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    ろくろく

    色々なアカウント掛け持ち人間
    本垢@roku_0202
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    創作土地擬(都道府県)垢@roktam

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    ろくろく

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    なぁにこれ……
    ボ部
    「空と海〜」の二人っぽい

     後輩から見知らぬ気配を感じるようになった。

     いや、気配に見知らぬという表現はそぐわない。見知らぬと言うより心から知らない、後輩から話に聞いたこともないようなそんな感じ。あのウツボの二人のでも、ほかの寮生やリドルやジャミルなどの同級生、あるいは上級生や下級生、教師などの気配でもないナニカの気配が後輩をまるで覆うように包み込んでいる。
     ここまで言うとどこかイヤなもののように思えるけれど、しかし、それは不思議とイヤなものでは無いように思う。ここ最近眠れていないんですよ、いや、あれは眠れているからこそか……。などとゲームの合間に不穏なことを呟いていた後輩に、すわ妖しいものが取り憑いたのかと思ったのだが、どうにもそんな感じはしない。イヤなものと言うよりはイヤなものが巡り巡って擦り切れて、そのものの本質だけが残ったような。
     そう、アズールを覆うソレの気配は、生まれる前の魂とは少し違った透明なものだ。曖昧な存在だと言い換えてもいいかもしれない。

     そうしてそれを受け入れたのは、アズール本人の意思なのだろうと漠然と思う。存外、悪徳人魚三人衆などと称される彼らが身内に優しいことは知っていた。これが身内に含まれるか、というとそれは微妙な線だが。
     アズールがこちらへと近づいてくる。やっていたソシャゲを中断してスマホを机の上に置く。APも溢れるほどにはならないだろう。イベント中の今、それは避けたいところだ。
     ナニカが揺れた。まるで炎のように。いや、炎のようにって何?
    「アズール氏、それ、大丈夫なの?」
    「……ええ。あなたにも分かるようになったということは、契約通りに事が進めたようです」
    「そっか……?」
     彼の物言いに何か引っ掛かりを覚える。あなたにも分かるようになった……? 今まで分からなかった。そうだ、イデア自身が今まで分からなかっただけで、それは今までもずっと傍にいたような言い方。
    「それってさあ、もしかしてここ最近ずっといた?」
    「ええ、居ましたよ」
    「オオン……ソッカ……」
    「どこから声出してるんですか?」
     アズールが笑う。それにつられてアズールの周りのナニカも揺れた。小刻みに揺れるのがどうにも笑っているようで、イデアは首を傾げる。
    「今笑った?」
    「これは心から笑ったと言うよりは僕の真似をしている感じですね。彼女、何年も泣いてばかりだったそうでそれ以外の感情を忘れてしまったようで」
    「ふうん……。色々あったんだねぇ」
    「そうらしいですよ」
     近づいてきたアズールは定位置に座らず、窓の方へと向かう。
    「それで相談なんですが」
     僕が無事に彼女をかえせるように見守っていてはくれませんか?

     陽の光を浴びて、袖口に付けられた青色が輝いた。




    「待って、ストップ。ちょい待ち。え? アズール氏が還すってどういうこと? そもそも眠れなかった原因は彼女?」
     窓際から離れ、こちらにやって来たアズールが向かいに座る。いつも通りのはずなのに「彼女?」がいると思うとどこかに違和感があった。オルトを除いた第三者はイデアとアズールの勝負を見守ろうとはしないから、恐らくそういう意味での違和感だろう。決して、イデアが彼女を恐れているわけではない。
    「ええ、眠れなかった原因は彼女にあります。……ですがこの事態を引き起こしたのはそもそも僕のオーバーブロットでして。端的に申し上げると、人魚の負のエネルギーが、良くないモノだった彼女を引き寄せてしまったようで」
     なるほど、オーバーブロットによって引き寄せられる悪いものには、解決とともに霧散して行かないものもあるらしい。まるでそれは感情のようだった。この後輩がいなくなることを恐れて荒れた自分のように、それはオーバーブロットによって引き寄せられ、そのままアズールに取り付いたのだろう。
    「……明らかに氏が、『オーバーブロットをしたのが人魚だった』ってのが鍵ですな」
    「ええ、恐らく。元の彼女は人魚だったのだろうと僕は踏んでいます」
    「なるほどなあ……」
     自分のことを話しているのがわかるのだろうか、彼女がふわりふわりと揺れる。イデアにそれが分かるようになったのは、イデアが彼女の存在を認識したからだろう。単なる気配だったそれが、アズールに纏わりつくようにして存在する、決まった形のないナニカになっている。
     試しに彼女をつつく。何かに押し返されるような感覚がした。
     それを尻目にアズールは続ける。
    「僕がかえすという点については普通に契約を交わしたからですね。僕の夢の中でも散々に泣いていたので、どうして欲しいか何とか聞き出したところ『かえりたい』と仰るので」
     僕や周りの者、物に危害を加えないという契約の元僕がかえすことになりました。
     ここまで話し終え、アズールがおもむろに眼鏡を外す。後輩のかけているそれは、単なる視力矯正のためだけではなく、陽の光を遮るためでもあった。今の部室は窓にカーテンも引いていない。つまり、彼にとっては毒なのではないか、と思い立ったイデアが席を立とうとして。
     眼鏡を外したアズールの瞳が、いつもと違うことに気がついた。

     アズールの瞳は眼鏡を通さずに見ると、ハッキリと標準的な人間とは違うことが分かる。瞳孔がタコと同じく横長なのだ。二年生だったイデアが廊下で蹲る少年が人魚だと気づいたのは、その特徴がはっきりと目視できたからだった。
     NRCなどの魔法士養成学校では各種族についての詳細を学ぶ授業がある。特に、NRCやRSAではそこらの養成校よりも深く、広範囲に渡って。魔法士はその力が強大になればなるほど種族を跨いだ交流を持つ。だからこその采配であり、そこでイデアは魔法薬を飲んで陸に来る人魚が、まるでギフトのように元々の体の要素を一部引き継ぐ、あるいはそのままに残すことを学んでいた。
     閑話休題。とにかく、普段ならば彼の瞳は瞳孔が横に長い。
     それが今はどうだろう。彼の瞳孔は、眼鏡をかけている時と同じように丸を描いている。つまりそれは、その瞳が彼のものでは無いことを指していた。
    「…………どういうことなの。きみは僕がきみを大切にしていること、この間ので知ってるよね?」
    「ええ、もちろん。――ですが、彼女が外を見たいと言うのですから、それに応えるのは当然でしょう」
     当然イデアだって、商人としてのアズールが何事にも手を抜かないことは知っている。
     それは、目だけの話なのか。そう聞いたイデアにアズールが笑う。
    「いいえ、耳も」
    「耳も⁉  ……はぁ、なんか怒る気も失せたでこざる……。彼女は本当に君に悪いことしないんだよね? もし君が傷つくようなことがあったら許せないんだけど」
     途端、アズールがブレた。いや、これはアズールがブレた訳でも、イデアの視力が突発的に悪くなった訳でもないのだろう。
     む、とした顔のアズールがこちらを見る。その顔に眼鏡が乗っていないのが不思議だった。
    「ちょっと、彼女が怖がっているんですが」
    「オーン……ごめんちゃい」
    「イデアさん」
    「ごめんなさい」
    「よろしい。……今の僕は目と耳……視覚と聴覚だけを彼女と分け合っているようなものです。見ての通り目と耳以外は、こうして僕にまとわりつく形で存在しています」
    「うーん、拙者にもそれは分かる。氏が部屋に入って来た時は気配だけだったケドさあ、それにしても自分を半ば器にするのはリスク高では?」
    「彼女の入れ物を先に見つけずに、器を破壊してしまったので。まあ、そもそもがもうひび割れてボロボロだったというのもありますが」
    「どうやって破壊したかは追々聞くとして。……んで、拙者に見守れって具体的にはどうすればいいんですかな?」
     アズールが眼鏡をかけ直す。
    「そう難しいことではありませんし、イデアさんが何かを用意するということも必要ありません」
    「つまり、」
     アズールがイデアの言葉を引き継ぐように言った。
    「ただ見守って」


     アズールがただ見守れというのなら、他にイデアが出来ることはない。そもそも、なにかして欲しいのならば、イデアでなくともあの双子に十分な対価と共に取り引きを持ちかけるはずだ。それに二年は三年よりもなんだかんだで団結力がある。とイデアは思っている。(そして見る限り、二年よりも一年の方が以下省略。この学園には学年が上がるごと、団結力が減退する呪いでもかけられているのか……?)
     あの後アズールはいつも通り部活の時間を過ごし、いつも通りの時間に帰っていった。その頃にはアズールの感情の起伏に合わせてか揺れる彼女は、思ったよりも気にならなくはなっていたし、帰り際のあの揺れ方がどうにも手を振っていたように思えて仕方なくなっていた。とどのつまり、イデアは後輩とそれに憑く彼女にほだされてしまったのだ。
     ところでイデアは教師陣も手を焼く引きこもりだという自負がある。アズールに見守ることを頼まれてはいても、普段の生活を変える予定は一切無かった。部活の活動は週一だと決めているから、イデアがアズールと顔を合わせるのは二人揃って飛行術の補習組になるか、夜中――日を跨ぐか跨がないか位の時間だ――に購買に顔を出した時くらいしかない。そもそも、アズールがそんな夜中に出歩くのはラウンジと寮の仕事が不運にも重なり、遅くまで机に向かって作業をした日であり、その確率はソシャゲのSSRの排出率よりも低い。
     そんな程度で見守りは大丈夫なのか、とイデアは思ったが、それを伝えるとアズールが「ではあなたもリモートから通学に切り替えると?」などと言ってきそうだったため言うのをやめた。いや、言ってきそうなのではなくアズールならば言ってくる。クスクス、と意地の悪い笑い声まで聞こえてくるようで、イデアはその選択肢を最初から無かったことにした。
     まあ、アズールがイデアでいいと判断したのなら、彼女にとってもそれでいいのだ。アズールは契約者に対しては真摯であるから、無駄になるようなことはしない。それに、一週間という区切りも都合がいいのだろう。――彼女がいつまでアズールに取り憑いているのか不明だが。



    「イデアさんこんにちは」
    「アズ氏乙乙~」
     部室の扉が開き、後輩がいつもの胡散臭い笑顔を浮かべながら顔を出した。それと同時に、アズールを覆う彼女がふわふわと揺れる。後輩が「おや」と呟き、そして笑った。
    「どしたん?」
    「いえ、前回は全く気がつかなかった事に今更気づいて驚いたそうですよ」
    「へえ……。話もできるようになったんだ。ん? もしかして、直接脳内に……?」
     アズールはそのままボードゲームが収納された棚へと向かう。前回の部活ではイデアがボードゲームを選んだから、今回はアズールが選ぶ番だ。棚を物色しながら、アズールが笑って言う。
    「特にフロイドから影響を多く受けているようで……。元々もおしゃべりな女性だったのではないでしょうか」
     彼女がさまざまに形を変える。確かにここまで騒がし、もとい、感情豊かなのは二学年ではフロイドかカリムかだろう。そうしてフロイドの方がアズールと過ごす時間が長い。
    「華麗なスルー。そこにシビアコ。まあフロイド氏のインパクトの方が一見は強いよねわかるわかる」
     アズールが多くの時間を共に過ごすのはフロイドだけではない。しかし、大抵の人間は第一印象でフロイドの方だけを警戒する。それはフロイドが華やかであるせいなのか、それともその片割れが静かに身を潜ませているからなのか、イデアには分からない。が、少なくともジェイド・リーチと言う男は腹にいくつもの怪物を飼っているはずだ。そうでなければイデアは愛する弟にアスレチック・ギアを作る羽目になっていないだろう。……一体どこからあの情報が漏れたのか。それを思うとイデアは夜も眠れない。勿論恐怖で。
     そもそもフロイドはオクタヴィネルの寮生としては規格外なのだ。本来ならばアズールやジェイドのような、他人を絡めとる事を得意とする生徒がオクタヴィネルには多い。いつの間にかオクタヴィネル寮生の手のひらの上だった、なんて人間はこの学園に多くいるだろう。
    「僕からは何とも言えませんが、ジェイドは意識して振舞っているようではありますよ」
    「ふうん……」
    「まあ、ジェイドが意識しているのは丸分かりなんですが」
     今日はこれにします。と机に置かれたのは儲けた金額で勝敗を決めるカードゲームで、アズールが気に入っている物だった。アズールが元々の運の悪さを撥ね返すプレイを見せるのが、対戦相手としても面白いとイデアは思っている。勿論、運がすべてのゲームでルーレットを祈るように回すアズールを見るのも面白いのだが。
     アズールが箱の上に手を置くと、彼女もそれに倣って箱に触る。箱のザリザリしていた部分に触れたのだろう彼女が驚いたように飛び跳ねた。……ようにイデアは思った。一週間会わなかっただけで随分と感情が豊かになっている。それは確かに感情を表に出すことの多い、フロイドの影響だろう。

    「そう言えば、彼女、そろそろかえせそうですよ」
    「へ、え……? 随分と早いんでござるなあ? いや、まあ還れるって言うならいい事なんだろうけど」
     トークンを摘まみながらアズールがなんとなしにそう言った。初めにアズールが勝って、二回戦目でイデアが勝っての三戦目。これで勝負が決まるゲーム中にその話を振るのは、場外戦術の一環なのだろうか、と考えて止めた。ただ単に現状報告だろうから。
    「いえ、先程も言った通り、彼女、フロイドの影響を多く受けているんですが、フロイドがあまりにも日々を楽しそうに過ごすものだから、どうしても早く生まれたいという気持ちが高まったそうで」
    「いやフロイド氏強くない?」
    「あいつは……。まあ、そうですね。彼らは自分がしたいこと、やりたいことをその通りやり遂げる力がある。――そうして僕は、幼い頃彼らが羨ましかった」
    「なんで?」
     アズールが目を伏せた。
    「いえ、彼らだけではなく、僕以外の全ての者が羨ましくて羨ましくて仕方が無かった。そういう時期があったんです。そして、もしかしたら今もそうなのかもしれない」
     大きな壺の向こう側から、何かがこちらを探っているような、そんな気がした。
     イデアが動きを鈍らせたのが分かったのだろう。アズールが笑う。
    「おや、イデアさん。今の動きは悪手なのでは無いですか? ほら、今ので市場が閉じたので総合して僕の勝ちですよ」
    「……ん? あー! やっちゃった……」
    「勝負中に油断なんて良い御身分ですね」
    「いやアズ氏が急に闇ちらつかせるからでしょうが~。オタクはキャラクターの隠された闇ってのが大好物だって前に言ったじゃん!」
    「おやおや」
    「それはジェ氏ィ~! まあでも、アズール氏って拙者からしたらピカピカ光って宝石みたいだけどね。ほら、宝石って磨かなきゃ光らないし、光を通して落とす影がその色に染まるのってめちゃものすごく綺麗なワケ」
     そして宝石は人を狂わせる。実際、世界中では宝石を巡って争い滅んだ個人、家、国は数知れない。ヒトに利用されるだけの魔法石とは明らかに一線を画す点だ、といつか何かで読んだ気もする。そしてアズールは明らかに「ヒトを狂わせる側」だ。現に今だって、この学園の一部にいるのだ。そういう人間が。
    「まあ、羨ましいとは思いますが、僕は決して彼らにはなれませんからね。もちろんこれは悲観ではないですよ。ただ、僕は僕であるというだけのことです」
     どこか憑き物が落ちたような声だった。いや、現在進行形で「彼女」というか何かは憑いているのだが。
     思えば、オーバーブロットする直前の彼はどこかおかしかった。ずっとずっと前だけを見て、周囲を見る余裕もないまま走り続けていたような。それを体当たりする様に引き留めたのは、あの打ち捨てられた寮に住むという一年生だと。イデアはアズール本人から確かに聞いたのだ。イデアでも、フロイドでもジェイドでもない、一年生だ、と確かにこの耳で。
     迫る黒いものを見なかったフリをする。
    「うーん哲学。拙者にはちょっとわからないですね……」



     イデアさん、今来ること出来ますか?
     なんて連絡が入ったのは日付も変わる頃だった。いつもならこんな時間に起きていることの少ない後輩の、そのメッセージに直ぐに彼女のことだと気づく。この間の部活で彼女がそろそろ還せそうだ、と言っていたし。既読を付けると、アズールは次いで場所の名を出し、来れるならここに来て欲しいと言う。短くおkとだけ返事をし、ポッドで眠るオルトにメッセージを残して部屋を出た。
     夜出歩くのはイデアにとってそれほど特別なイベントではない。寧ろ、他の生徒がいないだけ、昼間よりも気が楽だった。夜間の見回りを担当するゴーストも、それほど夜出歩くことに対して文句をつけてきたりはしない。精々が早く寝るんだぞ、とまるで家族のような心配をしてくるくらいで。とどのつまり、イデアにとっては非常に過ごしやすい時間帯なのだった。
     しかし、そこに「呼び出された」という条件が加われば、途端に非日常になる。呼び出された湖まで来ると、アズールはしゃがみ込んで湖にうつる景色を眺めていた。
    「氏~」
    「おや、イデアさん。意外と早かったですね」
    「意外とって何でござるか~? これでも拙者、深夜徘徊常習者故」
    「オルトさんに心配されますよ」
    「オルトにはメッセ残してるしセフセフ」
     イデアの言葉にそういう問題でしょうか、と呟く後輩も今日はあの双子に言わずに出てきているはずだ。もし、手間取って双子に探しに来られたらやばい。主にイデアのSAN値が。
    「んで、こんな時間に呼んだってことは彼女、ついに還れるって事でFA?」
    「FAです」
     彼が頷く。
    「意外と早かったッスなあ~」
    「そうですね。ですが、彼女がこれほど早くこちらに生まれることが出来るというのは、喜ばしい事です」
    「ん?? 生まれる。……???」
     生まれる、とは。イデアが困惑したのが分かったのか、アズールが首を傾げる。
    「ええ、『生まれる』です」
     僕が彼女と交わした約束は、孵す、ですから。なんて言うアズールの声が遠い。
     かえす。還す。孵す。なるほど。
     イデアはてっきり、「還す」の方だと思ったのだ。というか、元の形から大きく変わってしまっている対象が「かえりたい」というのなら、大抵は「帰りたい」か「返りたい」あるいは「還りたい」だ。まさか「孵りたい」だなんて思っても見なかった。
     アズールは自身が何を孵そうとしているのか分かっているのだろうか。現実でも創作でも「自身が何を孵そうとしているか分からない」は二分の一の確率で死亡フラグになり得る。そうしてこの後輩のことだ、確実に死亡フラグをその場に突き立てるだろう。
    「あ、アズール氏、それは」
    「大丈夫ですよ」
     そう言ってアズールは湖に手を浸ける。水面が揺らいで、丸の月が形を崩した。

     アズールを覆っていた「彼女」が、湖に浸けられている手の方へ集まっていく。そうしてそこで何かを思い悩むように、いや、怖がっていた彼女は、アズールの大丈夫ですよという声に背を押されるように、アズールから離れ湖の中へと飛び込んだ。
    「アズ氏」
    「無事に孵ったようですよ」
     アズールが指をさすと、水面が揺らいで幼い子どもの足が飛び出る。
    「エッ犬神家……じゃない! 溺れてない⁉」
    「犬神家とは……? それに、溺れるような存在では無いですよ彼女」
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