同じ目線 ヴィータ体になって、一番最初に見たのはベルの顔だった。
「……ちゃんとヴィータ体をとれたみたいだね、気分はどう?」
「……正直、違和感で一杯だななんだか落ち着かないし、物足りない感じがする」
「そうだね、うん、わかるよ。でも、こうしてフォトンの使用を抑えることが、今後に繋がっていくんだよ」
「わかってるさ」
わかってはいても、慣れないものは慣れない。俺は落ち着かなくて身体のあちこちを触ってみたり、その辺に目を巡らせていた。そしたら、ベルと初めて『目』が合った。
「同じ高さにお前の目があるって言うのは、なんか変だな」
「そうだね、不思議な感じがするね。サタンと目線が近いのは」
そう言って笑う顔を見て、俺はもっと落ち着かなくなった。知っている笑い方、馴染んだ気配、なのにその容貌や声が、形作られる感情の輪郭が未知だった。見慣れないものを見て嫌悪感を覚えたりするのとは違う、何か未到達の場所に足を踏み入れたような、そんな感覚を覚えた。
「そんな風な顔をするんだな」
「変かな」
「ああ、物凄く落ち着かない」
「君だって笑ってるのに」
「俺が?」
ベルはそう言って手を伸ばして、俺の目線の下のどこかに触れた。
「ここが唇だよ、そしてその端が今つり上がってる。サタンは今、笑ってるんだ」
「おい、突っつくのはいいが引っ張るな……こら、へる、ちゃんとしゃへれないだろ」
俺の口の端を引っ張って、ベルが悪戯をする。思う通りに言葉を出せない俺を見て、ベルは笑った。
「はは、サタン、変な顔してる」
「……お前がそうさせたんだろ」
やられっぱなしも癪だ。俺もベルの『顔』に手を伸ばし、口の端に指を引っ掛け、横に引っ張った。
「ひたいよ、サタン」
「お返しだ」
楽しそうに笑うベルを見て、俺はヴィータ体を悪くないと思った。