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    3iiRo27

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    3iiRo27

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    ritk版深夜の60分一発勝負
    第百十九回 お題:「買い出し」「数学」
    ある条件で司に数学を教えることとなった類のお話。
    類視点

    #ワンドロ
    #類司
    Ruikasa

    次の日、そのだらしない顔を何とかしてと、寧々に呆れられた。「さて、それじゃあ今日も頑張ろうか」

    「うう……すまん、類……」



    珍しく悲壮感が漂う司くんに苦笑しながらも、手に持った教科書を開く。

    背筋を伸ばしてノートに向かう司くんを見て、数日前を思い出した。





    ------------------------------------





    今日からテスト1週間前。

    練習も中止になったことだし、家でアイデアを練ろうかと考えていた僕のところに、司くんは泣きそうな顔でやってきた。




    「……勉強を、教えてほしい?」

    「ああ……。どうしても今回は、類の力を借りたくてな……」


    申し訳ない、と頭を下げる司くんの顔をどうにかして上げさせ、詳しい事情を聞いてみた。

    そうしたら、なんてことはない。
    今回のテスト範囲にある数学の公式を、司くんは理解できていなかったのだ。


    国語や社会であれば一夜漬けでどうにかなると言っていたし、
    数学も公式さえ理解ができれば、何ら問題はない。



    でも、それは「理解」できたらの話だ。

    公式を理解して、使うべき箇所に当てはめることができなければ、解くことはずっとできない。
    しかも今回の司くんは、範囲の公式がほぼ全て理解できていなかったのだ。


    ショーの練習のために、休日にある補習は何としても回避したい。
    でも、自分が理解できていない公式を一人で覚えるのも無理がある。




    そこで白羽の矢が立ったのが、僕という訳だ。

    前々から、僕がこの時期に勉強をしなくてもいい点が取れていることを、司くんも理解している。
    真面目な司くんのことだ。それでも普段僕を頼らなかったのは、こういうものは自力でやるべきだと考えていたからだろう。

    それでもどうにもならなかったので、こうしてお願いされているわけだが。




    司くんの申し出に、僕はふむ、と考え込む。

    確かに機材が作れないのはあれだが、折角機材を作ってもそれを試してくれる司くんが
    その場にいなかったら本末転倒だ。

    僕はそれなりにテストに余裕はあるが、この機会に復習するのもいいかもしれない。




    「うん、いいよ。僕が教えてあげる」

    「……!!すまない、ありがとう類!あ、だがそれだと不公平だな。オレだけが得してしまうし……」



    気にしなくていいのに、という僕の声も気にせず、うんうんと唸り。

    思い付いたように、パッと顔を上げたのだ。



    「よし、それなら…………」





    ------------------------------------





    (「なんでも1つ、言うことを聞く。かあ」)


    机にかじりついている司くんを見ながら、ぼんやりと考える。



    それこそ最初の時は、新しく作ってもらったものの実験台に、いやでもあっちの機材も捨てがたい、と色々考えていたのだけれど。



    (折角なら、普段できないことをしたいなあ。デートとか。)


    僕らは、つい最近付き合い始めた。
    だから1回も、デートに行ったことがないのだ。


    (二人で出かけて、ショッピングして、一緒にご飯食べて。一緒にミュージカルを見るのもいいなあ。あ、でも他にもやりたいことが……)



    そんなことを悶々と考えていると、くいっと服を引っ張られた。



    「……ん?」

    「類、大丈夫か?ぼーっとしていたようだが」



    服を引っ張ったのは、司くんだった。きっと、声をかけても反応がなかったから、引っ張ってくれたのだろう。
    不安げに見つめる司くんに、僕は笑いかけた。



    「大丈夫、少し考え事をね。司くんこそ、どうかしたかい?」

    「あ、ああ。ちょっとここがわからなくなってしまってな」

    「ふむ、ここだね。ここはこっちの公式を……」



    僕の説明を頭の中で整理しながら、少しずつだけど、解けるようになっていく。

    真剣な顔で解いていく司くんを見ていたら、いつしか考えていたことを忘れていた。





    ------------------------------------





    「……なら、こっちの方を明るくしてみるのはどうかな?」

    「いや、それだと下手側が暗くなりすぎてしまうと思うのだが」

    「ああ、それは確かに。……うーん、もう一つライトを追加すべきなのか……」



    二人でそう話していると、ピロピロとスマホが時間を知らせてくる。
    そんな音を聞いて、司くんがしょんぼりとした。



    「ほら、終わりだよ?戻らないと」

    「うう、そうなんだが……。もっと喋りたかったなと……」



    しょんぼりとしたまま戻る司くんを見て、思わず苦笑する。


    本来僕がテスト期間の間にやろうと思っていたアイデアの案を、司くんは休憩時間にやろうと提案してくれた。

    僕一人では気づかなかった意見や、司くんの要望を聞きつつ進められる作業は楽しくて
    つい話し込んでしまう。


    そんなことをして一時間経ってしまったこともざらにあったので、今は15分タイマーをかけてしっかり切り替えるようにしている。

    しかしまあ、ショーバカである僕たちが、これで満足するわけがなく。




    (日に日に反応が悪くなっていくねえ……。まあ、仕方ないけれど)

    どうしようかなあ、と思いながら司くんの姿を見て。
    ハッと、閃いた。




    「司くんも、何かご褒美を用意したらいいんじゃないかな」

    「は?」


    突然出てきた僕の言葉に、司くんは顔を上げながら怪訝そうな顔で見つめてきた。



    「ショーの話ができなくて苦痛みたいだから、どうにかできないかなって考えてたんだよ」

    「あ、ああ。それはありがたいが、そう簡単にご褒美と言われても思いつかないし、オレが頑張るのは当然のことだが……?」

    「うん、まあそういうと思った。だからね、条件付きならどうかなと思ったんだ」

    「条件……?」


    首を傾げる司くんに、僕は頷きながら、口を開いた。





    「例えば、75点以上取れたら、僕が何でも1つ、言うことを聞くとかね」





    僕がそういうと、司くんはピタリと、動きを止めた。


    「……司くん?」

    「……何でも、いいのか?」

    「う、うん…?」




    確認するような真面目な声に、困惑しながらも頷く。

    そんな僕に、わかったと返事を返し。



    先ほどとは打って変わって、水を得た魚のように、集中して勉強に挑み始めた。






    (……僕にやらせたいこと、あったのかな?)

    そんなことを思いながらも、真剣な顔で向かう司くんの横顔を、ひっそり眺めた。





    ------------------------------------




    「よっっっっっっっっっし!!!」

    「ふふ。さすが司くんだねえ」

    「はーっはっはっは!そうだろうそうだろう!!」



    いつも通りの司くんだあ、なんて考えながらも、見せてもらった答案用紙を眺める。

    そこにはしっかりと、「76点」と書かれていた。


    さて、と思いながら、司くんに話しかける。




    「ギリギリとはいえ、本当に達成したねえ。話していた通り、何でも一つ、言うことを聞くよ?」




    そういうと、司くんはピタリと、動きを止めてしまった。






    「…………あの、……司くん??」


    つい先ほどまで、いつも通りの笑い声が響いていたのだ。

    僕の言葉で、動きも止まったし声を止んでしまった。



    変なことを言ってしまったか?と思っていたが、司くんは急に動き出した。
    そして、僕の前にすたすたとやってきて、バッと僕の前に何かを差し出す。



    「これ」

    「……え」

    「これ、やる」



    そう言って強引に押し付けられたそれを受け取ると、そこには優先券、と書かれたファンシーなチケットがあった。



    「これ、は……?」

    「咲希からもらった。都合がつかないから、折角だし行ってきて、と」

    「そ、そう、なんだ……?」









    「今度の買い出し、オレ達が担当だろう。その時にどうかと思ってな」


    ずっと困惑していたが、司くんの言葉にハッとなる。



    買い出し。

    僕達が担当。

    一緒にご飯を食べたい。



    ……もしかして。






    「司くん、もしかして……」





    「そ、その。オレ達もそろそろ、一歩歩んでもいいんじゃないかと思ってな」

    「…………」

    「か、買い出しなら、きっと違和感もないだろうし……、ファンシーな店とはいえ、食事は美味しいそうだから、きっと大丈夫だと思ってる……」

    「…………」

    「な、何とか言ってくれ……」







    司くんは恥ずかしいのか、しどろもどろに言い訳をしている。

    でも僕は、司くんがそう言ってくれたこと。

    司くんが、一歩歩みたいと、そう言ってくれたことが。



    堪らなく、嬉しかった。




    「司くん、はい。」

    「……は?」




    ぽかんとする司くんに、僕も少し強引に手渡す。

    ……司くんと2人で買い出しの日付がプリントされた、ミュージカルのチケットを。



    「っ、こ、これ……!!?」


    両手で持って震える司くんに、僕は笑いかけながら口を開いた。




    「何でも一つって言われたから、機材のあれそれとか色々考えたんだけどね。でも折角なら、普段できてないことをしたいなって思ったんだ」

    「…………」

    「僕も今日、これを持って誘おうと思っていた。……司くんが僕と同じことを考えてたの、とても嬉しかったんだ」





    そういうと、司くんは感極まったのか、静かに涙を流しながら、こくこくと頷いていた。
    自分もだ、と言いたいのだろう。


    そんな司くんを、僕はそっと抱きしめる。









    「司くん。僕とデートしてくれませんか?」


    司くんは一つ頷くと、強く抱きしめ返してくれた。








    そんな僕らの買い出し、基デートが上手くいったのかは
    また、別のお話。
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