Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ダァリヤ

    @uneasy4141
    五夏SSをたまに再掲しています。
    リアクションとっても嬉しいです!ありがとうございます!!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    ダァリヤ

    ☆quiet follow

    映画までに終わりませんでしたの冒頭です。

     伝えておけばよかった。
     ザアザアと潮の音がする。もうとっくに海に入るような季節ではない。分かっていたが、裸足で砂の上に立っていた。寄せては引く波がくるぶしまで濡らして、その冷たさに足の指がじんじんと痺れる。
     眼前に広がる水は黒い。夜の海は酷く暗くて、友人の長い髪を思わせる。自分にはない濡羽色の髪が、とても、とても好きだったことを思い出す。
     感傷に浸って海を求めるような青臭さなんて、十年も前に捨てたはずだった。それでも、来ずにはいられなかった。
     好きだと伝えておけばよかった。
     波が銀色にうねる。遮るものが何もない遠い水平線に、小さな光の点が見えた。漁船だろうか。どこかの岬の灯台かもしれない。どれくらい離れているのか分からない。頼りない光の粒は、時折瞬いた。
     いつか、同じような夜の海に立った時、隣には友人がいた。任務は終わりがけで、話したいことなど山ほどあったのにどちらも口を開かなかった。相手が隣にいる、それだけで充分だった。
     妙に静かで、満ち足りていた。満ち足りている、と感じる自分に何故だか高揚して、今すぐ叫び出してこの空気を壊してしまいたい気持ちにも、ずっとずっと大切に仕舞い込んで静寂が続いてほしい気持ちにもなった。友人——傑も、同じ気持ちだと分かった。
     あの時、顔を上げたら傑と目が合った。好きだ、と思った。暗い海の瞳。どんな言葉で表したらいいのか分からなくて、込み上げてくる胸を掻きむしるような気持ちがもどかしくて、たぶん、一番近い言葉で表すのなら、好きだ、と思った。
     好きだ。でも、的確ではなかった。何と言えば伝わるのか見当もつかなかったし、何より言えば台無しになってしまう気がした。それで伝えなかった。
     伝えておけばよかった。拙くて、上手く言葉にできないソレはバツが悪くてカッコ悪かった。今じゃなくていいと思った。いつか、そのうち伝えられればいい。上手く言葉が見つかった時に。そういうのは傑の方が得意だけど、できれば自分から。
     そう、たとえば——世界が終わる時にでも。
     いつだって伝えられる。そう思っていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤❤😭😭👏👏😭😭😭😭😭🙏🙏🙏🙏🙏❤❤❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ダァリヤ

    MAIKING五夏夢小説(うっかり五夏という真理に触れてしまうモブになる小説)第3弾の予定でした。
    廉直女学院高等部に五が教育実習に行っていたら面白いな〜と思って書き始めたところで五は無免許と知り敢えなく断念。
    思い込み強めJDニコイチとか、JDカップルが生涯を誓うのを見て青い春を共に過ごした誰かを思い出す五の予定でした。
    高専五のわくわくクソガキ→教師五の厄介な大人クソガキ の変遷への解釈がしたかった
    教育実習

     その人は、五条先生と言った。
     教育実習の先生がどうやら美男子らしいという噂は、彼がやってくる数日前から学校中の噂になっていた。長身で、スラリとして猫のようにしなやかで、何よりも顔がいいらしい。女の子の噂は驚くほど早く広まる。季節外れの教育実習生を受け入れる私たちのクラスは、他のクラスからの剥き出しの好奇心に晒されていた。
     彼についての噂は、数日前に彼が実習前の挨拶に来たはいいものの約束の時間に遅れ、規則に厳しい教頭先生を初対面から激昂させたことに所以する。神経質そうな銀縁の眼鏡から垂れたグラスコードは怒りに揺れ、「教育者たるものっ」と怒った時の癖で語尾を跳ね上げさせながら教頭先生は彼に説教をした。
    1562

    recommended works