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    primulayn

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    primulayn

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    りゅうくろ

    ぼんやりとした思考の中、ゆっくりと目を覚ます。枯れた喉がかさついて小さく咳をする。意識を飛ばしていたのだと気づくのに時間はかからなかった。ぴくりと動かした指先で身体を撫でるとさらりとした素肌が指に触れて、後処理も身体を清めるのも、彼が済ませてくれたということがわかった。

    「清澄、だいじょうぶ?」

    隣から心配そうな彼の声が聞こえる。ぱちぱちと瞬きをして徐ろに顔を動かすと、夕焼けの色と目が合った。

    ああ、またやってしまった。

    先程まで二人で熱に浮かされるような情事に身を任せていた。深いところで繋がりたくて、相手のことがもっと欲しくて貪欲に求めあった。どこもかしこも熱くて、どろどろに溶けてしまいそうな夜。木村さんのものが最奥に放たれたとき、視界がちかちかと光って爪先まで快楽が電気信号のようにびりりと走り、気がついた時には果ててしまっていた。そこから先の記憶はない。というか記憶を保てた試しがないのだ。今まで何度もこうして体を重ねてきたが、行為が終わると己の意志に関係なく必ず意識を手放してしまう。本当は甘い言葉を交わしたり荒い息を吐く彼の背中を擦ったり、そういった事後の時間を過ごしてみたかった。しかし、彼と自分とでは圧倒的な体力の差があった。元消防士の彼は性欲も体力も底なしで、一方文化的な活動しかしてこなかった自分とはあまりにも違いすぎる。

    「大丈夫です…けほっ」

    乾咳をひとつすると、彼は慌ててミネラルウォーターのペットボトルを差し出してくれる。いくら受け入れる側のほうが負担が大きいとはいえ、彼に身の回りの世話をしてもらうような現状がどうしても気になっていた。

    「せめてもう少し私に体力があればいいのですが…」
    「いやいや!清澄のほうが大変だし無理しないでよ」

    やや重たい体を起こして水分を口に運ぶ。こく、こくと飲み下されて喉仏が上下する。喉はすっかり潤いを取り戻していた。
    もともと体力がないことは自覚していた。ダンスレッスンでも持久力がなくてすぐにバテてしまう。日頃からランニングなど取り入れてはいるけれど一朝一夕に身につくものではない。己の能力の不足に悔しさが浮かぶ。
    それに、私は知っているのだ。行為が終わって自分が意識を手放したあと、木村さんが一人で処理をしていることを。いくら人並み以上の欲を抱えているとはいえ、恋人である自分が満足させてあげられていないというのはどうにも心苦しい。

    「もっと体力をつけて、木村さんを満足させたいのです」

    ですから、そう前置きして彼に向き合う。木村さんはそんな私を茶化したりせず真面目に受け入れてくれてくれた。

    「私に、トレーニングをつけて欲しいのです」

    彼がぱちぱちと瞬きをする。想定の範囲外の発言に驚いているのだろう。でも、至って本気だ。木村さんのようにはなれなくとも、少しでも耐えられる身体になりたい。その意志は無事に伝わったようだった。

    「うん、わかった。でも無理はしないでよ?」
    「はい、少しずつ頑張ります」

    緩く微笑むと木村さんも安心したように歯を見せて笑った。いつか日々の積み重ねが実を結んで、彼と少しでも同じ時間を過ごせるようになったらすごく嬉しい。木村さんの大きな手が頬に触れ、二人の唇がゆっくりと触れ合った。

    2022/5/8
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