【黒木&朱道】黒とそれ以外 どんなにきらびやかな場所にいても変わらぬ色を持つ、というのは目に見える以上に大変なことだ。
ただひとつの例外を除いて。
「黒木、おまえ他の色は着ねぇのか?」
「何?」
絢爛豪華な摩天楼のなかにおいて、黒を身につけるそいつに呼び掛けた。
「つーか、こんだけ黒いと人混みに紛れてわかんなくなるんだよ! ったく!!」
ジェネシスの面々で移動するなか、先を行く男の腕を引きながら改めてその「黒」に眉をしかめる。
黒は、すべてを飲み込む色だ。
混ざりあわず、許容すらせず、取り込んで自分のものにする。その印象は、岳が今の崚介に抱くそれとはほんのすこし異なっていた。
「相手を怖がらせたくなけりゃ、今度俺につきあえ」
「は?」
「色物の服の一着くらい持っとけよ! 俺が見立ててやるから」
「生憎だが朱道、俺は予定が」
「なら通販サイトで見繕っといてやる。買えよ」
「わかった。あとで確認させてもらおう」
おう、と腕を解放すればひらりと手を振られた。
こういうところがもう以前とは違うと感じる。彼は自分の判断で無駄と思うものも、簡単には切り捨てなくなった。
(なのに、黒ばっか着てんじゃねぇよ)
マンハッタンの摩天楼の光を吸い込み、黒の中に僅かに覗く肌色が白く輝く。いつかもっと目立つ格好でここを歩かせてやるからな、と岳は密かに口角をあげた。