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    mono_gmg

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    洗濯されたばかりのシーツの洗剤の香りが胸いっぱいに広がる。清潔になった布の海に寝転がり、同じように寝転がる相手と他愛の無い話をしていた。過去修復しに訪れた特異点での出来事、今朝起きた所長とフォウの朝ごはん争奪戦の行く末、シミュレーターで好戦的な英霊に絡まれた事件、調理の手伝いのお駄賃として貰った美味しいお菓子の話。次々に溢れてくる話題を広げていくたび心は好き勝手に弾んでしまう。それは自分たちの帰る場所を取り戻す為に戦い続けるマスター、立香の張り詰めた緊張が緩む貴重な時間。文字通り、心休まるひと時。特に今目の前で楽しそうに笑っているサーヴァント、マンドリカルドと喋っていると自分がただの藤丸立香に戻れたような気がして嬉しくなった。まだ戻る訳にはいかないけれど、時々思い出したくなる我儘を彼に叶えて貰っている。そんくらい、俺でよければいくらでも付き合いますよ。幾つもの時間と絆を重ねた英霊の青年は外見年齢相応に笑みをこぼした。彼と同じくらい会話と信頼を重ねた自分は嬉しさのあまり、うっかり目頭が熱くなってしまった記憶が思い起こされる。
     マスターに割り当てられたマイルームの一人用の寝台に、それなりの体格の男二人が並んで寝転がっているのは少々不思議な光景だった。さらに言えば、尊敬する偉人の装備を外しラフな格好でいたマンドリカルドの腕を立香が枕代わりにしている。少し前に男性サーヴァントの体格について盛り上がっていて、全体的に細身な印象を受ける見た目とは裏腹にしっかりとしているマンドリカルドの二の腕へ話題が移り、いつの間にかこの状況に至っていた。最初は負担をかけるのではと躊躇いがあったが、英霊の身である彼にとって人の頭の重さ程度は気にならないらしい。枕ほど柔らかくないですけど、と申し訳なさそうに呟いた言葉へ全力で首を横に振った。お言葉に甘えて実際に乗せてみると思ったよりも安定していて寝心地は良いし、違和感を少しでも無くそうと配慮してくれているのが頭越しに伝わって、ついつい頬が緩んだ。甘やかされている、という自覚がしあわせの形に変わってじんわりと胸の中に広がる。かつて別霊基の彼と絶海で育んだ友情ではなく、正真正銘目の前の彼と築いた信頼だけでもなく、それを超えて辿り着いてしまった愛情と呼べるものが、二人の今の姿を具現化していた。
    「……へへ、」
    「んー? マスター、ご機嫌っすね」
     なんかいいことありましたか。そう尋ねる言葉尻は柔らかく、ほんの少しだけ下の角度から見上げる表情はとても穏やかだった。こんなにも間近で彼の顔が見られるのは腕枕のおかげだろう、と思う。生前の反省から様々な物事において慎重になりがちなサーヴァントが、リラックスしてくれているのだとひしひし伝わってくる。元はと言えば立香の我儘から始まったこのひと時に対して、程度に差はあれど、自分と同じような気持ちを抱いていた。
    「んー……好きだなぁ、って」
    「……ん?」
     無意識に零れ落ちた音だった。不思議そうに瞬く眼に見つめられ、自分が音にしてしまった言葉の意味を振り返り頬が熱くなる。えっと、今のは、としどろもどろに言葉を詰まらせていると、何かに気付いたらしいマンドリカルドが閃いた顔で笑う。
    「あぁ、うまかったっすよね。すき焼き、でしたっけ? さすがは弓兵さんの腕というか……」
    「え、ちが……いや、違くはなくて美味しかったんだけど、そうじゃなくて……!」
     カルデアのキッチンを預かる英雄が作ってくれたすき焼きは、馴染みのある立香はもちろん、初めて口にするサーヴァント達にも大好評の味だった。記憶の中で珍しくおかわりを希望していた彼も例外ではないらしい。しかし、今回はその美味しい話題は関与していなくて。慌てて否定する主人の様子を見たサーヴァントは、疑問符を浮かべながらうーん?、と唸り始めてしまった。立香が零した言葉の意味を一生懸命拾おうとしてくれる姿勢は、胸の内に喜びを積もらせるけれど。彼の為にも自分の為にも、今の言葉を肯定しておけば良かったかとほんの少しだけ後悔の念が過った。気恥ずかしさを押し込めてから上半身を起こし、覚悟を決めて口を開く。
    「……今のは、その……マンドリカルドが、って意味で……」
    「……へ、」
     顔全体に感じる熱が、全身を激しく揺らす心臓の鼓動が、つられて上半身を起こした彼の顔を見つめようとする動作を阻んでくる。少し間を置いてから様子を窺うように逸らしていた視線をちょっとずつ戻していくと、時が止まってしまったかのように微動だにしない青年と対面した。
    「……マンドリカルド?」
     まさか固まってしまうとは思ってもいなくて。予想外の反応に困惑しながらそっと名前を呼んでみる。漸く時が動き出したらしいサーヴァントは大袈裟に狼狽えた声を挙げた後、みるみるうちに頬を赤く染めていった。
    「……あ、あぁ、すんません……全然、予想してなかったんで、ちょっと……衝撃が……」
    「……オレ、前に恋愛感情込みで君に好きって伝えたつもりだったんだけど……伝わってなかった……?」
     まるで初めてその言葉を受け取ったかのようなマンドリカルドの反応に立香の表情が不安そうに曇る。人との距離感を測るのに不慣れな彼をもし自分勝手な感情で振り回していたのなら、申し訳ないなんて言葉ではとても済まされない。そんなマスターの気持ちを覚ったサーヴァントは不安な気持ちを拭い去ってやるように、慌てて手の仕草で否定を示した。
    「いやいや、マスターの気持ちはちゃんと伝わってる! ……俺が、その言葉に慣れてないだけっつーか……」
    「……慣れてない?」
     伝えられた言葉を拾い改めて口の中で転がす。ふと彼についての出典で得た知識を記憶の倉庫から引っ張り出しながら、首を傾げた。
    「……マンドリカルドって、生前お付き合いした女の人のこと口説いてなかったっけ?」
    「……まぁ、そう、……っすね……」
     己に蓄えられた記憶は間違っていなかったらしい。けれど歯切れの悪い台詞と気まずそうに逸らされる視線は、少なからず彼の内心を現しているのだろうと推測出来た。
    「……最終的にはその女にも裏切られた。負けた上に死んじまったんで、当然と言えば当然なんすけど」
     暗い話してすんません。笑い飛ばすつもりで小さく笑みを浮かべたマンドリカルドであったが、立香には無理やり取り繕ったようにも思えた。言いたくないであろう生前の話を言わせてしまった罪悪感に襲われながら、数分前に彼が呟いた慣れていないという言葉をもう一度頭の中に並べてみる。目の前にいるサーヴァントは自分にどこか自信が無くて、ある時には大事な話があると言っただけでリストラの話だと勘違いした過去があった。リストラにまで飛躍してしまうのは少々極端だとは思うけれど、そんな彼の心情と似たものが立香自身の中にも存在していて、卑屈に思ってしまう気持ちは分かる。
     とはいえ、立香はサーヴァントや職員の人達から示される好意は素直に受け止められるし、唯一のマスターだからという理由を除いても皆から大切に思われている自覚があった。マンドリカルド自身の中で好きという気持ちは、生前はともかくとして今は遠いものという認識なのだろうか。
    「……オレは、マンドリカルドのことを特別なたった一人として好きだと思ってるけど、……でも、君の為に死ぬことは出来ない」
     不意に真剣な表情で口を開いた立香の只事ではない物言いを聞いて、サーヴァントは眉間に皺を寄せる。それでも何かを伝えようとしている主人の気持ちを汲んでいるのか、遮るような言葉を挟む事は無かった。
    「きっとオレたちは最後まで一緒にはいられない。それが分かってるから、好きって気持ちを持ち続けることは君に対して不誠実だって思ってた」
     不誠実、と云う文言を聞いた途端反射的に開こうとした唇を指でそっと宥め、そのまま隣にある頬へ掌を滑らせた。眉を八の字にして立香を見つめる灰色は、言葉を止められてもなお眼でそんなことはないのだと訴えてくる。優しさではなく、真っ直ぐな愛情を向けられているのだと実感して胸の辺りがぽかぽかと暖かくなった。
    「けど、マンドリカルドに出会えて良かったし、今こうして一緒に過ごせるのがすごく嬉しいんだ。想いを伝えられたことも、同じ気持ちを返してくれたことも。ちょっと臭いかもだけど……このひと時がいとおしい。君と向き合いながら、そんな想いを真っ直ぐ伝えられると良いな」
     これからずっとは彼の隣にはいられないのに不誠実だと分かっていてもこの時間が愛しくて、大きくなった気持ちを手放せなくなっていた。ならば、このこころの前では正直であろう。いつか訪れる別れの時に胸を張れるように。いつか訪れる別れの日に僅かな後悔を残さない為にも。
     少しだけ背筋を伸ばしてから額にかかる髪を避けて現れた額に唇を落とす。ぼんやりしていたらしいマンドリカルドは照れているのか振り切れた感情から溢れた心の声を抑えられていないようで。さらに頬が赤く染まっている様子に気付いて微笑ましくなった立香はだらしなく頬を緩ませていた。
    「マンドリカルド、好きだよ」
    「へ……お、おう……」
    「愛してる」
    「うぐぅ……」
    「アイ、ラブ、ユー!」
    「も、それ以上は……っ」
     怒涛の愛の告白に容量を超えてしまったのか、耳まで赤くなったサーヴァントは肩を縮こませながら立香の肩口に顔をうずめ、表情を隠すように俯く。真っ直ぐこの気持ちが伝わっているのだと嬉しくなって縮こまった肩を抱き締めた。何よりもこの人自身がいとおしいんだよなぁ、と恐らく自分は言い訳出来ない程の満面の笑みを浮かべていることだろう。気が付けば無性に甘やかしたい欲がふつふつと湧いてきて、数分前までは逆に甘やかされていた身であるけれど、あんなにもしあわせな気持ちになるのだからぜひ彼にも体験して欲しい。そう思い立てば即行動するのが吉日だと先人達の言葉を倣う結論へと至った。
    「ね、今度はオレが腕枕していい? というか腕枕したい」
    「えっ、いやでも潰しちまったら……」
    「おりゃっ」
    「い、いきなり倒れるなってぇぇ……!」
     背中へ腕を回したまま勢いよく横に倒れて、賑やかな笑い声を響かせながら洗濯されたばかりのシーツの洗剤の香りを胸いっぱいに吸い込む。目に見えない筈のしあわせというものはきっとこんな香りがするものなんだろうな、と思った。
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    Replies from the creator

    mono_gmg

    DONE大学生ぐだ×バーの店員マンドリカルドな現代パロディ。まだ続く予定
    色々ふわふわしてますがご容赦ください


     一般的な夕食の時間は過ぎ去り、夜の都内が賑わいを見せ始めた頃。中心地から少し外れ、とある物静かな人気の無い通りを一人の若者が歩いていた。その足取りは酒に呑まれた者特有の不安定さは見られなかったが、どことなくふらふらとしていて覚束無い。俯きがちなその背中には彼だけが知っている寂しさが漂っている。
     青年は少し前までは大切な人と親密な時間を過ごしていたけれど、その大切な人と歩む道は今や違えてしまった。互い以上に想いを寄せる恋人が出来た訳ではなく、双方の間にある恋心が冷めた訳でもない。二人の関係に幕を下ろしたのは彼女が静かに呟いた別れよう、の五文字。相手を試すような冗談を告げるような人ではなかった。慌てて表情を窺えば眉を八の字にしながらもしっかりとこちらを見据えていて、長い時間を共にしてきた人の決意を覚ってしまった。切り出されてからたっぷり間を置いてゆっくりと頷く。未練は無い、と言えば嘘になるけれど。提案も憂いも拭い去って彼女を説得出来る自分の姿が思い描けなかったのだ。関係性が一つ消えても大事な友人であることは変わらないから、彼女にほんの少しの罪悪感も残したくなくてなるべく穏やかに笑 8950

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