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    れん月さくら

    @RengetuSakura
    !成人済 ♡GLNLBL♡ !腐 男女問わず主人公受固定派 love:HQ!宮日侑日治日 オバロ骨愛され 吸死ドラ受固定 現代版英国探偵/S BC右 BCキャラ右 セカフェリ JOJOジョナ受け SS銀受け 気分屋

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    れん月さくら

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    ドラゴン宮兄弟×日向

    #侑日
    urgeDay
    #治日
    rulingDay
    #宮日
    #宮兄弟×日向

    巡り重なり続く噺 たとえどんな世界に流れ着いても、この眼は君を見つけ、この耳は君を聞きつけ、この鼻は君を嗅ぎつけ、この手は君を掴み、この口は君を味わうだろう。



     微かな物音に、その生き物は何時間かぶりに身動ぎする。無視しても良かったその音に意識と視線を向けたのは、そこに人間の悲鳴が混ざっていたからだ。
     その声が、妙に気になったのだ。
    「──あれ」
     あまりにも端的な言葉。ともにぼんやりと時間の経過を感じていただけだった片割れは、下から上へ瞼を閉ざすだけの緩慢なリアクションのみで動かない。
    「なぁ、人間って空飛べたっけ」
    「魔法使いはな」
    「それ以外は?」
    「飛べへんやろ」
     ほんなら、あの人間落ちてしまうやん──と考えながら巨体を僅かに動かしたその生き物は縦に長い瞳孔で人間の姿を捉える。
     遥か彼方、深い亀裂の上方でその断崖絶壁にしがみつく人間の姿は、人外だからこそ見つけられたものだ。同じ人間ならば、とてつもなく視力の良い者でも点としてその姿を認識できるかどうかだろう。
    「日向! 今助けるからな!」
    「このバカ! おい、気合出せよ! ロープにしがみつけ!」
     断崖絶壁の上からは切迫した声が複数聞こえてくる。揺れるロープのずっと下側にいる、今にも落下しそうな明るいオレンジ髪の彼が慕われていることは、人外にもよく伝わった。
    「……日向」
     聞こえてきた名前をその生き物が口にすると、先ほどまでろくに反応しなかったのが嘘のように隣の片割れがするりと上体を起こした。
     それに反応しようとした瞬間、嫌な音がその場に響いた。人間達の悲鳴も、ほぼ同時に起こる。
    「日向!!」
     やはり人間の重さに耐えきれず、岩壁がまるで鱗のように剥がれ落ちたのだ。乾いた大地にできた亀裂のような深い穴の岩璧は、通称で鱗岩と名前がつくほど剥離しやすい。だからこそ人間を下から眺める生き物達はそこにいたのだ。
     ひとまずは飛べる生き物しか訪れることのできない、静かなその空間に。
    「……あの人間、助けへん?」
    「……おん」
     翼をはためかせる音が二重に響く。真っ暗で洞穴のような空間に、まるで巨大な生き物が唸り声を上げているかのような音が轟いた。
    「どあぁあっ!!」
     なんだか間抜けな悲鳴が聞こえてきて、何百年かぶりに彼らは笑った。それどころではない事態だが、その声につい笑わされたのだ。
     軽やかに飛翔する生き物は、あっという間に人間の真下へ到着する。そしてその背に鈍い衝撃を感じると同時に、間抜けな声がまた真っ青な空の下で木霊した。
     人間の強度がどの程度かは分かりかねたため少し不安そうにしていた二匹だが、また背中から聞こえてきた素っ頓狂な声にひとまず安堵の息を吐きだした。とりあえずは生きている様子だ。
     しかし、また沈黙が流れドラゴン達は不思議そうに顔を見合わせる。首を傾げるその二匹を凝視する人間は、長い間の末に絶叫した。
    「………………ド、ドド、ドドドドラゴンだー!?!!?」
     ドが多いわ、なんてツッコミを二匹の龍がしてみても大混乱の人間達のパニックの波はなかなかひくことがなかった。

     亀裂の下、深い闇の中から現れた飛行する巨大な生き物に対して、満身創痍の人間達は当然警戒していた。だがしかし仲間を助けてくれたという事実を目にしては攻撃するわけにはいかず、全員困惑したままその場から動けずにいた。
     金色のドラゴンがその背で受け止めた日向を落とさぬようにゆっくりと着地し、降りやすいように地面に胴体をなるべくくっつける姿を冒険者達は唖然としながら見つめる。
    「あ……ありがとう、ございます」
     まだ戸惑いながらもドラゴンの背中から地面に飛び降りた人間は、ぺこりと頭を下げ礼を口にした。その真ん丸な琥珀色した瞳は、動揺しつつも無垢な好奇心をドラゴンへと向け続けていた。
    「ええよ、大したことしてへんもん」
    「な、訛ってるドラゴン……!」
    「こんのバカっ!!」
     馬鹿正直な感想を述べたオレンジ髪に対して、坊主頭の男が素早く横にやって来てその頭を引っ叩き下げさせる。他のドラゴンで性格のひん曲がっているタイプであれば「不愉快だ」とか何とか言って叩き潰されかねない発言のため、その指導はとても正しかった。
    「別にええよ。ほんまのことやし、生まれは西の商売繁盛が第一のあの国やねん」
    「あっちで言語習得して、人間とも長いこと暮らしてたさかい抜けへんのや」
     とてもフランクに話しかけてくる金と銀のドラゴンに対し、無垢な瞳で興味関心を向けてくるのは二人だけだ。他はさすがに“様々なドラゴンの話”を聞いたことのある者達らしく怯えと警戒を露骨に滲ませていた。
    「それにしても君ら、えらいボロボロやんなぁ」
     剣士、武闘家、魔術師、弓使い、聖職者のパーティーは、前衛職であるか否か関係なしに皆が皆満身創痍といった風体だ。緊張の糸が解ければ倒れてしまってもおかしくないと思わせるほどだ。
     破けた背負い鞄とそこから飛び出て散乱してしまった荷物も相まって、ボロボロという擬音がよく似合う有様である。
     ふと先ほど絶壁にしがみついていたオレンジ髪の彼が握りしめる羊皮紙が目に留まり、なんだとドラゴンは落胆する。そこにはこの先で僅かに採取できる、薬の材料ともなる貴重な花の絵が描かれていた。
    「あんなぁ、レベルが見合わんところの仕事は受けん方がええで。欲をかいても痛い目に遭うだけや」
    「んなっ?! オレ達はそんなんじゃねーよ!」
    「ねぇちょっとそこのおバカ、相手がドラゴンなの分かってんの?」
     間髪入れず噛みついてきたオレンジ髪の背後から、弓を背負う短髪の青年が呆れた様子で溜息とともに言葉を挟む。
    「誰がバカだ、月島ァ!」
    「君だよ、猪突猛進単純おバカ」
    「ツ、ツッキー、今はそれどころじゃないし落ち着いて!」
     慌てながらも慣れた様子でなだめるそばかすの男の子に、弓使いもオレンジ髪の彼も渋々とだが、すぐに喧嘩をやめた。どうやらいつものことらしいと、周りの様子からもドラゴン達は察することができた。
    「ほんで、何が違うんや? おチビさん」
    「誰がチビだ!」
    「日向! ドラゴン相手にいつもの調子で話すのやめて!!」
    「やっぱりバカじゃん……」
     聖職者の杖を半泣きでそばかすの男の子が握りしめ、頭が痛いと弓使いの青年が項垂れる。
     その様子を眺め、なんだか面白い人間達だと、金のドラゴンは好奇心を擽られていた。
    「……日向」
     黙っていた銀色のドラゴンが発した不意の言葉に、場が一瞬で静まり返る。
    「君の名前?」
    「えっ、うん、そうだけど。オレの名前、日向翔陽」
     唐突に尋ねられ戸惑いながらもオレンジ髪の少年──日向翔陽が答える。
     その名前を、ドラゴン達は噛み締めるように口にした。
    「日向翔陽」
    「ええ名前や……覚えとくわ」
     二匹のドラゴンの言葉に、弓使いの男だけ眉間のしわを深くする。聡く敏感な人の子のようだと、ドラゴン達はその刺すような視線を感じながら値踏みしていた。
    「あ! つーか、オレ達マジで急いでんだよ! なっ、皆!」
    「この有様で先に進むのは現実的じゃないでしょ」
     バッサリと否定され、それでも日向が食い下がろうとする前にまた反対意見があがる。
    「さすがに今日は一旦休んだ方がいいと思うぜ、日向」
    「えっ……田中センパイまで?!」
    「バカ、死んだら元も子もないだろ」
     振り返り賛同を求めた仲間達にストップをかけられ、しかし冷静に考えれば確かに全て正論で返す言葉もなく日向はがっくりと肩を落とす。
     そして、ドラゴン達は結局のところ置いてきぼりで、冒険者達の間で会話が進んでいった。そうしてひとまずの問題となる食料と水について彼らが口にしたところで、今度は銀色のドラゴンが話に割り込んできた。
    「水と食料なら、俺らが与えられるで」
    「え、マジで?!」
    「おい日向ボケっ、簡単に喰いつくな」
     すぐさまドラゴンの提案に飛びつこうとした弾んだ声を、罵倒の言葉が早々にかき消す。あまり口を開くこともなく無愛想な顔して巨体を睨みつけるばかりだった黒髪の男が、日向の肩を鷲掴みにして止めていた。
    「なんだよ、影山」
    「話がうますぎんだろ」
     睨む黒髪の彼は、魔術師でもあり戦士でもあるようだと近づいてきた彼を見下ろしドラゴンは素直に驚く。双剣のように杖と剣を腰に下げており、そのどちらもいつでも抜ける臨戦態勢をずっと続けている。
    「魔法剣士かぁ。すごいなぁ、適正者が少ないうえ本人にもかなりの努力と才能が求められるから、長く生きてる俺らでも滅多に見たことないわ。えーと、カゲヤマくんやったか?」
    「……影山飛雄」
    「飛雄くんか、君も覚えとくわ」
     そう言い終えると、金色の鱗を煌めかせながらドラゴンは少し呆れたように人間達を見渡す。
    「別に、なんも求めへんよ。そもそも君らが手に入れられんもんも、俺らなら手に入るし。ただの気まぐれや」
    「そもそも人間も、打算だけやないやろ」
     銀色のドラゴンがさらに続けた言葉に、人間達はもう反論の余地などない。後はその善意を素直に受け取り感謝し、助けてもらうだけである。
    「とりあえず、飯やな」
     銀色のドラゴンがすっと首を天へ伸ばしぱかりと口を開ける。何をしているのか人間が尋ねる隙もなく、次の瞬間光の球が豪速で打ち上げられた。
    「は?!」
     誰のものかも分からない素っ頓狂な悲鳴が複数重なり、そしてドラゴンと人間達の間にあった隙間に物凄い勢いで何かが叩きつけられる。一気に舞い上がった濃い砂煙に人間は涙を浮かべ、激しく咳き込むばかりだ。
     そうして砂煙が落ち着いて現れた光景に、誰もが目を真ん丸くして驚嘆する。
    「あ! さっきオレ達を襲った巨大鳥!」
    「まさか姿消してずっと上空にいやがったのか?!」
    「ていうか今の何?! ねえ今の何!?」
    「アハハ……もう笑うしかないね」
    「この鶏肉なら確か人間も食えるやろ」
    「うっす。嘴に毒があるからそこだけ気をつければ……」
    「影山はもうちょいリアクションしろ!」
    「? すんません……?」
    「次は水やな」
     先ほど自分達を襲い、散々苦しめてくれた不可視化の超常能力を持つモンスターがあっさりと倒された事実に驚き慌てふためく冒険者達をよそに金色のドラゴンがのんびりと動き出す。
     そして、いとも簡単に火球で地面を穿ち巨大な穴を作り出すと、さらにそこに超上級魔法である水槍攻撃を行うことで強制的にオアシスを作り出してしまった。なお、その間にぽかんとしていた人間達は魔法の影響で一時的に呼び寄せられた雷雨の影響をうけ、びしょ濡れである。
    「な、何もかも規格外すぎる……」
     腰が抜けた山口が力なく呟き、へなへなと地面にへたり込む。彼にとって今見た魔法は本でしか目にしたことのないものであり、王都にいるハイレベルな魔術師達であれば使えるかどうかという代物であった。
     田中もさすがに冷や汗をかき、月島も自身の勝てない相手と完全に悟ってしまい眉間のしわを深くする。そして、さすがの日向と影山も言葉を失っていた。
    「さてと、ほんなら翔陽くん」
    「え、オレ?!」
    「君の話、君の声で、聞かせてや」
     縦に長い瞳孔の紅色をした複数の瞳が、じっと日向を見つめる。ぎくりとするも、しかし視線を反らせないまま、改めてその生き物の凄さを日向は痛感する。
     格が違うという言葉の意味を、日向は初めて肌で感じていた。しかし。なぜか恐ろしさはなく、彼らの傍らにいることに違和感もなかった。
     迷いも戸惑いもなく日向は、地面に座り人の話を聞く体勢になった様子の彼らの前に一歩近づき、そして、その口を開いた。

     冒険者と冒険者ギルド。
     その仕組みは、古くからあまり変わらない。大きな街に一つ、もしくはいくつかの小さな村々の集合ギルドが存在し、その冒険者ギルドに所属するのが冒険者だ。
     冒険者とは、かつては未開の地を開く者達という意味で名付けられた名だ。
     とはいえ、未開の地も残り少なくなった今は冒険者達の主な仕事は開拓とは全く違うものが主になった。
     受け継いできたモンスターの対処方法やサバイバル知識、薬草類の知識をもとに、町や村からの討伐依頼や薬草採取依頼、行商人や貴族の護衛依頼を受注して生計を立てる者達が殆どだ。あとは冒険者として名を挙げた後に、剣術や魔術の師範となる者達もいる。
     そんな様々な冒険者達がいるが、しかしその多くが昔から同じルーティンの元で暮らしている。
     生活基盤としている街か村で所属するギルドから依頼を受け、足を伸ばし、そしてホームグラウンドに帰って報酬を受け取り暫し休息してからまた働きに出るのだ。
    「本当に昔から変わってねーんだ!」
     いつの間にか馴染みの食堂で気心の知れた者と話すかのように、日向は心の底から湧き出る興奮のまま言葉を口にしていた。その視線の先にいる二匹のドラゴンも、鱗に覆われた顔だが心なしか楽しそうであった。
    「おん、俺らが何百年か前に知ったやり方から変わってないで」
    「ほんで、君らは護衛依頼から戻って来てまだ身体を休めてるはずやったのに、なんでこないな所におるん?」
     尋ね返され、日向はまた口を開く。平べったい岩の上に腰かけた彼の視線の先には巨大な瞳がじっと人間を見据えていて、そしてその口が開くとまるで洞穴のような大穴が現れ生ぬるい息が微かにかかってくる。
     最初は大きな口がすぐ側で開くことにギクリとしていたが、今はもう慣れて常の調子で日向は語っていた。
    「オレ達が街を離れてる間に、北から救援依頼がきたんだよ。豪雨被害で町や村もめちゃくちゃになって、モンスターも縄張り追い出された奴らが暴れまくって酷い有様だって」
    「あらら、可哀想に。なるほどなぁ」
    「そういう事情やったか」
    「……ん? まだ話の途中だけど?」
     話が終わったかのように言われ、疑問符を頭上に浮かべ首をかしげる日向の背後を金色のドラゴンが指差す。
    「もう大体分かったわ。北の救援のため冒険者と兵士と物資が大移動してもうて、庶民に高級治癒薬が出回らんくなってもうたから、君らろくに休みもせんと街飛び出してきたんやろ」
    「え?!」
     まさに大正解。これから日向が口にしようとしていた説明であった。日向の背後にいる仲間達からもどよどよと、困惑の声があがっていた。
    「な、なんで分かったんだ……?」
     今、日向達がホームグラウンドとしている街は、北へ救援に行かず残った最低限の兵士と有志の冒険者達で治安維持や防衛を担っている。そうなれば当然、治療薬は戦う者達に優先配給となり、病気や怪我で庶民も使う低級治療薬すら今は店に出せる数が少なく高額になってしまっているのだ。
    仕方のないことだと分かっていても、せめて自分達にできることはないかと焦燥感に駆られ日向は仲間達と共に街を飛び出してきたのだ。
    「ほんまに優しいなぁ君ら、ここら辺のこと全く知らんし薬草も専門外なのに、疲れた体でこんなとこまで来て」
    「えっ……」
     またもや大正解。
     この辺り一帯は狭い範囲に様々な環境があり薬草採取にはとても向いているため、薬草採取を目的とした冒険者達が材料をよく取りにやって来ている。
     しかし日向達のチームはどちらかと言えば討伐依頼や護衛依頼、魔獣の毛皮や牙を狩って生活していた。植物については旅の時に必要になる最低限の知識はあるが、それ専門で働いている冒険者達に比べたら赤子のような知識であろうことは自覚していた。
     そのため、互いの仕事の邪魔になりかねないこの辺り一帯に、わざわざ足を伸ばすことはなかったのだ。
    「も、もしかして……! 心が読めるのか?!」
     キラキラとした瞳でドラゴンに尊敬の眼差しを向ける日向に、ふはっと吹き出したドラゴンが大きな声で笑う。その巨体から出た音は、ビリビリと日向と仲間達の体を震わせた。
    「そんなわけあらへんやん! 読心術はかなりレアな固有スキルやで」
     黄金色したドラゴンが、山口が手縫いする大穴が空き今まさに繕われている背負い鞄を続いて指差す。
     巨大な爪が唐突に向けられたことによって、山口の肩が大きく跳ねた。
    「状況証拠ってやつやな。さっき翔陽くんが握りしめてた花の絵、あの鞄をあの鳥に破られてもうた時に落ちてもうたんやろ? ほんで、大慌てで引っ掴んで崖から落ちかけた」
    「う、うん、そうだけど……それで何が分かるんだ?」
    「君らがもともと植物に明るくないことやな。植物の採取を専門にしとる冒険者なら絵なんか見ぃひんでも採取できるわ」
     言われてみればど正論である。日向が思い出す先輩冒険者も、薬草について教えてくれた時には、わざわざ本や絵を見ることもなく指差してスラスラと草花の名前や効能、使用用途を諳んじていた。
    「それに、この土地に詳しいならここら一帯は避けて回り道するで」
     あまり口を開かなかった銀色のドラゴンの言葉に、日向はしかし首を傾げる。
    「え、なんで? こっちのが近道じゃん。なぁ山口! 地図貸して!」
     立ち上がり、ぴょんと跳ねて地図を荷物の山から引っ張り出した日向は、Uターンしまたドラゴン達の前に腰掛けると地図を広げ指差した。
    「町がここで、薬草がよく取れるって噂なのがここら辺だから……ほら! 真っ直ぐ突っ切った方が近いじゃん!」
    「問題なんは距離やないよ。そこの眼鏡くんなら、ちょっとは考えたんやない?」
     急に話題を振られた月島が、露骨に鬱陶しそうな表情を浮かべた。田中の鳥肉解体作業を手伝い、さらには食べるため小さく切って串に刺す作業を黙々と熟していた彼は、一つ溜息を吐くと、眉間のしわをさらに深くしながらドラゴン達に歩み寄る。
    「……この、草原と森の中にある突然の不毛地帯」
     地図に記された、日向達がいる場所を月島が指し示す。
    「この土地が不毛地帯なんは、昔、呪いの大剣が振り下ろされたせいらしいで」
    「え! あの伝説ってホントなのか?!」
    「おん、大マジや」
    「すっげー!!」
    「ちょっと……話の邪魔しないで」
     べちょりと血ですっかり汚れた手を、はしゃぐ日向の顔面に押し付けた月島は「なにすんだ!」と怒られるも無視して、また話を続ける。
    「周囲の森とかから縄張り争いで負けて追い出された気が立っている魔獣がいる可能性と、見晴らしのいい場所で狩りをする飛行魔獣の存在は……考えた」
    「正解や。せやからいっそのこと回り道した方が時間かかっても安全やったかもな」
     一人と一匹から説明を聞き「なるほど」と納得した日向だったが、しかしそうなると新しい疑問が浮かび、再び首を傾げてしまう。
    「あれ? お前、話し合いの時そんなこと言ってなかったじゃん! なんで言ってくれなかったんだよ、月島!」
    「それは……」
     言い渋る月島と不思議そうに問い詰める日向を愉快そうに見ていたドラゴンは、楽しげな口調で謎解きを続ける。
    「自分達の実力なら直進しても問題ないって判断したんやろ? 今も薬なくて困っとるやつがおんなら、早い方がええのは当然やもんな」
     ますます月島の眉間が深くなる横で、暫しぽかんとしていた日向がニヤァと笑い瞳を輝かせる。
    「なんっだよ、月島〜! お前オレのこと何かとバカ扱いするけど、オレの実力は、認めてたんだな!」
    「ちょっと……本当にやめて。違うから、総合的な判断であって君の力を認めたわけじゃないから」
    「照れんなって!」
    「人の話を聞けバカ」
     うんざりだと言わんばかりにまた汚れた手で日向の顔面を鷲掴み押し退け、作業に戻ろうとしていた月島が足を止める。
     微かな身動ぎだけで周囲の小さい生命体の注視を受け、その身の大きな影を地に落とす銀色のドラゴンが一歩前に出て日向の正面にその顔を近づけていた。
     先ほど話し合っていた時よりずっと近い距離に、日向もさすがに驚き戸惑ってしまう。後もう少し、ドラゴンの口元が僅かな動作をしただけで簡単に日向は食われてしまう距離だ。本能的な恐怖が、警戒と怯えを誘発する。
    「な、なんだよ、突然……」
     日向はドラゴンに対して言葉を続けようとして続けられず、視界が一瞬真っ暗になり、生温い温度と湿り気を顔に感じたことだけ理解し呆然とする。
    「へ……」
    「顔、汚れとった」
    「あ……うん、ソウデスネ……」
     ぺろりと長い舌で口の端を舐める銀色のドラゴンを呆然としたまま見上げるだけの日向の近くで、心底面倒そうにしていた月島が大きな溜息を吐き出した。そして、その顔を歪ませたまま月島は、顔を涎で濡らす日向の腕を鷲掴み引きずって行く。
    「ほら、話はもう充分したでしょ。君もサボってないで、ご飯の支度ぐらい手伝ってよね」
    「お……おう……」
     引き止められることもなく、日向は月島とともに串焼きにされる前の大きな肉の前に着く。とはいえ、ドラゴン達からそこまで距離が離れたわけでもないのだが、しかしそれでも仲間達の近くに腰かけた日向はほっと一息つくことができた。
     そうして月島から渡された串に鶏肉を刺す作業を進め、五本目を作ったところで日向はぼそりとつぶやいた。
    「え……オレ、味見された……?」
     そんな日向の呟きに、月島も一本完成させてからぽつりと呟く。
    「不味いと思われてたらいいね」
    「やなこと言うなよ、月島くん……ッ! つーか……ドラゴンって人食うの?」
     声を潜めながら今さらなことを危惧する日向に対して、隠すこともなく月島は呆れ果てたと視線を送る。「何も知らないのにあんな態度だったの? 馬鹿なの?」と雄弁に見下してくる冷めた瞳に、しかし日向は悔しさに唸るしかない。本を読んで知識をつけるのはどうにも苦手分野で避けてきたため、吟遊詩人の謳う物語ぐらいしか知らないのだ。
    「と言っても、ドラゴンに詳しい人間なんていないんだけどね」
     串に刺した肉を火で炙るため固定し調整する月島は「まぁ、それも事実なのかは分からないけど」と前置きをさらに一つして言葉を続ける。
    「ドラゴンには色んな伝承がありすぎるんだよ。しかも、その中に人間が作った嘘とか捏造とか、間違って伝聞されたことも混ざっているだろうから、事実なんて誰にも分からないよ」
    「えっと、つまり……?」
    「ドラゴンが人間を食べてしまう話も人を助けた話も、国を滅ぼした話も、村を守った話も、全部あるってこと」
     パチリ、火の粉が爆ぜる。鳥の肉がじゅうじゅうと焦げ、良い匂いが漂い始めた。隣の日向の顔色は見ずに、肉の焼き加減を月島は見ていた。
    「……まあ、君には友好的みたいだしそんなに心配し」
    「なーんだ! じゃあ大丈夫じゃん!」
     先ほどまで食べられてしまうのかと懸念していた日向の底抜けに明るい声に、思わず月島は「はぁ?」と喧嘩を売るように返してしまった。そんな月島の態度に、日向はムカつくより先に心底不思議そうにきょとんとしている。
     その真っ直ぐな瞳は、相手のことをしっかりと見ていた。
    「だって、要はそれって、良いドラゴンと悪いドラゴンがいるってことだろ? あいつらはオレのこと助けてくれた良いドラゴンなんだから安心じゃん!」
     ニッカリといつもの笑顔で歯を見せる日向に、月島は呆けてしまう。「さっきのは親切だったんだな!」なんて本気で言っている、先ほど会ったばかりのその気になれば自分達を瞬殺できる巨大な魔獣を信じてしまっている仲間を、信じられない想いで月島は見ていた。
    「君って本当に……」
    「ん?」
    「……底抜けのバカだね」
    「はあ?! なんでオレ今バカにされたんだ?!」
     納得いかないと怒る日向を、破けた背負い鞄を繕い終えた山口がなだめる。そんな彼らに「また喧嘩かー?」とのんびりした声がかかった。解体道具を綺麗にし片付け終えた田中が、干し肉を作るための作業も終えて戻ってきたのだ。
    「おい、肉焼けてんのか?」
     続けて増えた声の第一声には、皆が皆気が抜けてしまう。周囲の見回りから帰ってきた影山は、焼けた肉の方へ向ける関心の方が強い様子だ。
     しかし続けて田中の腹が盛大に鳴り、思わず吹き出してしまった日向の腹も盛大に鳴り響くと、耐えきれずに全員吹き出してしまう。
     あまり大きく笑う方ではない影山や月島も、珍しく肩を震わせていた。
    「とにかく! 全員腹ぺこってことだ! もう食っていいだろ、月島!」
    「生の場合かなりの毒性がありますよ、田中先輩」
    「よし、もうちょい丁寧に焼こうか!」
    「うめぇなコレ」
    「人の話を聞け影山ァ!!」
     勝手に食べ始めた影山に「ズリぃ!」と叫んだ日向も肉へと手を伸ばす。相変わらずな二人組を笑う田中の横では、無視を決めた月島が自分と幼馴染の分だけ丁寧に焼いていた。
    「あー……もう、お腹痛くしたらどうせ回復魔法使えって言ってくるんだから、お肉が焼けるぐらい待ってよぉ……」
     そんな彼らの横では杖を握りしめた山口が、仲間が腹痛で倒れてしまっても回復できるように渋々備えている。
     思い思いに過ごし互いに文句を言う冒険者達だが、その口元は笑っており言葉には出さなくともまた全員で食事ができることに安堵している雰囲気なのは傍から見ても明らかであった。
    「おい日向ボケ! 肉取りすぎだ!」
    「はぁ?! お前もだろ!」
    「いやお前らどっちもだよ!」
    「はぁ……まったく、意地汚いね」
    「あ、ツッキー、そのお肉そろそろいい感じじゃない?」
     そうして賑やかに食事を囲み始めた人間達を、ドラゴンは穏やかな眼差しで見つめる。
     やっと見つけた宝物を、そっと守るように。



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