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    のくたの諸々倉庫

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    POIPOI 57

    世界5分前仮説/共生鍾タルのネタをお借りしました。

    #鍾タル
    zhongchi

    「ねえ、先生。今いるこの世界が5分前にできたものだ、っていう仮説、知ってる?」
     言われて少し考え込んだ。問われた言葉の意味が分からない、というより──その問いから後、彼が何を言いたいのかがよく分からない。
    「聞いたことはある。この世界は5分前につくられたものであり、今俺たちが持っている記憶などは全て、創造主による捏造なのだ、という話だろう」
    「そうそう。もしそうだったらすごいなと思ってさ、だって世界は広いんだよ? あちこちで矛盾が出ないように、それでいて複雑に絡み合った『設定』の上……俺たちは今、こうやって息をしてる」
     言いながら、彼の指が伸びた。首の輪をついと撫ぜ、岩元素のマークを通り、その服の下、彼を生かす力の核へと。そうして「ね、不思議でしょ」なんて。
    「先生は6000年の時を生きたカミサマでさ、俺はそんな先生と一緒に生きてる元人間。そんな設定のもと、たった5分前に俺たちがこの地に足をつけたっていうなら……こんなにおかしなことはないなって」
    「どうして、おかしいんだ」
    「俺はね先生、生かしてくれたことに感謝してる。ずっと一緒に生きられるなら、他の何と別れることになってもいい、というよりは……うん、なんて言えばいいかな。
     お別れは、悲しかったよ。だってある意味では、先生より大事な人たちだったから。けどそれが全部、誰かが気まぐれに考えたものだったとしたらさ。
     ちょっと、悲しいよね。なんて業深いことだとも思うよ」
     そうして光のない目が細められる。そんな可能性、考えたくもなかったよ、と。
    「……俺は、公子殿と共に生きることができてとても、嬉しい」
    「うん、先生はそう言うと思った」
    「最後まで聞け。
     ……そうだな、離別を承知で俺の手を取り、今こうして隣にいてくれるお前を愛している」
    「ありがとう、先生」
    「……それでも時折考える。戦うことが好きなお前から、片目を隠すために距離感を奪った。見た目が変わらないことで定期的に引っ越さねばならない不便だってある。それでもどうして、お前が俺から離れないのか……否、考えることを放棄して死を選ぶことが、どれだけ楽か既に知っているお前が、どうしてそれをしないのか。ずっと、不安だった」
     触れた頬には傷ひとつなく、今もなめらかな手触りがそこにある。望んだのは、俺だけだったのかもしれないとどこかで思っていた。
    「だが……その離別をどれほど悲しんでも、お前は俺の隣にいてくれる。それがとても、嬉しい」
    「……ばかだなあ、先生は。こんなに長いこと一緒にいる理由、まだ分からなかったの」
     彼が別れを悲しむほど、きっと人間という存在からは遠ざかっていく。それを望んだのは俺だ。だってずっと、お別れはつらかった。
    「……はは、そうだな。俺にはまだ早い話だったようだ」
    「いったい何年生きたら適正年齢になるのさ、もういっそのこと1万年目指しちゃう?」
    「それもいいな、公子殿がいるなら」
    「もう『公子』じゃないけどね」
    「なら、アヤックス」
    「なあに?」
     ……かなわないな。
    「愛しているよ」
    「はは、いつからさ」
    「決まっているだろう。
     お前が俺に、初めて笑みを向けた時からだ」
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    のくたの諸々倉庫

    PROGRESSいつか、その隣で笑えたなら/ディルガイ

    「猫の王国」パロ。1万字超えたのでその2です。前回に引き続き、死ネタ前提やら捏造やらにご注意ください。あと今回はちょっと背後注意かもしれない。
    その3に続きます。
    「天国」4日目
     ガイアの「そういうのはパス」発言により信頼を得たのか、あるいは距離を置かれてしまっているのか、ラグが少し離れて歩くようになった。
     故にようやく、ガイアはクリソベリル・キャッツアイの教室に顔を出すことを決める。昨日までは本当にラグがべったりで、これではどちらが弟子か分かったものではない、という状況だったため──ラグ以外のことは顔もまともに見ていない。
    「アルだ、よろしく頼むぜ」
     だがらしくもなく、緊張気味に告げたその挨拶以降、ガイアが周りと打ち解けるためにかけた時間は一瞬だった。
     相手の顔と名前を覚えるのは比較的得意だ。皆一様に、色とりどりの猫耳と尻尾が生えている以外は確かに顔つきも体格もバラバラで──中にはとても幼い姿のまま、学ぶ者までいたものだから。
    (……俺の半分も生きてないだろうなあ、こいつ)
     ここは仮にも天国で、老人や身体的不自由のある者が猫を助けて死亡した、などという場合は、その不自由を取り除かれて過ごすことができるらしい。つまりはあの少年の中身がとんでもない年寄りである可能性も否めないが、それでもどこか、クレーと重ねて見てしまっていることに気付いて 9398

    のくたの諸々倉庫

    DONEあるいはひどく遅効性/ディルガイ 毒を、飲んだ。
    「……はは、なるほど……これはすごい、な」
     味がひどいとか喉が焼けるようだとか、そういった点からすればそれは、ディルックが嫌う酒と同じようなものだったのかもしれない。けれど自らの体内を確実に蝕む感覚に、ああこれでと目を閉じる直前。
     横たわったベッドのすぐ近く、暗闇にそっと溶けるように──そこに誰かがいるような気がした。



    「みつけたよ、にいさん」
     言われて慌てて、ディルックは顔を上げる。そうすれば大きな目を細め、笑う義弟の──とうに死んだはずのガイアが、在りし日の姿でこちらを見つめていた。
    「これでかくれんぼは僕の勝ちだね、次は何して遊ぼうか!」
     慌てて辺りを見回した。いつかのワイナリーの敷地内だった。そして視界に映る自らの手足もまだ、随分と小さい。
     ……今ならば分かる、これは夢だ。走馬灯と言ってもいいかもしれないが、あまりにもディルック自身の願望が含まれ過ぎているとも思った。
     けれど、ならば。抱えていた膝を離して立ち上がる。どうせ全て夢だと分かっているのだ、最後に楽しく過ごすのも悪くない。
     伸ばした手は存外はっきりした感覚と共に、ガイアの頬に触れる 2709