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    shishiri

    @shishi04149290

    マリビ 果物SS

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    shishiri

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    果物ワンライ 一時間半。
    果物で上手いオチが見つけられなかったので、あの人に出てもらいました。下手したら、こっちの方が長いかも……?

    #果物
    fruit

    お題『ハロウィン』 19時過ぎの渋谷スクランブル交差点。平日だというのに黒山の人だかりは駅に向かわず、当てもなくぞろぞろと道を歩いている。しかもその出で立ちは、仕事帰りとはとても思えないほど色とりどり、バリエーションに富んでいる。ある者は人気アニメのキャラクターの姿を真似ていたり、ある者は今さっきお化け屋敷で幽霊役のバイトを終えたばかりです、と言わんばかりのオドロオドロシイ姿。格安免税店で買ってきた着ぐるみ風の衣装を着けただけでバカ騒ぎしている者たちもいれば、どこで手に入れたのか、ヒーロー映画のコスチュームと見まがうほどの本格的な衣装を身に着け、写真を撮られながら悦に入っている者もいる。
     その誰もかれもが、日常とはかけ離れた姿になることで浮かれ騒ぎ、中には歩きながら飲酒して奇声を上げたり、どう見ても合法ではないものをキメて、その足取りが定かでない者たちすらいるような有様だった。



    「相変わらず、うるせえ所だな。渋谷ってのは。てか、なんでコイツら、こんなヘンテコな格好をしてるんだ? 全員、サーカスの団員かよ? しかも酒くせえし!」
    「サーカスじゃない。ハロウィンってやつだろ?」
    「ハロウィン? なんだそりゃ」
     蜜柑が指差した店先の張り紙を見て、檸檬はますます顔を顰めた。
    「『ハロウィンの仮装をされている方は、入店をお断りさせていただいております』? コイツら、嫌われてるじゃん!」
    「過度な露出や飲酒、クスリをキメてるような奴は、どこだってお断りだろ」
    「なのになぜコイツら、こんな格好をして渋谷をぞろぞろ歩いているんだよ? なんか良いことでもあるのか?」
    「さてな。案外、仮装で一等を取ると、賞品にハワイ旅行でも貰えるのかもしれないぞ」
    「一等? 誰がいつどこで、審査するんだよ。この中に審査員でもまぎれているのか? もしかして、あのお巡りみたいな恰好をしてる奴らか?」
    「あれは本物のお巡りだろ。というか檸檬。お前の冗談、つまらなくなったな」
    「蜜柑、お前。俺の冗談が面白いと思っていたのか? それならそうと、早く言えよ!」
    「いや、別に面白いとは思っていなかったな」
    「なんだよそれ! 俺がいつも、お前の冗談はつまらないって言う、その仕返しのつもりかよ?」
     檸檬はべえっと舌を出し、思い切り蜜柑を睨みつける。往来で立ち止まり、たわいもない小競り合いをしている蜜柑と檸檬の様子を気にするような者は誰一人としていないようで、人込みは二人にぶつかることもなく、スルスルとその脇を通り過ぎて行く。
    「なあ、この中から見つけるのかよ?」
     うんざりとした表情で、檸檬はあたりを見回した。
    「見つけるというよりも、見つけてもらう。だろ? これだけいれば、ヒットする可能性は高い。案外早く終わるかもしれないぞ」


    「なにそれ! カッコよすぎ! お兄さんのそれ、特殊メイク?」
     白塗りにギラギラとした金と紫の妖怪じみたメイク。締め付けた贅肉が脇からあふれ出しそうになっているボンテージにニーハイの厚底編み上げブーツの女の背中には、黒くひらひらとした羽らしきものが付いており、針金のような尖った尾が、ボリュームのある尻で揺れている。(悪魔というより悪夢のような出で立ちだな)と、蜜柑は檸檬の横で独り言ちた。
    「うわっ! ホントだ、スゲー! やっぱそれ、プロに頼んでメイクしてもらったんですか? その血糊、マジもんにしか見えないですよ!」
    「だからまぁ君もさ、もっと気合入れて来た方が良かったって! なにそれ、だぶだぶでヨレヨレのスーツに緑の顔! ハルク?」
    「バカ! フランケンシュタインだよ。頭にボルトが刺さってるだろ!」
     檸檬に突然声をかけてきた大学生らしきカップルは、互いに指差しあいながら、なにが可笑しいのかゲラゲラと腹を抱えて陽気に笑った。
    「フランケンシュタインは怪物を創造した人物の名であって、正確には、その怪物の名ではない」
     そう、ぼそりと漏らした蜜柑の顔を、カップルの男女だけでなく檸檬も眉を顰めてまじまじと見やり、シラケた表情を浮かべる。
    「でもさ、ほんとお兄さんのその血どうなってるの? だってほら、今もタラタラ流れているみたいに見えるじゃん。ほんと、スゴっ!」
     女に顔を指差された檸檬は額にかかる前髪を掻き上げると、「まじこれ、うぜえんだよな。止める方法があるなら、俺が教えてもらいてえくらいだよ!」と、唇を尖らせている。
    「で、そっちのイケメンのお兄さんは、首を寝違えでもしたんですか?」
     滲み出る汗で、緑色のメイクが溶けかかっている男は背が低く、ふいに蜜柑の顔を見上げた。終始左手を首の後ろにあてがっている蜜柑の姿が、どうやら気になったらしい。
    「これか?」
     蜜柑はふいに左手を離した。その途端、まるで首の骨でも無くなったかのように、ぐらりと揺れたその長い首が、真後ろにがくんと折れたかと思うと、頭が左右にぶらぶらと揺れだした。突然そんなものを目の当たりにしたカップルは「ヒエッ!」「ひゃっ!」と素っ頓狂な声を上げながら、二歩ほど後じさり、今にもそこにへたり込みそうになってしまう。そして、先ほどまで二人に馴れ馴れしく話しかけていたときとは打って変わり、ひどく顔を強張らせた。
    「こうしていないと、どうにも首が煩わしくてな。迷惑なことだ」
     蜜柑はひょいと左手を首の後ろに添えると、何事もなかったような涼しげな表情でカップルを見下ろした。
    「すげえ! それって、あれですよね? マジック」
    「大道芸じゃないの? ほら、首がガクンて下に落ちちゃうやつ! ねえ、それってどんなトリックを使っているんですか?」
     どうやら二人は、不可解な出来事を自分たちに都合よく解釈したようで、再び馴れ馴れしい態度を取り戻しては蜜柑に詰め寄ってくる。そんなコロコロとよく変わる様子に辟易した蜜柑と檸檬は、互いに顔を見合わせては、溜息と苦笑いの混じった息を軽く吐き出した。
    「な、ところでさ。あんたら、俺たちが見えているんだよな?」
     檸檬の問いに、カップルはきょとんとするばかりだ。
    「当然だろ。そうでなきゃ、俺たちに話しかけてくるわけがない」
     口の端を持ち上げた蜜柑の後ろから、大声ではしゃいでいる男ばかりの五人の集団が近づいてきた。一人はしゃべるのに夢中になっており、おまけに後ろ向きで歩いているので、道を塞ぐようにして立ち止まっている蜜柑の姿には気付いていないようだった。その肩先が、蜜柑の背中にぶつかりそうになった瞬間、すっとそこを通り抜けて、男は蜜柑の正面に立っていたカップルの男の方とまともに衝突した。
    「痛て!」「なんでこんな所に突っ立ってるんだよ! 邪魔なんだよ!」
     俄かに往来が騒がしくなり、一触即発のムードが立ち込める。それまで我関せず歩いていた人波も、騒ぎを聞きつけ立ち止まり、あっという間に人だかりができ始めた。
    「なんだよ、面倒なことになってきたな」
    「ああ、さっさと終わらせよう」
     檸檬と蜜柑は、カップルの男女に詰め寄る五人組をすり抜けると、顔面を蒼白にさせている二人の震えているその肩に「じゃあな」と、いつものように軽い調子で手を置いた。


     久々の渋谷スクランブル交差点。相変わらずというか、今日は特に、人通りが多い。この雑踏から立ちのぼるひといきれに、煩わしさとほんの僅かな懐かしさを感じる。
     指先の感覚に鈍さを感じ始めたのを機に、この仕事から足が遠のいたのは歳を取ったせいであり。止む無き事情にほだされて、今回限りとこの仕事を請け負ってしまったのもまた、歳のせいであるのかもしれない。
     目を凝らし、蠢く雑踏の中に、ターゲットを探す。視力が衰え、眼鏡をかけるようになったのは三年前だ。
     そのとき突然、人通りの動きが止まり、間もなく悲鳴が上がった。女の声。続いて「俺たちじゃねえよ!」と騒ぐ男の怒声が響き、騒ぎに目を向ける。ターゲットがそこにいる可能性があるからだ。
    「ねえ! 救急車呼んだ方がよくない?」「やばいよ、死んでるんじゃない?だって、白目剥いてる……」「じゃあ、警察?」「だから、俺たちじゃねえって! こいつらが勝手に、ぶっ倒れたんだよ! なあ?」「やべえよ、さっさとバックレた方がいいんじゃねえの?」
     見ると、遠巻きに見ている人だかりの真ん中に、仮装をした若い男女が倒れていた。その様子からも、十中八九死んでいるだろう。これじゃないと確認し、人だかりに背を向け歩き出した。 

     東と西。どちらに向かうべきか、人波に押し流されぬよう足を踏ん張り、左右を見渡した。数年ぶりの仕事のせいか、やはり勘も鈍っているようで、これまで感じたことのない焦りが背中をそわりと撫ぜていく。口を窄め、努めて息をゆるく吐き出す。置き忘れてきたその場所から、もう一度あの頃の勘をそっと持ちあげる、そんなイメージを頭に描いたときだった。
     女、三十代後半、身長160ほど。グレイアッシュにゆるく巻いたロングヘア―。アイボリーのツイードスーツに、ピンクのアリゲーターバーキン。ターゲットだ。
     駅から離れるように人込みの中を歩いて行く、女の背中をゆっくりと追う。途中、背の高い男二人とすれ違った。何気なくその顔を確認する。どこか見覚えのある男たちだったが、今は関係がないので、その記憶を追いやる。不自然に首に手を当てていた長い黒髪の男の方が、背後で立ち止まり、振り返る気配を見せた。しかし、こちらを追ってくる様子はない。それにしても、もう一人の男の額。あれはハロウィンの仮装のつもりか、それとも……。ふいにおかしくなってきて、思わず苦笑いを浮かべる。
     もしかしたら――。彼らが見えたということは、そういうことなのかもしれない。だが今夜、死体になるのは往来で倒れていたあの男女と目の前を歩くバーキンの女であって、俺ではない。  
     渋谷の、酷く淀んだ鬱陶しい空気に不釣り合いなミスディオールが、女の背中で髪が揺れるたびに甘く香る。お抱え運転手付きのベンツの後部座席にでも座っていそうな出で立ちで、女は一人、夜の渋谷を歩いている。人を騙して得た金で、分不相応に着飾るこの女は、おそらく歩行者天国から離れた場所でタクシーを拾うつもりなのだろう。ただ、この先の道は交差点から300メートル以上離れていて、通行止めで駅前に入れないタクシーは、もっと南寄りの場所で客待ちをしているはずだ。だから女が向かうその道では、すでに客を乗せたタクシーが時速60キロほど、あるいはお祭り騒ぎにイラついているような運転手であれば、80キロ超で走行しているだろう。おあつらえ向きだ。
     先ほど見た男女の死体は騒ぎになるだろうから、ここにもう一体、事故死の女が転がったところで、さほど話題にはなるまい……。
     相変わらず、渋谷は騒がしい街だ。

    (終わり)





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