わかるのは、お互いだけ。「あぁ、」
手に持った袋を見て、思わず頭垂れる。
「ミスっちゃった……」
彼からくるであろう小言を想像し、思わずため息が出た。
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彼。司くんと付き合うようになったのは、つい数週間前のことだ。
ハロウィンの頃からずっと好きで、つい目で追ったり、声をかけたりしてしまって。
でも言わずにそのままでいようとは、思っていた。
言ってもきっと、司くんを困らせるだけだから。
でもこうして付き合うようになったきっかけは、あの日。
フェニックスワンダーランド全体でショーを行った、あの日の後のことだった。
具体的に決まるまではいつも通りのショーをしようという話になって。いつも通り、最高のショーをして。
でも、矢張りというか。僕もなんだかんだで、浮かれていたみたいで。
片付けの時にバランスを崩してしまい、咄嗟に支えようとしてくれた司くんごと、倒れ込んでしまった。
床ドンのような体勢になってしまったこともあり、司くんの顔が余りにも近すぎて。
思わず顔を赤らめてしまったが、それよりも。
僕がそうなるより先に顔を真っ赤に染めていた、司くんが気になって。
思わず引き止めて、抱きしめて。
お互いに、思いを伝えることができた。
まあ、そこまでは、よかったのだ。
ショーが成功したのに加えて、司くんと付き合えるようになったのだ。
周りが思っている以上に、僕は浮かれていた。
司くんが、止めてくれるまで。
僕は、持ち物が黄色や星モチーフで染まってしまっていたのだ。
ワンダショメンバーやセカイの皆、司くんは咲希くんにも教えたそうだけど、基本的には隠すもの。
そう取り決めをしていたのに、黄色や星モチーフを見て、つい司くんを連想してしまって。
片思いをしていた頃は、司くんにバレた時の説明が想像できなかったから我慢できていたものの。
付き合うようになって司くんへ隠す必要がなくなったために、我慢が効かなくなってしまったのだ。
流石の量に、司くんも呆れを通り越して怒っていて。
「月に買うのは3個まで!それ以上買ったら捨ててもらうからな!」
そう、約束を交わしたのだ。
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そして今。手元にある、シャーペン。
グリップ部分の感触がよくて、とても愛用していたのだが。
次の演出を、と沢山書いているうちに壊れてしまい、芯が上手く出なくなってしまったのだ。
流石に愛用してるものというのも相まって、すぐに新しいものを買いに出たのだが。
このシャーペン。使い勝手がいいのに加え、カラーバリエーションが豊富なのに加え、装飾なんかも売られており、
その組み合わせの自由さから高校生に人気の商品となっているのだ。
そう。カラーバリエーションが豊富、なのだ。
次の演出を書くことばかり考えたまま、手に取って買ってしまったそれは。
まごう事なき、黄色だった。
しかも、今月に入って4つ目の。
(うーん、買いなおす、としても、折角買ったこれが勿体無いからなあ…)
自宅には、既に自宅用のシャーペンがある。
持ち運びには若干不便さを感じるほどの大きさに加え重量もあるが、使い勝手は群を抜いて一番なそれは、シャーペンの中でも一番のお気に入りだ。
だからこそ、今買ったそれは自宅では一切使えないのだ。
(…まだ買ったばっかだし、返品でも……)
そう思いながら、レジに行こうと歩き出した、その時。
目に入ったそれに、返品するという考えが一気になくなった。
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「……類、来たぞ」
「やあ、司くん!待ってたよ」
次の日のお昼休み。
渡したいものがあると事前に連絡して、司くんを呼び出した。
「それで渡したいものとはなんだ?」
「それはね。……はい、これだよ」
ぽん、と手渡した、細長い袋。
司くんはそれを受け取り、しげしげと眺めた。
「?類が渡してくるから何かの発明なのかと思っていたが……既製品、か?」
「うん、そうだね。それはシャーペンだよ」
「シャーペン?」
首を傾げる司くんに、僕は笑いかけながら続けた。
「いやあ、僕の愛用してたシャーペンが壊れてしまってね。買いに行った時にカラーバリエーションがあることを思い出したから、せっかくだから司くんの分も、と思ってね?」
「ほう…?いやまて、カラーバリエーションと言ったな。まさかお前また黄色を買ったんじゃ…」
「ほら司くん、折角買ってきたのに開けないのかい?」
「人の話を遮るな!今開ける!」
ちょろいなあ…なんて思いながら、開ける司くんを眺める。
ころり、と出てきたのは、あの時買ってきたシャーペン。
しかし、一箇所だけ。そのときと違う場所があった。
「…紫、ではないんだな」
「おや、紫の方がよかったかい?」
「散々黄色使ってるお前と一緒に紫なんて使い始めたら噂されるぞ流石に。…だだまあ、意外だっただけだ」
しげしげと眺める司くんに、僕も袋からシャーペンを取り出す。
「ちなみに僕のがこっちだね」
「お、こっちは紫なんだな。色違いか」
「うん。…それでね、ここ見て欲しいんだけど」
「ここ、って…装飾、か?」
しげしげと見つめ、そしてハッとなる。
「うん。…まあ、この程度なら、きっとわからないんじゃないかと思ってね」
苦笑しながら、司くんが見つけていたそれを指差す。
紫の方には、星が。
黄色の方には、風船が。
それぞれ装飾として、ついていた。
クラスメイトが見ても、きっとわかりはしないだろう。
これは、きっとお互いしか、わからない。
「…………………」
「……?司くん?お気に召さなかっんぶ!?」
反応がなくなった司くんを覗き込もうとすると、いつの間にか手に持っていた袋で顔を叩かれた。
「い、たたた……一体なんだい…?」
「やる」
「ん?」
「それ、やる」
顔を抑えながら、押し付けられた袋を受け取る。
首を傾げながら取り出した、それは。
「……?これ、なんだい?」
黄色くラメが入っている、プラスチックでできた細長いものだ。カーブをしている。
見たことがないそれに首を傾げると、司くんが教えてくれた。
「それは、カチューシャだな」
「か、ちゅーしゃ?」
「主に女性がつける髪の飾りだが、…こうすると、前髪を抑えることができる」
手に取り、目の前で実践してくれる。
確かに、ゴムなんかで結くこととかを想定するととても楽に前髪が止められる。
「なるほど!それは便利だね!でもどうしてこれを…?」
「……この前、咲希と一緒に買い物に行ってな。これが、カラーバリエーションが豊富と謳っているところで、売られてて…な」
言い淀む司くんに、僕はハッとなる。
手にしたそれは、ラメ入りの黄色。
と、いうことは。
「あの、司くん?豊富ってことは、もしかして…」
「…………浮かれてるのは、類だけだと思うな」
顔を真っ赤に染めながら言う彼に、僕は思わず抱きついた。