貴方のような、その花を。「……おーい、類。まだなのか?」
「あともうちょっとだよ!もう少しだけ待ってね」
背後で忙しなく鳴る機材の音に若干の恐怖を抱きながら、空を見上げる。
照りつける太陽が眩しくて手で隠しながら、ひっそりとため息をついた。
類に見せたいものがあるから会わないかと言われ、昼休みに約束したのが今朝の話。
手早くお昼を済ませ、見せたいものはと聞くと、類は手を引いて下駄箱に向かった。
ここからは下を向いてておくれ、と言われ、どうにか指定の場所には着いたものの、少しだけ待ってておくれ、と言われてから、この有様だ。
正直繰り返された実験の数々の影響で、学校内で機材の音がすると何がくるかとつい身構えてしまったり、びくびくしてしまうため、実験じゃないとしてもできたら早く見せたいものを見せてほしいと思ってしまう。
「……ふう。お待たせ司くん!……どうかしたかい?」
「どうもこうもあるか!説明なしにずっとここで待たされたんだぞ……」
「うんまあ、それは申し訳ないとは思ってるけれど。それにしても随分と身体が強ばってると思ってね」
思わずうぐ、と唸ってしまう。図星だとつい表情にも声にも出てしまう。いかんな、本当に。
「……類の、新しい発明かと思って」
「うん?」
「何がくるかわからなくて……その、警戒、してただけだ」
目を見開く類に申し訳なくて、思わず俯いてしまう。
そんなオレを、類はそっと抱きしめた。
「……そうだね。これに関しては僕が悪いね。ごめん」
「いや……オレも、訳もわからず、警戒してしまって、すまん」
優しく撫でてくれる類の手が心地よくて、ゆっくりと目を閉じる。
そんな類の手がそっと離れると、オレの顔を持ち上げた。
「お詫び、と言ったらなんだけど。司くんにね、見せたいものがあるんだ」
「……見せたい、もの?」
「うん。……一旦俯いて、後ろを向いて。僕が3つカウントしたら、顔を上げてくれるかい?」
「わ、わかった……」
後ろ、というと、類がずっと機材を置いていた場所だ。
ちょっとだけ緊張しながら俯き、ゆっくりと後ろを向く。
「うん、そこでいいよ。
……3!2!1!」
意を決して、バッと顔を上げる。
その瞬間。
目の前に広がる、大輪の向日葵。
太陽の日差しを受けて光るそれは、太陽のようで。
一拍置いてぷしゃあああと音を立てて何かが稼働したと思うと、一瞬で霧のカーテンが生成される。
そこに写し出されたのは、大きな虹だ。
向日葵と、その上にかかる虹。そのどれもが、光り輝いていて。
あまりにも綺麗で、呼吸を忘れて、見入ってしまった。
「……ふふ。お気に召してくれたかな?」
類の声にハッとなり、慌てて類の方を向く。
類はしてやったり、といった顔をしていたけれど、とても嬉しそうだった。
「ああ!とても綺麗だな……!この向日葵は、緑化委員で育てたのか?」
「うん、この向日葵は僕が担当しててね。凄く立派に咲いたから見てもらいたくて。折角だから最高の演出で見せてあげたくてね!」
「そうかそうか!とっても綺麗だったぞ!向日葵にとても映えてた!」
「ふふ、ならよかったよ!司くんを笑顔にするのは、僕の専売特許だからねえ」
にっこりと笑う類の笑顔を見て、改めて向日葵に向き直る。
背の高いそれは、先ほどの水滴を受けて更に光り輝いているようにみえた。
「……本当に、綺麗だ。光を浴びて、輝いていて。まるで……」
そう。まるで。
「……実はね。司くんに見せる前に、レンくんにも見せたんだ」
「ん?レンに……?」
首を傾げるオレに、類は照れくさそうに言った。
「事前に話をしたら、見てみたいって言っててね。それで」
言葉を切り、類が手を伸ばす。
驚いて咄嗟に目を瞑ると、優しく頭を撫でられる感触がした。
「レンくんが言ってたよ。「司くんみたいだ」って」
「……オレ、みたい?」
「うん。光を浴びて、輝いていて。まるで、舞台の上で輝いてる司くんみたいだなあって」
その言葉に、オレは顔が緩むのを感じた。
だってオレは、
「オレは、スターみたいだって思ったんだ」
「スター?」
「ああ!舞台の上で一番光を浴びている存在だ!だから、オレみたいだって思うのは当然のことだな!」
いつもの格好良いポーズを決めながら言うと、楽しそうに類が笑う。
「ふふ、そうだね。その通りだ」
「そうだろうそうだろう!」
「なら、これも司くんと一緒かな?」
「……ん?これ?」
類がにんまり顔に変わるのを見て、思わず墓穴を掘ったかと身構える。
「ふふ。そんな大層なものじゃないよ。ただ、レンくんにね」
「司くんだーいすき!とっても幸せ!って顔してたよ!」
「……なんて言われたものだから。司くんもなのかなあ?って」
顔が赤くなるのを感じる。
いや、否定はしない!とても綺麗だったし、見せてくれて嬉しいとは思った!
だが!
「……ん、なの」
「ん?」
「……そんなこと、恥ずかしくて言えるか!」
全力で、その場から離れる。
嬉しそうな、楽しそうな類の声をバックに始まった追いかけっこは、昼休み終了のチャイムが鳴り響くまで、終わることはなかった。