Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    晴れ🌞

    @easy_pancakes

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🍃 🌹 🍀 🍓
    POIPOI 13

    晴れ🌞

    ☆quiet follow

    ガスマリワンライ「風」「花」
    ふたりの結婚式の日のお話(また+0.5hくらい…)

    🍃🌹 色とりどりのバラが咲き誇る旧研究所の庭園は、今日はいつもとは違う華やかな賑わいを見せている。
     青のテーブルライナーが敷かれた純白のテーブルクロス、フルーツの飾られたシャンパングラス、ピンクと黄緑色のプティフールが上品に並べられたてティースタンド、そして庭の芝生を横切る青のカーペット。今日、マリオン・ブライスとガスト・アドラーは結婚式を迎える。ふたりとも6月に結婚すると幸せになれるなんていう言い伝えを信じたわけではないが、バラが一番美しいこの季節に式を挙げられることになってよかったとガストは思っている。バラはマリオンに一番よく似合う花だ。
     マリオンを待つガストはなんとも落ち着かない気持ちで、今日ここへ招かれたゲスト達の輪の中心にいた。13期の仲間達とかつて13期をメンターとして導いてくれた上司達、そしてその様子を少し離れた場所から見守るマリオンの大切な家族。数年前にヒーローとしての第一歩を歩み始めた時には、こんな未来が訪れるなんてちっとも予想できなかった。初恋の相手との恋が実り、想いを通わせ愛し合って、そしてふたりが初めて出会った場所で結婚式を挙げることができるなんて、あまりにも出来すぎていて、どう考えても今この瞬間自分は世界で一番幸せな男だ。

    「マリオンちゃまとってもきれいナノ〜♪」
     ジャクリーンの声に弾かれるように敷かれた青いバージンロードの先を見ると、純白のモーニングコートに身を包み、背筋を凛と正したマリオンがいた。
    「綺麗だ」
     思わず漏れたガストの声を耳聡く拾ったアキラが、揶揄うような笑顔でガストの白いフロックコートの背中を叩く。ガストが優しく目を細めてマリオンを見ると、彼もまた、じっとガストの瞳を見つめ返してきた。
     打ち合わせの時にはなかったはずだが、赤いバラのようなマリオンの髪を覆うように、白いレースのベールが付けられている。地面を掠める程の丈のそのベールは、庭園に優しく吹く風に遊ばれて時折ふわりと靡く。マリオンの隣には緊張した面持ちのレンがおり、彼は恭しく慎重な手つきでマリオンの眼前にベールを下ろした。
    「マリオン、結婚おめでとう」
    「ありがとう」
     マリオンは白のグローブをはめた手でレンの頭を優しく撫で、ベール越しに自分の頬をレンのそれに寄せて親愛を伝える。そして横に控えていたノヴァの腕に手を添えると、ガストの方へ歩き出した。荘厳な音楽も絢爛なステンドグラスも神父が持つ分厚い聖書もここにはない。マリオンとガストを包むのは、穏やかな風と美しい花と仲間たちの歓声だ。
     いつもは雄弁なノヴァも今日ばかりは優しい笑顔を浮かべるだけで、マリオンが少し落ち着かない様子でノヴァを横目に見るのが愛おしい。
    「ガストくん、ありがとう。よろしくね」
    「はい、ありがとうございます。マリオンも、今日はありがとうな」
     マリオンはわかっている、という目でガストを一瞥し、ノヴァの両手をぎゅっと握った。言いたいことがうまく言葉にならないようで、ノヴァの目を見ては自分の磨き上げられた白い靴に目をやるを繰り返していると、ノヴァがマリオンをぎゅっと抱きしめた。
    「今日のおやつはパンケーキにしよう。ジャクリーンと作ったバラのジャムとホイップクリームをたくさんのせて、エリオスタワーくらいの高さにしようね、マリオン」
    「うん」
     白の正装を纏うことも、ゲストを招いての結婚式も、ノヴァとヴァージンロードを歩くことも、全部マリオンがやりたいと言ったことではない。それでもそれらを全て了承して今日を迎えたのはマリオンの優しさで、我儘なようで不器用な優しさを持つマリオンのことを、ガストはこれから先ずっとずっと幸せにしたいと心に誓った。

    「本日俺たちは新しい家族としての約束を交わします。マリオン・ブライスを生涯のパートナーとしてどんな時も大切にし、愛し続けることを誓います」
     ガストが列席の面々一人ひとりの顔を見ながら誓いの言葉を述べると、一際大きい歓声と拍手が響いた。
    「ボクも、ガスト・アドラーをこれからもずっと愛することを誓います」
     決して大声ではない、凛とした、歓声にも負けないよく通る声でマリオンが宣誓を行う。ベールに隠されたマリオンの表情は優しく穏やかで、隣にいるガストにしかわからないくらいうっすらと頬が赤く色づいている。
    「ええと、これ、どうしたらいいんだ?」
    「適当になんとかしろ。する気がないならキスはしないしさっさと終わらせてボクはジャクリーンとお菓子を食べる」
    「いや!します!させてください!」
     ベールの扱いにもたつくガストを待つ彼は腕組みをしてなんともいつも通りのマリオンなようで、ベールをあげてはっきりと見えたその顔は、ふたりきりの時にしか見ることのできない表情だった。熱を孕んだ瞳は蕩けそうに潤み、頬はバラの花みたいに赤い。
    (こんな顔、他のやつらに見せられないだろ)
     ガストがマリオンの華奢な両肩を掴んで引き寄せると、彼は目を閉じて少しだけ上を向く。
     その瞬間、風がひとつ吹いてマリオンのベールが大きく靡き、ふたりを包むように広がった。ベールが飛ばないよう咄嗟に頭を抑えたマリオンのひとまわり小さな手ごと顔を包んで、ガストがマリオンに口付ける。一瞬で離れたそこは、物言いたげに小さく開いて、そして秘密を飲み込むようにきゅっと結ばれた。
    「ビックリしたノ〜!でもテーブルの上のお菓子が飛ばなくてよかったノ!」
    「そうですね、ずいぶんと局所的な風で助かりました」
    「マリオンちゃま、他はガストちゃまに任せるケド、お菓子は自分が手配するってはりきってたノ♪」
     ジャクリーンとヴィクターののどかな話し声が耳に届き、内心冷や汗をかきながら、ガストはポケットから結婚を誓う指輪の箱を出した。マリオンも自分のポケットに手をやる————その瞬間、

    『エマージェンシー、エマージェンシー。全セクターの『ヒーロー』に連絡シマス。ニューミリオン全域でサブスタンスによる被害レベル2の緊急事態発生。出動可能な『ヒーロー』は直ちに現場へ向かってクダサイ。繰り返しマス——』

     さっきまで結婚を迎えたふたりを祝福する正装を纏っていたヒーロー達は、もうヒーロースーツに姿を変え、インカムから届く指令に耳を傾けている。マリオンはベールを丁寧に外すと、器用にくるくると纏めてジャクリーンにそれを託した。
    「ジャクリーン、すぐに片付けて戻るからそうしたらパーティーの続きをやろう。ノヴァとお菓子を食べて待っていてくれ」
    「マリオンちゃま、気をつけていってらっしゃいナノ!こんなにたくさん強いヒーローがいたらきっとすぐに終わって帰ってこれるノ!」
    「そうだな、だからおやつの時間までには帰ってくる。全部は食べちゃダメだぞ、ノヴァのパンケーキも食べるんだから」
     マリオンとガストもヒーロースーツになり、司令部から届く指示を確認する。ふたりの出動先はブルーノースシティ。ガストが突風を起こし、マリオンがその風に乗って一気に旧研究所の壁を超えた。
    「結婚して最初の共同作業だな、マリオン」
    「そういうことはボクと同じくらい強くなってから言うんだな、ガスト」
     マリオンはもう、先ほどまで見せていた愛を交わし合うパートナーとしての表情ではなく、共に命を掛けて戦うパートナーの表情になっていた。ガストはまたひとつマリオンに惚れ直し、ビルの谷間を縫ってマリオンが駆け抜けられるように追い風を放った。
    「さっさと片付けて帰るぞ。帰りにパンケーキに使う生クリームを買うのを忘れないようにしろ、あとアイスクリームも」
    「ジャクリーンはストロベリーが好きだったか?」
    「ジャクリーンのじゃない、ボクのアイスだ。今日の夜はオマエとアイスを食べるって今決めた」
    「……!了解、マリオン!」
     逸る気持ちで風をまたひとつ大きく吹かせると「やりすぎだ、バカ」と、声を上げながらマリオンがさらに加速した。後ろを追うガストからはマリオンがどんな顔をしているかはわからないが、答え合わせは今晩ゆっくりすればいい。アイスクリームを片手に、ふたりで身を寄せ合って。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒💍💒💍💗👏👏⛪💍💖💒😊💗💒💗💒💞💒💞💒💞🙏💯💒💕💕💕👏👏💒💒🎉💒💒😭🙏🙏🙏💯💯💯💯💯💯💯💯💯🅱ℹ🕘🇱🇴🇻🇪❤❤💒💘💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    晴れ🌞

    DONE青の街にてお茶会を開催ありがとうございます!

    ホワイトデーまではバレンタインだし、無自覚両片思い強化月間です!
    🍃🌹「いや、お前らが気にすることじゃねぇって。マジで」
     空が白み始めたニューミリオンの大通りを、ガストはひとり足早に歩いていた。

     冷え切った朝の空気は鼻の奥を刺すみたいに冴えていて、呼吸するごとに肺がじわりと熱くなる。昨夜の酔いはすっかり覚め、残るのは鈍い頭痛と少しの後悔。吹く風に背中を丸めると、上着のポケットの中でクラフトビールの王冠がかちゃりと音を立てた。
    「ふたりで一度にしゃべったら何言ってるかわかんねぇよ。あー、まぁ後で俺も覚悟決めて見てみるって。飲みに付き合ってもらってサンキューな」
     ロイとチャックからかかってきた通話を終わらせると、ガストはスマートフォンのディスプレイのメッセージアプリに付いた、たくさんの通知にため息を吐いた。届いたメッセージは開く気になれない。反応したら最後、何人かの同期たちにとっておきのおもちゃとして扱われるってわかっているからだ。溢した白い吐息が空気に溶けぬうちにまたひとつ、メッセージを知らせる通知が表示される。こんな早い時間に事をおもしろがって連絡を寄越してきたのは、やはりと言うべきかニューミリオンきっての情報屋を自称するガストの同期だった。茶化すようなメッセージに続いてSNS投稿記事のリンクが送られてくる。
    5907

    晴れ🌞

    DONE捏造しかない研修チーム2年目の春
    無自覚にマリオンを好ましく思っているガストと、一歩踏み出したいかもしれないマリオンと、ほんのり甘いイチゴタルトのおはなしです

    DMH3の展示で掲載していました!見てくださった方、いま見にきてくださった方、ほんとうにありがとうございます!!
    🍃🌹 甘い、甘い、小麦粉と砂糖と卵の匂い。
     ノースセクターの共同スペースが焼きたての空気で満たされている日は、マリオンの機嫌がいい日だ。
     昼までのパトロールの後、弟分たちとのランチと買い物で束の間の休息を楽しんだガストは、陽が落ちる前にタワーに戻った。マリオンから明日も早い時間のパトロールなんだからあまりハメを外さずに早めに帰れと釘を刺されていたし、配属から一年半ほど経って、早出のパトロールの前の晩にアルコールを入れるものではないということくらいガストももう分かっている。
     帰りに寄ったスーパーマーケットで買ったものを冷蔵庫に入れようとキッチンへ行くと、そこには真剣な面持ちで鍋をかき混ぜるマリオンの姿があった。マリオン・ブライスは真面目で几帳面なようで、意外と大雑把なところもある。シンクには半分に割れた卵の殻がいくつも転がっていて、なんとなくガストは微笑ましい気持ちになった。時折マリオンがポケットにものを入れたまま洋服をクリーニングに出してしまって、ジャックに注意されているのを見ることもある。隙のない見た目とは裏腹に、マリオンにはそんな抜けたところもあることを、共に生活する中でガストは知った。
    4509

    recommended works