【響也&蒼星】進化の中心「え」
「えっ?」
「えーっ!」
「ええーっ?! 響也さん、なんでそんなとこにいるんですか!!」
とある、なんでもない一時。
写真を撮ろうとして右に退いた響也に対して、全員が目を剥いた。
当の響也はと言えば、その反応に目をしばたたかせたあと「じゃあ、みんながそう言うなら」と真ん中へ収まった。
まどかが声をかけて写したそれを見ても、とても直前にそんなことがあったとはわからない笑顔が並ぶ。
けれども、どこか。
胸のどこかで、そのことが引っかかっていた――のかもしれない。
別の夜、気づけば蒼星は尋ねていた。
「お前、別に真ん中が好きなわけじゃないんだよな」
「え?」
本日も書類と格闘を続ける金の頭があがり、こちらに目を向けられる。
ほとんど無意識だった。それでやっと自分が思考を口に出していたことに気づいたぐらいには。
気取られたくなくてコーヒーを啜っているあいだに響也は合点がいったらしい。「ああ、この前のこと?」と、それこそ今思い出したように言葉を添えた。それから。
「真ん中は居心地がいいけど、いつでも真ん中に居たいとは思わないよ」
居心地がいい、というのは果たしてどのような意味合いなのだろうか。意味を為すような為さぬような勘繰りを胸の内に置いて、蒼星が続きを引き取る。
「それは、お前が今感じている心地よさをみんなにも味わってほしいからか?」
「うん」
みんなが彼のようにはならないことなど、響也だってわかっていることだろう。それでも中心を、周りを見渡せる位置を皆にと彼は言う。
「俺は、みんなに色々なことを知ってもらいたいって思ってる」
もちろん、させられないこと、言えないことはある。
それでも。
「この劇団はみんなで作って、みんなで進化するものだから」
蒼星のほうを見ずただ前を向いて満足そうに告げられたそれは、紛れもなく何かの宣言に近いものだったけれど――
「そう思うなら、さっさと手を動かしてもらわないとな」
「うっ」
ぴしゃりと返されて頭が下へと沈む。どうやら続きに取りかかるようだ。
時刻は午後の十時。あと三十分が限界だろうなと思いながら蒼星もパソコンへと向き直る。
あとひとつ書類を作ってしまうかと思いながら必要事項を入力していると「蒼星」と声をかけられる。
「どうした?」
「ありがとう」
写真の時のこと気を遣ってくれたんだろ、と言われ、さあな、と返した。
今にこの劇団は色々なキャストがそれぞれのやりかたで皆を率いていく時が来るのだろう。それが、主宰・朝日奈響也のやりかたとなれば――きっと、演劇界にもあたらしい風が吹くかもしれないから。
「きょーちん! ほら真ん中、トロフィーしっかり持って!」
「ああ、でも後でみんなも持つんだぞ」
「わかってるって、まずは全員で写らなきゃ!」
はい、チーズ。
そんな瞬間、久しぶりに真ん中で写った響也はやはり輝かんばかりの笑顔で皆に囲まれていた。