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    はんちょー

    らくがきだったりいろいろ

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    はんちょー

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    2025/1/12のスパコミ関西で配布した無料配布SSでした。
    年明けてすぐなのでニューイヤーでハッピーなパーバソのお話にしました。

    ハッピーニューイヤーパーバソ無配 時計台の針は、十二時十五分を示している。
     新しい年の幕開けを祝いきって満足した人々は、続々とそれぞれの帰路につき始めていた。先ほどまでの割れるような歓声も、拍手も、今はすっかり聞こえてこない。間もなく夜は本来の静けさを取り戻すだろう。
     そんな中、パーシヴァルはひとり、いまだに足を広場に留めていた。
     ぞろぞろと駅の方へ引き上げていく群衆を見つめる目は、真冬の寒さに負けることなくあたたかい。ここに集った彼らの一年の幸福を祈りつつ、ふっと時計台を仰ぎ見る。天を差した高い鼻にひらりと雪が落ちては、すぐに融けて肌に沁み込んだ。
     過ぎ行く時を眺める目には、裏腹に、寂しげな色がにじんでいる。
     そして、大きな長針が白化粧を落としながら、十六分に進んだところ。
    「———パーシヴァル!」
     パーシヴァルはすぐさま振り向き、ぱっと顔を輝かせた。
     待ち人が、人の波に逆らって泳いでくる。
    「バーソロミュー!」
     大きく手を振ると、バーソロミューは遠目にもわかるほど安堵していた。ますます船足を速め、人込みの合間を器用に抜けていき、目標地点のぴったり手前で錨を下ろした。
     真っ白な息を切らせて、氷点下だというのに顔中を汗まみれにしてやってきた恋人を、パーシヴァルはにこやかに迎え入れた。
     ふたりともなにも言わない時間が続く。
     先に、どうにか呼吸を整えたバーソロミューがカラカラに掠れた声で尋ねた。
    「……どれくらい待たせた?」
    「そんなには」
    「こら」
     すかさず伸びてきた褐色の指先が、誤魔化そうとした鼻をぎゅっとつまむ。
    「そういうのはナシだ。本当は?」
    「……三十分か、四十分前には着いていた、かな」
    「だろうね」
     バーソロミューはため息を抑えられなかった。
     なにせ、待ち合わせ時間は十一時五十分だった。加えてパーシヴァルの性格ならばその十分前には現地入りしていただろうし、バーソロミューも本来はそうするつもりだった。
     しかし、予想外の積雪で電車が止まり、このざまだ。
     十五分の遅刻。取るに足らないと言うには、今回のやらかしはあまりにも悔やまれた。
     新年の訪れを真に祝える日は、年に一度だけなのだから。
     それに。
     つまむ前から真っ赤っかの鼻先から、指を離す。
     ゆっくりと撫でた頬は、普段のぬくもりを知っているからこそ、降りしきる雪よりもずっと冷たく思えた。
     胸がきしみ、鼻がつんと詰まる。
    「……冷たいね」
    「まあ、この寒さだから」
    「ごめん」
    「いいえ」
     伏せかけた瞳を拾い上げるように、パーシヴァルは痛んだ毛先をそっとかき上げた。
     会えてよかった。来てくれてうれしい。
     そんなふうに、喜びに満ちた顔をされてしまう。
     ずるい、と、バーソロミューはいつもながらに歯噛みした。これではもう、謝罪も弁明もできない。
     ただ、その代わりに何と言うべきかは、はっきりとわかっていた。
     観念して、瞬きをする。
     パーシヴァルの冷え切った指先を握り返して、微笑む。
    「ハッピーニューイヤー。パーシー」
    「ハッピーニューイヤー。バート」
     心のこもった決まり文句はすぐに返された。それだけで、バーソロミューは少しだけ晴れやかな気持ちになれた。
     しかし、やはり悔しさは紛れない。
    「これを十五分前に言えていればなあ……」
    「来年リベンジしましょう」
    「来年。……ふ、そうか。来年か」
    「? なにか?」
    「いいや」
     ああ、そうだ。来年があるのか。
     そんな当たり前のことを、パーシヴァルは当たり前のように信じている。
     若いなあ、と思う。
     だが、そういう無責任な若さに安堵させられているのも否定はできない。現実主義で悲観的な自分に、彼はいつだって根拠のない夢を見せてくれる。
     それを、悪くないと思ってしまったからには、覚めない努力をしたいものだ。
     そのため……というわけではないが。
    「リベンジより、君にお詫びの品を差し上げる方が先かな、と思って」
     今度はバーソロミューの方が誤魔化すように笑ってみせる。すると、きょとんと瞬いてすぐにパーシヴァルの瞳は優しく細まった。
    「では、遠慮なく」
    「わかってきたな、君も」
    「何をいただけるのかな?」
    「手袋なんてどうだい?」
    「いいね。ぜひとも、素敵なものを見繕ってほしい」
    「お任せを、サー」
     バーソロミューが得意げに片目を閉じると、パーシヴァルは朗らかな笑みを顔いっぱいに浮かべた。
     初売りを狙って、彼の大きな手指をすっぽり温めてくれる品を探し出すこと。彼とともに迎える新年最初の抱負として、これ以上にふさわしいものもないだろう。
     バーソロミューはそう思うことにした。
     そう思っていられる時間を、来年までつなげていければいいな、とも。


    (おわり)
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