縄(日比谷を繋ぎ止めるものが欲しい日光) そもそもはセフレだった。所謂恋人関係というものに興味がなくて、いつも別の相手と遊ぶだけだった。
ただし、例外が1人だけいた。鉄道路線でありながら肉体を持つ、同じ存在。指向が違うやつには手を出したことはなかったし(勘違いした相手は遊んでやったけど)、直通先とは言え同業他社。今までであれば面倒を避けて絶対に手を出すことのない相手だった。
日比谷から伸ばされた手。その顔は不安げで、その手を取ることが躊躇われた。脳内で「面倒ごとになる」と警鐘が鳴っていたはず。好奇心に勝てず、その手をとって今の関係になった。
体を重ねてみればなんてことはない。見た目は真面目で淡白。開いてやれば、真面目であることには変わりなかったが、欲は人並みにあって、特に不都合が出ることはなかった。
(それもそうか。そもそものきっかけは日比谷なんだから。)
聞けば、日比谷には好きな男がいて、自分に似ているらしい。何とも見る目のない。気持ちを伝えることはしないと言うし、そもそも恋人関係でもない男と寝ていることも日比谷の懸念材料のようだった。
ああなんて、哀れなことか。男が好きだって、死にやしない。現に、ゲイの俺は死んでいない。確かに、マイノリティで生きづらくはある。ただ、別にオープンにして生きていかないといけないわけではないし、何なら自分たちのような存在は結婚を促されるような存在でもないのだから、普通の人間よりもよほど生きやすいのだと思うのだが。
何とも息苦しそうな水槽で生きているように見えてしまう日比谷が、可哀想で、可愛かった。
(俺のそばであれば、少しは呼吸が楽にならないだろうか。)
ただの情であるはずだったその感情は、庇護欲となって膨らんでいく。可哀想と可愛いは表裏一体となって、日比谷を見る目を変えてしまった。
(そんな男を見てないで、俺だけ見てくれれば。幸せにしてやれなくても、少なくとも楽にはしてやれるはずなのに。)
傲慢なことは理解している。日比谷がそれを俺に求めていないことも。膨らむ思いはやがて、この関係を壊すことになる。