお茶葉のお店があることに気づいたり。
美味しそうなものを見つけたらすぐ清澄に連絡するし、わからないなりにも調べたりしてみた。
そういう、自分のちょっとした変化に気づいたとき、ちょっと照れくさい気持ちになったりする。
今も事務所に向かいながら、ここ和菓子屋さんだったんだなあ、なんて思いながら歩いてきた。
たしか今日は清澄に会えるはず。わくわくしながら事務所のドアを開いた。
「おはようございまーす!」
「おはようございます、木村さん」
そこには先程まで思いを馳せていた本人が微笑んでいた。
「清澄ひとり?」
「はい、プロデューサーさんは先程近くのコンビニまで買い出しに行かれましたよ」
「そっか、じゃあちょっと待ってよう」
今日はソロの仕事についての打ち合わせだ。
プロデューサーさんが帰ってくるまで待とうと俺はソファに座った。
清澄も俺に合わせて向かいの席に腰掛ける。
「そういえば私、木村さんにお渡ししたいものがあるんです」
清澄が鞄をごそごそと漁る。
渡したいものってなんだろう?なにか貸した記憶もないし…
思考を巡らせても特に心当たりはない。
「はい、こちらです」
清澄が取り出したのは手の平ほどの包みだった。
「開けてもいい?」
「もちろんです」
包みを開くと、そこには和紙でパッケージされた数種類のふりかけがあった。
「これ…ふりかけ?」
「はい、先日買い物に出ていたとき偶然お店で見かけまして。とても美味しそうだったので木村さんにお渡ししたかったんです」
ご飯のお供になればと思いまして、と清澄は微笑んだ。
そっか、俺がご飯が好きだって知っててプレゼントしてくれたんだな。
俺と同じように、離れているときでも俺のこと考えてくれてたんだ。
俺だけじゃなかったんだ!
そんな清澄がいじらしくて、俺は頬が緩むのを止めることができなかった。
「すごい美味しそう!ありがとう清澄!」
勿体なくて食べるのに時間が掛かりそうだ、なんて思ったのはひみつの話だ。
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