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    猫の日なので過去作再掲(加筆修正ver)
    猟師呂蒙が行き倒れチェシャ猫甘寧となんやかんやあって同居生活をはじめた後の話

    Lost Forest ─Meow′s day─ 理不尽さが、また愛おしい。
     猫飼いの知人が、以前そう語っていたのを思い出した。
     家具や壁に爪跡を残され、カーテンはズタボロ、衣類は舐め回されてベチャベチャに。ベッドの上、家主よりも先に我が物顔で眠る毛玉を、恍惚とした表情で眺めて。
     呂蒙は生温かい目をして、知人の話を聞いていた。
     数年後、同じような目に遭うことなど、当然知る由もなかった。



    Lost Forest ─Meow′s day─



    「甘寧っ」
     その日、もう何度目か分からない呂蒙の怒号が飛んだ。呼ばれた本人、もとい本猫は大きな耳をぴくりと動かし、ゆったりと起き上がった。
    「風呂から出たら体を拭けと言ったろう!」
    「その布ぞわぞわするから嫌だ。こっちが良い」
    「お前の好き嫌いなど知るか! それはベッドシーツだ! 体を拭くものじゃな、こらっすりすりするな!」
     こてんと小首を傾げる様に可愛げなんてものはない。自分のベッドの上、彫刻のような体が惜しみなく外気に晒されている。体の水気を拭うためとはいえ、シーツの海で身をよじる絵面は相当に不味い。
     それなりの顔の広さもある。いくら人里から離れた山の中腹にある住まいとはいえ、誰かしらが訪ねてくることはないとは言いきれない。
     呂蒙は力いっぱいベッドシーツを引き抜くと、猫は弾みでごろんと床に転がった。床に体を打ち付けた音は、図体の割にあまりに小さい。恐らく、また重さを操作したのだろう。
    「………虐待?」
    「ちがう」
     胡乱な目をした猫はベッドシーツを引ったくり、ぎゅっと身を固くした。
     情操教育に良いかと思い見せた動物ドキュメンタリー番組が原因だろうか。
    「もうそのシーツでいいから……ちょっとここに座れ」
     ベッドの縁に腰かけた呂蒙は、足の間を指差す。猫は存外素直に近寄ってきた。
    「ちがうちがうちがう! 逆だ、逆!」
     指示の出し方が不味かったのか、男の股間を凝視する猫という図が出来上がってしまい、呂蒙は慌てて反対側を向かせた。
     手渡されたベッドシーツで猫を包む。
    「んぎっ…………!?」
     ただし、頭にはタオルを被せて。
     先程猫が『ぞわぞわする』と言っていた代物だ。猫は体をばたつかせ逃れようと藻掻いた。
    「約束、覚えてるな?」
     なんやかんやとあって、人間と犬の暮らしに猫が加わることになった時、約束事を取り付けた。
     呂蒙からは『急に消えたり、現れたりしないこと』と。最初に会った時、その特殊能力で大層翻弄されたことを、呂蒙は未だ根に持っていたのだ。
     逃げることは容易い。だが、猫はそれをぐっと耐えた。
     表情が強ばる猫に、呂蒙は苦笑して話しかける。
    「悪いようにはせん。楽にしてろ」

     五分も経たない内に、逆立っていた尾はみるみる力を無くし、勝手気ままにふよふよと揺れた。鼻先を掠めてくすぐったい。
     呂蒙が優しく、時折豪快に拭うタオルの感触は、猫を瞬く間に虜にさせた。先程までの剣呑な雰囲気はなりを潜め、呂蒙の太腿を枕にして、ゴロゴロと喉を鳴らす。陥落すればあっという間だった。
     金の髪は粗方乾いた。次は、
    「んん………、」
     獣の耳の付け根に触れると、猫はぴくりと肩を揺らした。甘い吐息が漏れ聞こえる。
    「気持ちいいか」
     こくり。首が前後する。早く早くと催促するように、ふかふかの尾が呂蒙の体にまとわりつく。が、その誘いには乗らない。
    「毎日風呂に入れば、毎日やってやるぞ」
    「………………水は嫌だ」
    「湯ならいいだろう?」
     渋るように頷いた猫を、最後の仕上げと言わんばかりに、タオル越しに撫で回した。

     以降、猫が風呂に入れば入る程「俺の毛をタオルドライさせてやる」といったふてぶてしい態度にスライドしつつあるのが、目下呂蒙の悩みであった。
     あの時感じた慈しみの気持ちはもうすっかり消え失せてしまったけれど、今日も今日とて呂蒙は猫の毛を乾かす。
     猫の尾がたしたしと弾み「もっと優しく」「そこはがーっと強めに」と口喧しく注文が入る。それらにはいはいと適当に頷きつつ、愚痴るのだ。
    「にゃーとかなんとか一声鳴けば、まだ可愛いものを」



     俺より先に猫が風呂に入るのってどうなんだ?
     ぶつくさ文句を垂れる家主が、首を傾げて風呂場に向かうのを見送る。ぐぐっと背筋を伸ばした猫は、しなやかに起き上がった。
     喉を数回摩って、しばらく使っていなかった声の形を思い出す。

     ​─────ニャア

     こんなのでいいのか?
     家主の真似事のように、猫は首を傾げた。


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    k_r_r_r_n2

    DONEこの後事情を知った権に「おま、お前たち……このっ………馬鹿者ーーーーー!!!!!!!」ってめちゃくちゃ泣かれる

    7月7日の蒙甘というか、蒙と甘
    ※ピクブラ掲載作品→一時的にポイピク避難中
    ミルキーウェイにはほど遠い 酒盛りを終えた二人は悪童よろしく、隠れ処の屋根へとよじ登った。大の男が二人屋根に腰を下ろすと、ぎしりと嫌な音を立てて木材が軋む。したたかに酔いが回った頭は、その音がなにやら愉快なものだと判断したらしく、揃ってけたけたと笑いあった。
    「一年、か」
     一息ついた呂蒙が、名残惜しそうに呟いた。寝そべっていた甘寧は、隣に座る呂蒙を横目でちらと見る。
    「なんだよ。頼んできたそばから惜しくなっちまったか」
     呂蒙はふむ、と顎を摩る。しばし考えて、そうかもしれんと肯定した。
    「彼の地は要所中の要所だ。お前ほどの適任者はいないという殿のお考えに俺も賛同したからこそ、こうして話しにきたわけだが」
     頼みがあると隠れ処に呼び出され、なにかと思えば川向こうの要所を一年間守りきれという。上官からの、ましてや他でもない呂蒙の頼みだ。断る理由などないというのに、このお人好しの上官殿は面目ないという風体で頭を下げた。
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