ある、花魁の話「姐さん姐さん、あのお話して」
「またかい?怖い怖いって厠に行けなくなったの忘れたの?」
「わっちも聞きたい、姐さんお話して」
「……しょうのない子達だね」
吉原でも五本の指に入る美しい花魁の部屋から昔話が聞こえる、吉原に巣食った鬼の話だ。
花魁が禿だった頃、いつも彼女は怯えていた。後から鬼だと知った蕨姫花魁はいつも禿の彼女へキツく当たり、折檻をしては憂さ晴らしをしていた。
そんな彼女の毎日を金色の灯りが照らす。
彼女が「善子ちゃん、善子ちゃん」と慕った珍しいたんぽぽ色の髪をした女の子、その善子だけが唯一蕨姫花魁から彼女を身を呈して救ってくれたのだ。
しかしその善子が男で、鬼を斬った一人だと風の噂に聞いたのは善子がいなくなって随分後の事だ。数年前にそんな事があったとは思えないほど吉原遊廓は今日も美しくでも欲に塗れた怪しい光を放ち輝いている。
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