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    yumemakura2015

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    yumemakura2015

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    クラナガとメユリ飯行こうぜ編のメユリ視点として本編に組み込む予定だったけど、この部分だけでそれなりの長さになったので独立させて閑話的なのにしました。時間軸的にはご飯誘う日の工場行く少し前くらい。

    洞窟にオレンジふたつ(一.五)青い湖に浮かぶガドル工場の真下、地下の矯正施設の一角。従業員用休憩室でテーブルに顎を乗せてため息をつくメユリの姿があった。ため息ひとつつくたびに、濃いオレンジの髪に結った緑のリボンがゆらゆらと揺れる。
    彼女にはひとつ引っかかることがあった。
    数ヶ月ほど前、ひょんなことからガドル工場勤務のクラナガから相談に乗ることになったが、工場で通信用番号を交換した日以来、相談といえる相談をしてこないのだ。時たまこちらが仕事でガドル工場に赴く際話をすることはある。しかし、会話とかの中でどうしたらいいとか聞かれることはあまりない。通信にしたって、彼からは一切連絡をよこしてきたことがない。仕事中ならいざ知らず、退勤後であろう時間にも一度たりとも通信を投げかけてきやしないのである。余計なお世話かと思いつつもこちらから一度かけてみたことはあるが、別に変わったことは無いと一点張りですぐ切られてしまうのであった。悩んでることとかがあれば相談していいと言ったのに、そもそもそちらが相談していいかと聞いてきたくせに、何にもその素振りを見せてこないのだ。
    話を聞くに職場の同僚たちとは地球と冥王星ほどだった距離が徐々に縮まってきていたようだったが、小心者のクラナガのことだ。食事や遊びに誘われた時の返し方とか、上手い会話の仕方とか悩みの種ならいくつでもあるだろうに、そういった話をしてこないのだ。そこを突っ込んでみても、そういえばそうか、とか受動的な返答ばかりで、言わなければ自分から話そうとも動こうともしないのだ。ついこっちから一方的にアドバイスをしてしまうので余計に受動的にしてしまっているような気もする。メユリから見るに、クラナガはまだ殻を破れていない印象が強い。人に関わることにまだ不安を抱いて、現状維持の保守に回っているのだろうか。
    別に友達ではないし、そこまで面倒を見てやる義理も無いのだ。しかし正直、従業員の意見ひとつでガドルの扱いが変わるとは考えにくい。しかし、あのウジウジとした男に積極性ともうひとつ自信を持たせないことには、今後仕事仲間として関わるにしても頼りにしづらいだろう。それに一度相談に乗ってやると言ったからには、中途半端で放置はなんとなく気分が悪かった。施設の天井から途中で引っかかってなかなか落下しないガドルの糞を眺めている気分である。とどのつまり、言い出して背中を押したことに対して彼女も多少ばかりの責任は感じているのであった。
    「厄介なことに手を出しちゃったなぁ」
    思わず独り言を零すと、
    「何が厄介か知らんが、やめとけ馬鹿なんだから」
    真後ろから声が聞こえた。この不躾な言い方と声には聞き覚えがある。振り向くと、入口扉に赤ずくめの素体が立っていた。戦場にいた時とは違い、制服を着て髪をきちんと整えている姿は一瞬誰か分からなかったが、顔の特徴からイチノセだと判断できた。
    「誰が馬鹿よ。人の独り言勝手に聞かないでくれる?ていうか何でアンタがここにいんのよ」
    「そんだけでけー声で言ってりゃ聞こえるだろ。俺は仕事で、ここのお偉いさんに用があった帰りだ。お前に用はない、ていうかウンコ担当だったんだなお前」
    言い返せば更に余計な一言を付け加えて返してくるのはやはりイチノセだ。ウンコ工場だとかウンコ処理係だとかいう蔑称は施設所属のメユリにとって最大に忌むべき侮辱であり、同時に自分の職場に対する不満を簡潔に言い表した言葉であった。メユリは眉間に皺を刻みながら声を低くして返した。
    「そういう言い方ないんじゃないの、自分の会社の一部で重要な機関なのよ」
    「そんな重要か?バグとウンコで永久機関回すだけだろ」
    「……用事は終わったんでしょ、帰ってよ」
    「言われなくても帰る。が、一応聞くけどその『厄介なこと』って会社には関係ないよな?場合によっては報告が要る」
    「あるわけないでしょ、とっとと帰って。ウンコ落とすわよ」
    無理矢理外に出そうとしてもイチノセの見た目に反して屈強な体にはいくら力を込めて押してもびくともしない。そうこうするうちに通路にもう一人が来た。
    「イチ、何してるの?」
    青髪に青い肌に黒い瞳。イチノセと一緒にいたギアの一人だ。イチノセと共に噂に聞いていた、ニカモトかサンジョウのどちらかなのだろう。
    「あ、この間の…」
    「あ、メユリさん、でしたっけ?この間はすみません。イチ、またなにか怒らせるようなことしたの?」
    「俺は質問しただけだぞニカモト。コイツが勝手にキレてるんだ」
    「もー、そういう態度がよくないんだって、あの時もサンジョウに怒られたでしょ?ごめんなさい、失礼なこと聞いたみたいで…」
    彼女がニカモトで、この場にいないもう一人のあの黄色いギアがサンジョウということらしい。二人ともいかにも穏やかで礼儀正しく、特にこのニカモトは優しそうなのに、よくこうも正反対な性格のサイボーグと付き合えるものだ。
    「いえ、こちらこそご心配おかけしました。大丈夫ですのでお気になさらず」
    この厄介な赤色のことはニカモトがどうにかしてくれそうだ。軽く挨拶だけして帰ってもらうのを期待した。がしかし、イチノセが再び蒸し返してきた。
    「コイツなんか隠してるみたいだぞ、厄介なことだって」
    「厄介なこと……?」
    ニカモトの声が少し低くなる。メユリは眉間を押さえた。本当に余計なことを言ってくれるものだこのレッドモンキー素体は。ニカモトも調整部門として見過ごせないと判断したのか、こちらを見る目が僅かに疑いの色を帯び始めてしまっている。どうやらイチノセは思っている以上にニカモトから信頼を置かれているようだ。
    「だからぁ、さっきも言ったけど会社に関係ないただの個人的な話なんだって。独り言で出ちゃっただけ。プライベートに噛み付くのやめてよね」
    「本当に仕事のことじゃないんだな?」
    「しつこいわね、アンタ」
    「ただの確認だ。俺だって忙しいし、しょうもないことに首を突っ込むつもりは無い」
    「もう十分に首突っ込んでるでしょ、何なのよ人の仕事馬鹿にしといて」
    イチノセを睨みあげながら声を荒らげると、
    「……あの、メユリさん……」
    静かに傍聴していたニカモトがそっと右手を挙げてきた。もうその青い顔に猜疑の色はなかった。
    「なにか悩み事があるなら相談乗りましょうか?お忙しいなら今じゃなくても全然いいので……」
    「へ?」
    思わぬ提案に目を丸くするメユリの外ハネの髪に、イチノセのため息がかかった。
    「ニカモト、お前も大概だな。今の感じだと本当に会社関係ないっぽいぞ」
    呆れたように腕を組み眉を寄せてくるりとメユリに背を向けた。どうやらイチノセは仕事に関わりがないと分かった瞬間に興味が失せたようである。メユリは散々つっかかってきたくせに無責任だと内心毒づきつつも、ニカモトの方に向き直った。
    「あの、どうしてそんなことを?」
    むしろ不可解なのはプライベートな話と分かった途端に積極的になったこちらの方である。それも先程とはちがうプラスの意味での興味である。ニカモトは明るく微笑んで返した。
    「私、たくさんの人と仲良くなるのが目標なんです。メユリさんとも仲良くなりたいので、困ってることがあったら手助けしてあげたいなと思って」
    「な、仲良く……?」
    「え、駄目ですか……」
    「ううん、駄目じゃないけど、急にだからびっくりして……」
    大人しくて生真面目そうな印象だった彼女の口からそんな言葉が出るとは思わず面食らってしまった。人と積極的に交流することはいい事だと思う。現にデカダンスを交流目的のツールとして使っているユーザーもいるし、メユリの友人にもそのタイプはいる。しかし目の前の相手にこうもストレートに「仲良くなりたい」と言うタイプはそういない。メモリの中を、ともだち百人できるかな、という少し前に聞いたタンカーの古い民謡が駆け回り始めたのですぐさましまいこむ。
    「ニカモトやめとけよそんなやつ。絶対友達としての相性最悪だ、うるせーし、脳回路のスペック低いし」
    「人を貶さないと稼働停止する型なのアンタは!」
    そっぽを向いたまま茶々を入れるイチノセに歯を剥くと、ニカモトが困り顔で返した。
    「いいじゃない、いい子だと思うよ?私は仲良くなりたいな。あ、メユリさんがいいなら、ですけど」
    「あたしはいいけど……もしかして、コイツ……イチノセと、あとサンジョウさんも友達?」
    「うーん、友達とは違うかも、サンジョウは上司だし、イチは、なんて言うか……ちょっと説明が難しいな、結構しょっちゅう一緒にいるし、仲はいいですよ」
    「そうなんだ……」
    一寸だけ悩んだが、すぐに返答することにした。
    「うん、いいよ、よろしく」
    「よかった!あ、メユリちゃん、て呼んでいい?」
    「うん、ニカモトちゃん、でいい?」
    「ちゃん付けは恥ずかしいな、ニカモトでいいよ」
    チームを組んでいるぐらいだからほか二人と仲がいいのは確かにそうなのだろう。イチノセとも顔を合わせることになる可能性はかなり高いが、ニカモト本人は好感が持てるのでメユリとしても純粋に仲良くしたかった。それに顔が広いようなのでクラナガのようなサイボーグとも交流があるかもしれない。何なら機会ができればクラナガの相談に一緒に乗ってもらえそうだという希望的観測もできる。未知の趣味や価値観の存在に頭を悩ませていたメユリに心強い味方ができて少しばかり安心した。
    「相談は……あるにはあるんだけど、また後でいいかな。今日はまだ仕事があるし」
    「ウンコ掘り返す仕事か」
    「あたしが掘るんじゃないわよ!」
    「イチ、やめなさい!分かった、じゃあ何かあったら通信で」
    「オッケー!」
    通信用番号も交換し、メユリは廊下の奥に消えていく赤と青に手を振った。
    「あ、ガドル工場に備品取りに行かないと」
    美人の友達ができたから紹介してやろうか、なんてクラナガに言ったらビビるかなぁ、とクスクス笑いを堪えながらメユリはエレベーターへと向かっていった。

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