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    のくたの諸々倉庫

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    あるいはひどく遅効性/ディルガイ

    #ディルガイ
    luckae

     毒を、飲んだ。
    「……はは、なるほど……これはすごい、な」
     味がひどいとか喉が焼けるようだとか、そういった点からすればそれは、ディルックが嫌う酒と同じようなものだったのかもしれない。けれど自らの体内を確実に蝕む感覚に、ああこれでと目を閉じる直前。
     横たわったベッドのすぐ近く、暗闇にそっと溶けるように──そこに誰かがいるような気がした。



    「みつけたよ、にいさん」
     言われて慌てて、ディルックは顔を上げる。そうすれば大きな目を細め、笑う義弟の──とうに死んだはずのガイアが、在りし日の姿でこちらを見つめていた。
    「これでかくれんぼは僕の勝ちだね、次は何して遊ぼうか!」
     慌てて辺りを見回した。いつかのワイナリーの敷地内だった。そして視界に映る自らの手足もまだ、随分と小さい。
     ……今ならば分かる、これは夢だ。走馬灯と言ってもいいかもしれないが、あまりにもディルック自身の願望が含まれ過ぎているとも思った。
     けれど、ならば。抱えていた膝を離して立ち上がる。どうせ全て夢だと分かっているのだ、最後に楽しく過ごすのも悪くない。
     伸ばした手は存外はっきりした感覚と共に、ガイアの頬に触れることができて。「なあに」とはにかむ彼はこの笑顔の裏に、何を隠していたのか今ならば知っているから。
    「すきだよガイア、あいしてる」
     墓まで持っていくつもりだったこの想いは、告げてもいい気がしたのだ。
    「……ふえ」
     ガイアの肌の色からして、分かりにくいものの染まる頬が愛しかった。ああそうだ、こう言えたならきっと全て違っていた。ばかだなあと内心の自責と共にガイアを抱きしめる。
    「どうしたの、にいさん」
    「……ずっと、謝りたかったんだ」
     傲慢だと分かっていた。加えてガイアの死因はディルックから受けた斬撃によるもので、けれど今ここにいるガイアがそれを知るはずもない。何もかもがちぐはぐだと分かっているのに、涙と謝罪が止まらなかった。
    「泣かないで、にいさん……」
    「ごめん、ごめんねガイア。ごめん、ごめん」
     思えば最期のその瞬間まで、ガイアは仮面の笑みを貼り付けたままだった。抱き寄せた痩身が体温を失う感覚に、自分は何を思ったのだったか。
    「……少し待ってて、にいさん。すぐ戻るよ」
     けれどぬくもりは離れていった。引き留める余裕もなく、ワイナリーへと駆け戻るその背中に、どうしようもなく嗚咽が漏れた。足が動かない。
     まるで思考や口調まで幼くなったようだった。いかないでよ、とこぼれたのはどんな意味の声だったのだろう。崩れ落ちたディルックはげほ、とひとつ咳き込んで──自らの掌が紅く、染まっているのを他人事のように見つめた。
     ああ、毒を飲むのはもう少し待つべきだっただろうか。この幸せな夢の最後がこれか、と急速に冷めていく思考の隅で思う。最後にガイアと会えたのだから、それだけでも御の字だというのに──
    「はい、これ!」
    「……え?」
     だが唐突に、差し出されたのは紫の液体で満たされたコップだった。いつの間に戻ってきたのか、ガイアがそれを押し付けてくる。
    「飲んで、喉かわいてるでしょ? 水分不足はあぶないんだよってとうさんも言ってたよ」
    「……これは」
    「にいさんの好きなぶどうジュースだよ! おいしいよ」
     ……ひどい顔をした自覚があった。視界が歪む。一度そのコップへと視線を落とし、もう一度顔を上げればそこはエンジェルズシェアのカウンターで。けれどいつもと違うのは、ディルックが客席に座っており──ガイアがカウンターの向こうで、微笑んでいたことだった。
    「ほら、飲まねえと死んじまうぞ? 俺がせっかく、持ってきてやったのに」
    「……ガイア」
    「おっと、こっちには来るんじゃあない。飲まなくても死ぬがここを越えても死ぬんだ、稲妻で言う三途の川ってやつだ」
    「川じゃ、ないだろう」
    「案外間違ってないかもしれないぜ? お互いの顔は見えるのに、どうしようもない隔たりがあったのはずっとそうだっただろ。
     ……な、生きろよにいさん。俺を殺したことに、少しでも罪悪感があるっていうならさ」
    「どうしてだ、ガイア」
     涙がこぼれた。どうしてそんなことを言う。君に会うために、僕は毒まで飲んだのに。
    「はは、さてな。俺は嘘こそつかないが、本当のところも教えはしない。それでもいいなら言わせてもらおう、『生きて償ってくれ』。
     俺たちの希望は潰えた、そのことを悔やむんなら忘れるな。記憶を途絶えさせず、記録として残せ。そのためにずっと、お前には生きてもらわなきゃいけない」
    「そんなこと、したくない」
    「お前そんなに聞き分けのないやつだったか? 仕方ない、そんなら言い方を変える。
     ……俺のことを、憶えていてくれ。誰より好きだったやつに忘れられるのをよしとするほど、俺も人間できちゃいなかったからな」
     視界が白む。窓から朝日が差し込んでいた。そろそろ終わりだ、とガイアが笑った。
    「俺からすれば、まあしんどくはあったが……悪くない人生だったぜ、にいさん」
    「ッいやだ、いくな! 僕はずっと君と」
    「あーはいはい、悠長にそういうこと言ってられる時間はないんだよ、残念ながらな」
    「だが、ッ」
    「……はは、なら目を閉じろ。そのまま動くなよ、変なところにかえることになっちまう」
     言われるより早く、伸びてきた手がディルックの両目をふさいだ。そうして一度、冷たいものが唇に触れて──流れ込んできたのはディルックが好む、けれど今味わいたくはなかった味だ。
    「知ってるんだぜ、お前が俺のことずうっと好いてくれてたの。だから最後にお返しだ、ファーストキスはくれてやるよ。
     ……それじゃあな、ディルック。次に会うことがあれば、笑顔で」




     そして次に目を開けたとき、見えたのはアデリンたちの泣き笑いだった。聞けば絶望的な状態から突然息を吹き返したらしく、よかったと口々にディルックへとすがりつくその姿に。
     ……随分と昔に、流れきったはずの涙が落ちた。けれど次に会うときは、と言っていた、愛しい彼を思い出す。
    「……すまなかった」
     そうしてこぼれた謝罪は果たして、誰へのものだったのだろうか。










     雨が降っている。少しばかり年月は流れたが、今日もアカツキワイナリーの酒は一級品だ。
     そのオーナーである青年はたいそう酒が好きで、今日も窓の外を眺めながらちびちび酒を飲んでいる。
    「……いつか笑顔で飲めるようになっておかないと、約束を守れないからね」という言葉の意味を、理解するものはきっと誰もいない。
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