バーソロミュー・ロバーツは独身である。
今年でめでたく三十九歳の誕生日を迎えて、言い訳無用文句なしのアラフォー男性になったばかりの誇り高き独身貴族である。
そう、自ら独り身を貫いている、というところが重要だ。バーソロミューは決して魅力のない男ではない。むしろ、この世の男性諸氏の平均値を計るとすれば、その遥か上澄みに立って然るべき美丈夫である。
無造作に整えたブルネットの髪と日に焼けた肌は若々しく、すらりとした長身から伸びる長い手足は程よく逞しい。広い肩幅も相成って体育会系のような肉体とは裏腹に、すっきりと均整のとれた顔立ちは理知的な印象を植えつける。マリンブルーの瞳は涼やかな光を帯び、薄い唇は時に大人っぽく時に子供っぽく微笑み、声は耳心地のよい低さで落ち着いた言葉を紡ぐ。常に冷静で、騒がず、場を乱さず、己の容姿や能力を自負はすれどひけらかさない。おおよそ、バーソロミュー・ロバーツとはそういう人物なのである。
なので、彼はとてもモテるのである。異性にも同性にも。それはそれはもうとてつもなく、モテているのである。
そして————モテすぎて困り果てた結果が、四十年弱に渡るおひとり様状態なのである。
想像してみてほしい。学校でも、職場でも、休日の気分転換にぶらりと歩く街中ですら、惚れた目をした人々に声を掛けられ続ける。どれだけ躱しても、目立たないようにふるまってみても、ふとしたきっかけで好意を持たれてしまう。ある程度ならばいいだろう。しかし度が過ぎるとただただ鬱陶しい。少なくともバーソロミューは、うんざりするほどそういう連中を相手してきたのである。
そうした中で、実際に交際したこともあった。男女ともに。肉体関係にまで至ったことも(これは女性限定だが)それなりにあった。だが、どれもこれもまるで長続きしなかった。交際相手ではなく、バーソロミューの方がだ。
彼はなによりも、自由を愛する性である。人生という名の海を往くにあたり、船に積む荷はなるべく軽く、己の心のままに舵を切ることを第一としている。だから、航路の選択に介在しかねない『他人』を同乗させる未来をうまく想像できない。隣にいる人間がそれほどのものかと問われてしまうと、首を傾げるしかない。であれば別れた方がお互いのためだと、すっぱり結論を出せてしまうのだ。
それでも、二十を少し超えた頃までは諦め悪く探そうとしたりもした。自分にも、同じ船に乗りたい、乗せてもいいと思えるような誰かがいるのではないか。『運命』と呼べるような相手が、いつか現れてくれるのではないか、と。そうした葛藤と奮闘を踏まえて、バーソロミューは二十代半ばになったあたりで、自身にこう結論を下した。
そこになければないですね、と。
吹っ切れてしまえば存外、楽なものであった。むしろ何故こんなにも悩んでいたのだろうと、これまで浪費した無駄な時間に歯噛みするくらいであった。
かくして、バーソロミューは一人で生きることにした。
なにせ彼には面倒を見るべき親もいないし、相続を考えるべき親族もいない。生涯を過ごせる自宅と貯金さえ工面できれば、独り身の男でも問題なく死ぬまで生活できるだろう。現代社会の豊かさと多様性には感謝せねばならないなと、人生設計を気楽に組み立てなおして、今に至るというわけだ。