【フィガレノ】隣立つ微熱の行方 ああ、さむい、さむい。
そんな戯言を繰り返し、ぴとりと肌を寄せる男を前にして。レノックスは対応に困っていた。
レノックスの体躯を前にすれば〝自分よりは小さい〟には分類されるが、それでも一般的な分類でいえば彼もそれなりの大男だ。おまけに、北の国出身の大魔法使いでもある。苛烈な自然と止まない雪、果てしない銀世界の大地に愛された男が、南の国如きの雪で、何を言っているのだろうかと。要するに白けた視線を向けるべきか、この茶番に付き合うべきであるのか、どうにも華々しくもない光景やシチュエーションを前に、レノックスは迷っていたのだ。
「きみ、今俺に呆れているだろう」
「バレてしまいましたか」
「俺の独り言に、黙って視線だけ向けている時はだいたいそうだ。いいかい、今の俺は南の国のか弱い魔法使いのお医者様なんだから。北の気候に慣れているから平気だなんて、そういう空気は出しちゃいけないんだよ」
3623