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    この後事情を知った権に「おま、お前たち……このっ………馬鹿者ーーーーー!!!!!!!」ってめちゃくちゃ泣かれる

    7月7日の蒙甘というか、蒙と甘
    ※ピクブラ掲載作品→一時的にポイピク避難中

    ミルキーウェイにはほど遠い 酒盛りを終えた二人は悪童よろしく、隠れ処の屋根へとよじ登った。大の男が二人屋根に腰を下ろすと、ぎしりと嫌な音を立てて木材が軋む。したたかに酔いが回った頭は、その音がなにやら愉快なものだと判断したらしく、揃ってけたけたと笑いあった。
    「一年、か」
     一息ついた呂蒙が、名残惜しそうに呟いた。寝そべっていた甘寧は、隣に座る呂蒙を横目でちらと見る。
    「なんだよ。頼んできたそばから惜しくなっちまったか」
     呂蒙はふむ、と顎を摩る。しばし考えて、そうかもしれんと肯定した。
    「彼の地は要所中の要所だ。お前ほどの適任者はいないという殿のお考えに俺も賛同したからこそ、こうして話しにきたわけだが」
     頼みがあると隠れ処に呼び出され、なにかと思えば川向こうの要所を一年間守りきれという。上官からの、ましてや他でもない呂蒙の頼みだ。断る理由などないというのに、このお人好しの上官殿は面目ないという風体で頭を下げた。
    「なんでおっさんが謝んだよ」
    「ここでの暮らしも落ち着いてきた頃だろうに」
    「へっそんなの、とっくに慣れてらァ」
     甘寧にとって環境の変化など、取るに足らないものである。こうして一拠点に留まるよりも、各地を転々と渡り歩いていた日々の方がはるかに長い。
    「そうか…」
     呂蒙は安心したような、どこかもの寂しさを含んだような、曖昧な顔つきでふっと笑った。
    「向こうの指揮官だが、殿のご親類でな。その、少々、癖のあるお方で」
    「それだって慣れっこだ。今度は上手くやるよ」
     この近辺で一番の厄介者とされていた軍から出奔した身だ。あの男ほどではあるまいと、甘寧は高を括っていた。これに関しても思うところがあるのか、呂蒙はううんと低く唸っていたが。
     相手方の評判は、甘寧の耳にもしばしば届いていた。性分故、多かれ少なかれ衝突はするだろう。配置を決めた我らが主君の思惑は読めない。なぜわざわざ火に油を注ぐのか、とすら思う。ただ、隣にいる男の顔に泥を塗るのは本意ではなかった。
    「ごちゃごちゃ考えんのはもう終いだ。…ほら、空でも見てろや」
     甘寧が天上を指差した。よく晴れた濃紺色の空には、大ぶり小ぶりの星が所狭しと散らばっている。これも酔いのせいではあろうが、三日月が星屑の川に浮かんだ小舟のようにゆらゆらと揺れていた。
    「ここからの眺めは、結構気に入ってたぜ」
     甘寧がそう言うと、少々沈み調子だった呂蒙の表情は、月明かりの元みるみる間に明るくなった。
    「ならば来年、またここで会おう」
     無事に帰還したら祝宴だと、呂蒙が拳を突き出した。
     いつどこでどうなるとも知れない身の上だ。これまで、甘寧は先の約束をすることを極力避けていた。だが、この人の良い、心配性の友の慰めとなるのなら。頭の後ろで組んでいた手を離して、片側を呂蒙へと伸ばす。
    「上等な酒もたんまり頼むぜ」
     甘寧が同じく拳を突き出すと、それらはこつりと小気味良い音を立てて離れた。



     ミルキーウェイにはほど遠い



     ────一年後。

     甘寧は十二通の書状をひとつにまとめた。内容は、やりとりをはじめた時からそう変わらない。対岸の状況報告だとか『元気にやっているか』だとか『問題は無いか』だとか。まるで故郷のお袋からのような内容だった。これを月に一度、対岸を治める呂蒙の元からやってくる伝令が届けにきた。
     ただ、数日前に呂蒙から届いた書状には、最後に目新しい文言が記されていた。
    『隠れ処で待っている』
     そう締めくくられた一文に、甘寧は目を丸くした。まさか覚えているとは、と。
     一年前、二人は確かに約束を交わしていた。甘寧が無事に戻ってきたら、隠れ処で会おう、と。
     しかし、あれは酒の席の、非常にふわっとした、戯れのようなものだと甘寧は認識していた。俺もあいつも、一年後にはすっかり忘れて、数日経ってから顔を合わせて『よぉ』と挨拶するものだとばかり。
     呂蒙が約束を覚えていたこと。呂蒙だけでなく、自分自身もしっかり記憶に留めていたこと。これらに甘寧は少なからず驚いていた。
     誰かが自分を待っている。そんなこと、今まで考えたこともなかった。
     こうも真っ直ぐ伝えられると、甘寧は弱い。不自然に吊り上がる口角を、指先でぐにぐにと触れた。たったこれだけのことで浮き足立つような心地になることも、何度も文面を確認してしまったことも、どれをとっても面映ゆい。
     浮つく気分もそこそこに、今日もまた誰かしらが手を貸してくれと叫ぶ声がする。
     甘寧は両頬を手のひらで挟み込むようにぱしりと叩くと、天幕の外へ出た。



    「兄貴ィ!北の奴らが偵察部隊をよこしてきやした!!」
    「おぉ…」
    「兄貴ィ!南で暴れてた盗っ人連中が兄貴にお目通り願いてェと!!」
    「おぉ……」
    「兄貴ィ!西の川上に船が見えやす!ありゃァ…新手の水賊じゃねェか!!」
    「おぉ………」
    「兄貴ィ!上官殿がお呼びでさァ!!」
    「おぉ…………」
    「なんでもここら一帯の商いを取り締まりたいとかなんとか!!」
    「だァーっから!!連中とは話つけただろうが!!つーか今それどころじゃねぇだろ!!ほっとけって言っとけ!!!」
    「オレらが言ったって聞かねェんですよォ!!!」
     この一年、色々あった。色々あったが、甘寧を最後の最後まで掻き乱し続けたのは、件の上官殿であった。
     呂蒙の忠告と周囲の評判通り癖のあるその男は、甘寧とことごとく衝突した。以前仕えた例の男に比べればかわいいものではあったが、態度や物言いに腹が立つことに変わりはない。孫家の人間であるということも、これ以上なくやりにくいものだった。
     一度だけ、恥を忍んで主君である孫権に『呂蒙の指揮下に戻して欲しい』と直接文を送ったことがあった。やがて届いたのは、たいそう丁寧な季節の挨拶からはじまる、たいそう丁寧な字で綴られた『すまん。頑張れ』という旨の返答だけだった。
     元来気の短い甘寧が暴力に訴えなかったことは、もはや奇跡と言えよう。実際、甘寧に付き従っている荒くれ共は皆一様にそう言った。
     甘寧自身、幾度も拳を握った。その度ふと思い出すのだ。こつりと手の甲がぶつかった感触を。一年後にまた、と約束を交わしたことを。そうしてきつく握っていた拳を開く。閉じて開いてを数度繰り返し、ふんぞり返った上官殿に言ってやったのだ。
    『その物言い、腹立つんでやめてもらっていいすか』
     この返しを皮切りに、みっともなく罵りあった回数は、もはや計り知れない。
     そういったわけで、この一年まぁ本当に色々あった。色々あったが、それも今日までである。
     昼過ぎには後任の部隊がやってくる。彼らにあの"目の上のたんこぶ"とでも言うべき上官殿を押し付、任せてさっさとずらかるだけ。そのはずだったのに。
    「……っんでよりによって、今日!!!」
     数ヶ月分の面倒事が、一思いに押し寄せてきたようだった。雨でずぶ濡れになった甘寧がそう吠えると、近くの林に馬鹿にでかい雷が落ちた。
     悪天候に乗じたつもりかちょっかいをかけにやってきた北方の敵と、金品(盗品)をくれてやるからここらでの仕事は黙認してくれとのこのこご機嫌伺いにやってきた盗っ人連中は、血走った目で走り回る甘寧配下の様子を見て、慌てて逃げ帰った。一年間振り回され続けて逞しくなったのは、なにも甘寧だけではないのである。
     今この場においてなによりの厄介事は、数日続いた大雨で川の水が増していることだった。水上生活が長く経験のあった甘寧は、これからさらに天候が荒れることを予想していた。これ以上水嵩が増すと氾濫の恐れがあるから対処するよう進言するも、上官殿は聞く耳をもたない。仕方なく手勢を使い、周辺の村民に避難なり土嚢を積むなりするよう呼びかけた。救いだったのは、彼らが長らく河川地域の民であったことだ。甘寧らが指揮を執らずとも、彼らはてきぱきと動いた。村民の行動により、ようやっと今が非常時だと気づいた上官殿は、慌てて配下に指示を出していた。
     荒れ狂う川の向こうは、横殴りの雨も相まってよく見えない。
    (間に合わねぇ、か────いや、今は関係ねぇな)
     優先すべきは、今この場だ。甘寧は頭を振って駆け出していた。



     氾濫こそ免れたものの、川は荒れに荒れるわ、様子を見ていたらしい水賊共は今が好機と蜂起するわで、想定以上の大事になっていた。
     昼前には到着した後続部隊に陸地を任せ、船へと乗り込んだ甘寧らは、気安く喧嘩を吹っ掛けてきた水賊連中をまとめてぶちのめした。
     ────鈴に慄け。水上での荒事を生業とする者ならば、一度は耳にしたであろうその言葉。不気味に響き渡る鈴の音に、新参のならず者共は言葉の意味を知るのだった。
     結局、片がついたのは日が沈んだ頃。川上を荒らし回っていたらしい水賊共を討伐したことで、甘寧とその配下の評判はみるみる間に上がっていった。あれだけいがみ合っていた上官殿ですら、親睦を深めようと酒宴に誘ってくる始末。実を言うとこの二人、言い争うことで鬱憤を晴らし合っていたこともあって、ここ最近ではそう深刻にいがみ合っていたわけでもないのである。
     過去のことは水に流そうと差し出された手を取った甘寧は、にこやかにただひと言だけを伝えた。
    『帰りやす』
     後のことはまるっと後続部隊に押し付、任せた甘寧は、用意していた船に乗りこみ濁流の中を進んだ。幸か不幸か増水した川の流れによって、船は平常時の何倍もの速さで進む。素人には不可能な航行も、甘寧らが駆れば少しばかり刺激のある船旅となるのであった。
     途中、また喧嘩をふっかけてきたどこぞの水賊を相手にした際、ちぃとばかし切りつけられたが、この程度はかすり傷だ。舐めてりゃ治る。と、本人は考えていた。
     しかし実際は、頭からだくだくと流血しており、それに気づいた配下の連中はギャッ!と声を上げた。血を雑に拭い、甘寧は休みもせずに船を駆る。ここまで来ると、もはや甘寧の意地であった。
     なんとしても、今日中に、辿り着く。



    「つ、着いた……へっへへ……やったぜ……」
     ようやっと陸に降り立った甘寧は、疲労が色濃く残る声音で呟き、ついでにげぇげぇ吐いた。
     後ろから「今日は諦めてくだせェ!」「お医者に行きやしょう!」と泣き縋るような声が聞こえる。甘寧が振り返ると、そのあまりの形相にヒッ!と鳴いた野郎共が、雛鳥よろしく甘寧の後をついてきていた。
     誰一人欠けなかったことは幸いだった。あれだけついてくるな、陸路で帰れと言ったのに。「置いてきた女房の元に一刻も早く帰りてェんだ!」だの「昔を思い出しまさァ!」だのと言って、親分である甘寧が無茶な進路をとっても付き従う、愛すべき馬鹿野郎共である。不遇の時代を甘寧と共に歩んできただけあって、度胸と根性は並外れていた。
     そんな連中でさえ涙なしではいられないほど、今の甘寧は酷い有様であった。
    全身ずぶ濡れの上にそこかしこに血と泥がへばりつき、極めつけには頭からびゅーびゅー血が噴き出していた。よろろと傾く体を無理やり引きずって、薄ぼんやりと見える灯りを目印に歩を進める。
     苦心して辿り着いた隠れ処には、誰もいない。
    「…はは、そりゃそーか」
     あれだけの荒天、氾濫一歩手前の川、今はすっかり晴れたと言っても、事後処理に奔走しているはずだ。
    (俺が知ってるあいつは、そういう男だ)
     甘寧一行が踵を返そうとしたその時、反対側からやけに騒々しい声と足音が近づいてきた。
    「少しは寝てください!」「伝言なら預かりますから!」と涙目になって縋る部下を引きずるように、げっそりやつれた呂蒙が、足取り重くやってきた。
    「待たせてすまない……おお、なかなか大所帯だな。か……甘寧?お前、どうした……?」
    「よぉおっさん……ちぃとばかし泳いできただけだ。……それよりあんた、土みてぇな顔色だぜ」
    「いやなに、そう大したことではない。……ところでお前も、目が泥水みたいに濁っているが」
     そこまで言うと、二人は同時にぶっ倒れた。周囲の配下たちは一際大きくギャー!と叫んだ。大慌てで医者の元へ向かう者、「もう五日も休まれていないのだ!!」や「血が足りてねェんだ!!」と互いの上官の状態を報告する者、わんわん泣き出す者と、水を張った桶をひっくり返したかのように、辺りは騒然とした。
     慌ただしい周囲をさっくり無視して、二人は空を見上げた。昏倒しているので空を見上げる他なかっただけだが。
     意識が朦朧としているおかげだかせいだかで、今日の三日月も星屑の川に浮かんだ小舟のようにゆらゆら揺れている。
    「大変だったろう」
    「まァな…」
     思い出すのも癪だと、甘寧の声音で悟ったのか。呂蒙はふふ、と薄く笑った。「甘寧」と柔く呼びかける。
    「おかえり」
     呂蒙の拳が、甘寧の顔のすぐそばに並ぶ。
     ただいま、と返すには少々面映ゆく。甘寧は弱々しく拳を合わせた。いつかのような小気味良い音は鳴らない。
     情けない悲鳴を上げる配下の者共が二人を担ぎ上げるまで、二つの拳は寄り添うように並んでいた。
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    7月7日の蒙甘というか、蒙と甘
    ※ピクブラ掲載作品→一時的にポイピク避難中
    ミルキーウェイにはほど遠い 酒盛りを終えた二人は悪童よろしく、隠れ処の屋根へとよじ登った。大の男が二人屋根に腰を下ろすと、ぎしりと嫌な音を立てて木材が軋む。したたかに酔いが回った頭は、その音がなにやら愉快なものだと判断したらしく、揃ってけたけたと笑いあった。
    「一年、か」
     一息ついた呂蒙が、名残惜しそうに呟いた。寝そべっていた甘寧は、隣に座る呂蒙を横目でちらと見る。
    「なんだよ。頼んできたそばから惜しくなっちまったか」
     呂蒙はふむ、と顎を摩る。しばし考えて、そうかもしれんと肯定した。
    「彼の地は要所中の要所だ。お前ほどの適任者はいないという殿のお考えに俺も賛同したからこそ、こうして話しにきたわけだが」
     頼みがあると隠れ処に呼び出され、なにかと思えば川向こうの要所を一年間守りきれという。上官からの、ましてや他でもない呂蒙の頼みだ。断る理由などないというのに、このお人好しの上官殿は面目ないという風体で頭を下げた。
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