おでん だんだん寒くなってきて、温かいものが恋しくなってくる。だから途端に恋しくなってしまったのだ。
「「うまっ・・・」」
そう、おでんである。
10月半ば頃から段々気温は下がっていって、11月にはもう上着が必要な程度には寒い。仕事が終わるころには体感温度はさらに下がって、温かいものが恋しい季節になってきた。
(別に地下だし執務室も寒くはないんだけどねぇ。仕事が終わったらコンビニでも行こうかな。)
便利な世の中になったものだ。自分で作らなくてもそこそこのおでんが手軽に食べられる。
(何食べようかなぁ。)
「おでん、おでん。」
仕事が終わって、昼から思いを馳せるおでんが口から洩れる。
「おい」
後ろから聞き覚えのある声に呼び止められて振り返る。そこには日光が立っていて、自分が呼び止められたことがわかる。
「日光・・・。お疲れ様。」
「あがりか?」
「うん。帰るとこ。」
「飯付き合えよ。特に当てはないけど。」
「え、おでんでいいなら付き合う。」
一人ならコンビニなんだけど、二人なら外食でいい。コンビニおでんはまた別の機会に食べればいい。
「了解。そんなにおでん食べたかったのか?」
くつくつと笑う顔に、やっぱり好みだな、と思った。
「「うまっ・・・」」
つゆが染みてる大根が熱くてうまい。思わず感嘆があふれたが、それは一緒に食べていた日比谷も同じで、思わず吹き出してしまう。
「次はたまごください。」
「こっちはちくわで。」
それぞれ好き好きに注文して、女将から「はいよ」っと渡される。
なんとなく日比谷のほうに目をやると、その顔がキラキラと輝いている。そんなにおでんが食べたかったのか。
アツアツのちくわをそのまま口に運ぶ。鍋から上げたばかりのちくわは火傷しそうなほど熱く、苦戦しながら口に含んで咀嚼する。体の芯から熱くなるのが分かって、日比谷の提案に乗ったのが正解だったのがわかる。
「「うまっ・・・」」
「僕もちくわ下さい。」
箸を進めながら、ちびちび日本酒を飲む。体の芯がさらに熱くなるのを感じる。日光を見るとちくわが熱すぎるのか、ふうふうと熱を逃がしながら食べていた。
(なんかさぁ、人が食べてるところってなんかえっちなんだよなぁ。)
酔っているのか思考がおかしくなっている。特にする予定もないのに段々ムラムラしてくる。
「はいよ」
女将の声に現実に戻される。笑顔で受け取って、ちくわに集中する。体だけではなくて、顔に熱が集中している気がした。