全部理解しなくたって、オレは。「フフフ、じゃあ次は、こっちを試してみようかな?」
「お、おい……次は、何を……」
「おや、もうギブアップかい?未来のスターなら、これくらいはできるかと思っていたんだけれど……」
「うぐぐ……み、未来のスターたるもの、この程度……!」
「フフ、流石だね。それじゃあ、遠慮なく♪」
「ぬ、ぬおおおおおおおおおおお!!!!!」
思えばあの頃は、スターになりたい。そんな思いが、先行していた感じで。
だからこそ、類の発明は、どれも凄くて。彼なら、オレをスターにすることができると、思うくらいで。
それでも、あの突拍子もない発明達の実験をする度に、思っていた気がする。
「この男は、底が知れない」と。
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突拍子もない、なんなら割と危険なものばかり用意して。
乗せられるがまま、実験台となって。
その度に凄いと思う反面、よく思っていた。
類の思考は、底が知れない。
きっと、わかることはないんだろうな、と。
けれど。
同じショーの仲間として、数多くの演出を経験して。
その過程で、類に感じていた感情が、別のものになっていって。
類からの告白で、その感情が、恋であることに気づいて。
そうして、付き合って、恋人としても、過ごしてきて。
底が知れないから、相容れないと。理解することはないんだと。
そう思っていた自分を、殴りたくなった。
彼はこんなにも、わかりやすいというのに。
嘗て危険極まりなかったあの機材の数々。
それは全て、実験台がいなかったせいで、
「本当に危険性がないのか」
「計算上は安全でも本当にそうなのか」
「相手の力量に合わせたものになっているのか」
そのどれもが手探りであったことを知ったのは、大分後になってからだった。
ハロウィンショーを受けてから、怪我には十分気をつけていたつもりだったが。
度重なる実験による疲弊も相まって、類の機材によって危うく大怪我になるところだったこともあった。
あの時の類は、本当に忘れられない。
真っ青な顔のまま、機材のあれそれを確認して、オレの身体の調子も、何度も聞かれて。
オレが落ち着けと声をかけるまで、ずっと混乱状態だったな。
そこから、類の調整はミリ単位で行われていると言ってもいいほど、繊細なものになっていった。
その代わり、度重なる実験の末、オレの力量や体力を理解してからの類の実験は。
オレができる本当に「ギリギリ」を攻めた、ある意味きついものだった。
きついものではあったが。
それができた時の喜び。そして。
「司くん、流石スターだね!君は本当に最高だよ!」
その声に、いつだって答えたくて。
頑張りすぎて倒れて、逆に心配をかけてしまったこともあったなあ。
……話が逸れてしまったな。
今でも、類の思考回路やひらめきは、「底が知れない」ものだと、そう思っている。
わかりやすい部分もある。でも、全部を理解できたかと言われたら、そうでもない。
でも、それでもいいと、思うようになった。
オレは、そんな類が、好きになったんだから。
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「……っきみ、は。本当に、予想を超えてくるね……!」
泣きながら言う類に、してやったりな顔をする。
渡したそれがくしゃくしゃにならないように、一生懸命頑張って遠ざけている姿に、愛しさを感じた。
いつか、渡せたらいいなと。軽い気持ちで、書いたそれ。
ふと、渡したいなと思った日。……つまり今日が、特別な日になるんじゃないかと、そう感じていて。
それは、本当に、予想通りになった。
「オレも、言われてばかりじゃないからな。いつか絶対、言おうと思っていた」
「……知って、いたのかい?」
「いいや?でも、なんだか、そんな気はしていたんだ」
たまには、こういうのもいいだろう?と、笑いかけるオレに。
類は、涙を拭いて、満面の笑みで、言った。
「本当に君は、最高だよ!」
笑い合う、オレ達の指には。
一対の指輪が薬指で、キラリと光っていた。